第12話 そして始まる英雄譚!

「……ごめん。俺の独断で決めちゃって」


 俺は伯爵から出してもらった竜車の荷台で3人に頭を下げた。


「いえ、良いんです。レグさんが出来ると思ったからイエスと言ったんですから」

「そうだよ! レグがいなきゃボクたちはずっとFランクだったんだから!」

「……頑張って、歌う。頑張る」

「ありがとう、3人とも! ダンジョンに潜る作戦だが……今までとやることは変わらない。マリの魔法は攪乱かくらん目的で使う。Lv2だからな。モンスターには、の攻撃で死んでもらう」


 俺の言葉に、彼女たちはこくりと頷く。


「だが、俺の『身代わりダミー・ダメージ』は万能じゃない。あれは1度に1人しか守れないんだ。だから、3人とも万全の状態で備えてくれ」

「わ、分かりました」

「今回の依頼は救出クエストだ。時間が物を言う。ダンジョンをおちおち探索している時間は無い。最短距離で突っ切るんだ。お前ら体力に自信は……あるか?」

「大丈夫です。こう見えても走るのは得意です」


 と言ったのはフェリ。


「うん。ボクも。Lv1の風魔法を使えばボク1人だけなら浮かせれるから」

「……私は、苦手……」

「じゃあエマは俺がかつぐ。フェリ、お前に先頭を任せても良いか?」

「わ、私ですか?」

「ああ。俺が最後尾で全体を俯瞰ふかんしながら進む。この中で前衛って言えば、俺かお前くらいだからさ」


 フェリは剣士だ。扱いやすい小盾と、小回りの利く長剣をもって戦う優れた戦士である。


「わ、分かりました。頑張ります」

「『集敵特性トレイン』……で、囲まれて……動けなくなったら?」


 エマが心配そうに聞いてくる。


だ。俺の2つ名は知ってるだろ?」


 俺の言葉に3人はこくりと頷いた。


「ねえ、レグ」

「どした?」


 その時、マリが聞きづらそうに聞いて来た。


 竜車が減速に入る。そろそろダンジョンにつくのだろう。


 彼女たちを守りながら最下層に向かう。――できるだろうか?


 愚問だ。俺達だからこそ、出来る話だ。


「……『ヴィクトル』の人たちのこと、怒ってないの?」

「急にどうした?」

「レグはパーティーをクビになったから……。『ヴィクトル』の人たちに、怒ってないのかなって」

「怒ってるよ」

「じゃ、じゃあどうしてこのクエストを受けたの?」

「うん。そうだな、ここで1つ。冒険者の心構えを教えよう」


 竜車が止まる。すぐ近くにダンジョンの入り口が見えた。


「クエストに。受けたクエストは何があろうと絶対に達成するべし、だ」


 3人はぽかんとした顔で俺を見る。


「そりゃ、俺は『ヴィクトル』の奴らには怒ってるよ。でも、今回の発注者はリッチー……。伯爵だ。伯爵には怒ってない。変な奴だとは思っているが……」


 変なやつ、といったところで3人の首が縦に動いた。


 やっぱあいつどっかおかしいよな。


「それで、クエストは受注しちまった。受けたんだったら、それをきちんと達成するのが冒険者だ。OK?」

「お、おーけー」


 それに、良い意趣返しではないか。


 自分たちが切り捨てた男が助けに来る。

 アイツらには良い薬となるはずである。


「んじゃ、行くぞ。ダンジョンに」


 レグは盾を背負った。久しぶりのダンジョンである。


 テンション上がるな。


「う、うん!」

「Eランクになったばっかの駆け出しパーティーがSランクパーティーを助け出す。ロマンの塊だな。他の冒険者が真似しないことを祈ろう」


 俺はダンジョンの入り口から下に降りていく。それの後ろから3人がついてくる。


「死なない程度に頑張るぞ!」

「「「おー!!」」」


 ――――――――――


 フェリがレグをパーティーに誘ったのは文字通り『ダメもと』だった。相手は元Sランクパーティーの盾役タンク。その日、運良く『ヴィクトル』の近くのテーブルで食事を取っていると彼らの声が聞こえてきたのだ。


 レグのことは噂で聞いていた。


 だから、そんな彼がパーティーをクビになったと聞くとすぐに後ろを追いかけて宿を特定した。


 自分のパーティーがどうしようもないことは知っていた。

 自分たちがどうしようもないことは知っていた。


 それでも、話だけでも聞いてくれるレグに感謝した。初めに断られた時、仕方ないことだと思った。どうしようもない事だと思った。


 けれど、こんな自分たちとパーティーを組むと言ってくれた時、文字通り世界が明るくなったのだ。まだ、生きていけると思った。


「うぉぉおおおおおッ!!」


 戦場にレグの声が響く。同時にエマの歌声が辺りに響く。


 背中にエマを背負ったまま、レグが暴れている。エマはモンスターを見ると気絶する。だから、目をしっかりつぶって一生懸命に歌っている。


「……ふっ」


 マリも、フェリも、その光景を見て乾いた笑いをあげてしまった。


 目の前に起きていることが到底、


 レグは『集敵特性トレイン』で集まってきたモンスターの群れに突っ込むと、複数体まとめてダンジョンの壁にモンスターたちを叩きつけて、潰す。もちろん、モンスターたちが焦ってレグに攻撃をする。


 すると、そのうちの何割かはフェリに向かって攻撃が飛んでくる。


 レグはエマとマリに向かう攻撃だけを盾で器用に防ぎ、フェリに『身代わりダミー・ダメージ』を貼ることで全てを対処したのだ。


 モンスターたちが自分の攻撃で死んでいく中、レグは鬼神の如き動きで攻撃してこないモンスターたちを狩りつくしていく。


 これが、極地Sランクなのか。


 これが、極地レグなのか。


「……すごい」


 ものの数分で集まってきたモンスターを全て倒しきる。


「行こう」

「う、うん」


 彼らは気が付かなかった。


『ヴィクトル』が数日かけて突き進んだ道を、わずか数時間で攻略していることなど。

『ヴィクトル』が辛い思いをしながら乗り切った十数階層を簡単に突破していることなど。


 そして何よりも、自分たちが一級の戦力になっていることに。


「~~~~♪」


 エマの綺麗な歌声が3人をバフする。さすれば、


 マリの魔法、そのレベルが2。それは、“歌姫“ルーナですらもたどり着けなかった境地。『集敵特性トレイン』という特殊な性質だから成せる技。


 フェリの攻撃、それがダンジョンのモンスターに。盾でしっかり攻撃を受け、刃で攻撃する。万年Fランクだった彼女が、支援によって前線で戦えるようになる。そんなバフ、エマにしか出来ない。


 そして、そうなればレグは気を配る必要が無くなる。


 『集敵ヘイト』でモンスターを集めることが出来る。


 さすれば、鬼神レグが全てを叩きのめす。




 これは時代の転換点だ。


 『ヴィクトル』の時代は終わり、『ミストルテイン』の時代が始まる。

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