第6話 初陣の冒険者!

「まずは新しい依頼を受けよう」

「そ、そうですね」


 俺は『ヴィクトルあいつら』のことを忘れるためにそう言う。


 もう終わったパーティーだ。未練がましくこだわるのは良くない。


「何が良い?」


 俺は依頼板クエストボードに手をついて彼女たちを振り返った。クエストはたくさんある。どれから始めたって良いだろう。


「あの……。私たちはFランクパーティーなので、Fランク依頼しか受けられないです」

「ん? あー……。そんなのあったな……」


 依頼クエストにもランクが振られている。クエストを受けるためにはそのランク帯以上でなければならない。つまり、FランクパーティーはFランクのものしか受けられない。


「くっそ……。ずっとSランクあそこにいたからそんなの忘れてたぜ……」


 そもそも依頼はミディが取ってきていた。彼女はわがままなので自分の行きたいクエスト以外に行きたくないとぬかすのだ。


「ごめんなさい。私たちが弱いばっかりに」

「良いって。気にしてないから」


 俺は頭を下げるフェリを優しく諭すと、Fランク依頼の紙を探す。中々見つからない。


 しばらく探して…………見つけた。


「ゴブリンの討伐、ねえ」


 鉄板も鉄板。『ゴブリンも殺さずに冒険者にはなれない』と言われるほど冒険者としてやっていくなら避けては通れないモンスターだ。


 依頼にはゴブリン5体の討伐と書いてあった。


「5体しか、か」


 俺がそうため息をつくと、


「ご、5体……も……」


 と、エマが驚愕。


「ど、どうしよ。か、返す?」


 さらにフェリが顔を真っ青にして、


「ボクが頑張るよ……」


 最後にマリが震える声で決意を口にした。


「……なんでそんなに顔が暗いんだ? ゴブリン5体じゃ不服だったか?」

「そうじゃないんです。あの、その……。私たち、ゴブリンを倒したことが無くて、ですね」

「………………?」


 何を言っているんだろう?

 だってそれ、『生まれてから呼吸したこと無いです』レべルの妄言だぞ??


「というか、このパーティーでモンスターを倒したことがないです……」

「じゃあ、普段は何やって稼いでんの」

「薬草の採取で」

「ん? あれは子供の小遣い稼ぎじゃないの?」


 俺がそう言った瞬間、彼女たちは顔を見合わせて申し訳なさそうにうつむいた。


 あー、マジなんだ……。


「お前らの普段のレベルが良く分かった。とにかく俺に任せろ。森に行こう」


 俺は彼女たちを引っ張るようにして森に向かった。


 道中で魔法や攻撃が飛んでくるから街から出るのが、とても大変だった。


「マリ。ウチのパーティーのメイン火力はお前になる。現時点で何Lvの魔法が使える?」

「ボクはLv2までなら使えるよ」

「Lv2、か」


 魔法には威力に応じてLvが決められている。魔法使いたちが定めている魔法は最大でLvは5までと言っているし、学校でもLv5までしか教えないそうだ。


 独学でLv2の魔法が使えるなら大したものだろう。大したものだが、冒険者としてやっていくなら最低でもLv3は使えるようにならないと話にならない。


 何故なら明確な殺傷レベルがLv3だからだ。

 細かく言うと、


 Lv1は威嚇レベル。

 Lv2は傷害レベル。

 Lv3は殺傷レベル。

 Lv4は中規模殺傷レベル。

 Lv5は大規模殺傷レベル。


 である。ちなみに俺の【因果応報】はこの1つ上、“魔女”が使うLv6魔法、『戦術級魔法』を反撃したことがある。


「まあ、Lv2でも魔法が使えないよりマシだ。頼むぞ、マリ」

「う、うん。レグさん、1つ聞いて」

「レグで良いぞ。何だ?」

「病気が魔法が体に飲み込まれる。だから、その時は」

「任せろ。俺がしっかり守ってやるよ」


 俺の言葉にほっとしたのか、マリは安心して杖を握った。



 パーティーで森に入って、俺はすぐに異変に気が付いた。エマの身体から何かが出ている。目に見えるようなものじゃなく、透明の煌めく様なものが出ているのだ。どうやって見ているのかと聞かれれば不思議なのだが、透明に見えているんだから仕方ない。見えるものは見えるのだ。


「エマ、それは?」

「『集敵特性トレイン』……。モンスターが近くにいると、いつも、こう」

「なるほど」


 噂には聞くが、『集敵特性トレイン』はこうなるのか。


「なあ聞いていいか?」

「……ん?」

「なんで『集敵特性トレイン』なのに盗賊になったんだ?」

「冒険者ギルドで、職業ジョブの、オススメを聞いたら、盗賊だって」

「身体が小さいからか? 『集敵特性トレイン』ってことは言ったのか?」

「……ううん。言ったら、冒険者には、なれないから」

「そうか」


 それは、そうだ。当たり前だ。


 彼女たちは何かの理由があって、冒険者になった。そこにどんな事情があったのか俺は知らないが娼婦ではなく冒険者にならざるを得ない理由があったのであれば、それは仲間である俺が尊重してあげないと駄目なものであるはずだ。


「じゃあ、集めてくれ。モンスターを」

「うん」


 俺は盾を構える。


「ごふッ。ガァッ!」


 突然、何も無かった森の中が急に騒がしくなった。見ると、森の中から突然沸いたようにゴブリンたちがいつのまにか近くに立っているではないか。


「よし、集まってきたぞっ!」


 よく見ると、ゴブリンたちの中には中級職のゴブリン・メイジが混ざっている。これはチャンスだ。


「あ、う。ご、ゴブリンが……」


 だが、それを見たエマが気絶した。


「嘘ォ!?」

「エマちゃんは持病でモンスターにいくつもトラウマがあって!!」

「先に言ってくれ!!!」


 フェリの言葉に俺は返す。


「マリ! 行けるか!?」

「大丈夫……っ!!」


 マリは杖を構えて魔力を練る。目の前にゴブリンが飛び出してきた。


「行ける! 『爆ぜて』!」


 マリの撃ったのは『火球ファイア・ボール』。


 ドォン! と音を立てて発射。ゴブリンにぶつかる。そして、爆発。


 だが、ゴブリンは火傷を負いながらもエマ目指して前進。流石にLv2傷害レベルじゃここまでか。


「くっ……。も、もう一度!!」

「いや、ここは俺の仕事だ」


 火傷を負ったゴブリンを俺が盾ですり潰す。「グェ……」と声にならない声を出してゴブリンが死ぬ。


「あ、ぅ……」


 魔法を使ったばかりのマリが急に苦しそうな声を上げ始める。


「どした!?」

「ま、魔力が……」


 『魔力枯渇症候群オーバー』の発作! 


 次の瞬間、ゴブリン・メイジがエマに向かって魔法を放った。Lv3殺傷レベルの『火弾ファイヤ・バレット』だ。


 空気を切り裂く炎の弾丸がエマに向かってまっすぐ飛ぶが、途中でガクン! と向きを急に変える。


「『身代わりダミー・ダメージ』っ!!」


 俺の言葉でスキルが発動。マリの周囲を光の膜がおおう。ダメージの受け代わり。


 炎の弾丸がマリの頭にまっすぐ飛んでいって、スキルの光に触れた瞬間に弾が


 バツンッツツ!!!


 激しい音を上げて、ゴブリン・メイジの頭が俺のスキルの効果で木端微塵になった。


「フェリ! エマは任せた!! こっちだ雑魚ども!!」


 続けて俺は盾を何度も殴りつける。ガン! ガン!! と金属製の嫌な音が響き渡る。盾役タンクなら誰でも持ってるスキル、『集敵ヘイト』だ。


 その瞬間、エマに向かっていた敵が一斉に俺を向いた。


「……エマの体質より、俺のスキルの方が上か!」


 これは1つ良い事を知れた。


集敵ヘイト』は10m以内の敵にしか効果がないが、敵を向かせる効果は集敵特性トレインより上。


 集敵特性トレインは100m規模で発動するが、敵を向かせる効果は『集敵ヘイト』よりも下。


「良い盾役タンクがいなかったんだろうな」


 Fランクならそれも仕方ない。


 『集敵ヘイト』の効果でゴブリンの剣が俺に向かって振るわれる。


 絶対にけられない位置。絶対に防げない位置。


 だからこそ、【因果応報】は発動する――と、思った瞬間、ゴブリンの剣がゴブリンの手からすっぽ抜けてフェリに向かって飛んでいった。


 そうなるんかいっ!!


「『身代わりダミー・ダメージ』ッ!!」


 スキルが発動。フェリの身体を守る様な光が生まれて、剣がそれに直撃。次の瞬間、剣が粉々に空中で砕け、それと同時に剣を振るったゴブリンが真っ二つにけた。


 集まっていたゴブリンたちはそれを見て、恐怖のあまり震えだした。だが、逃げられない。『集敵特性トレイン』がしっかりとゴブリンたちを縛り上げている。


「2人とも大丈夫か?」

「な、なんとか……」

「ボクは無事だよ!!」


 俺は2人の声に安堵あんど


「よし、さっさと終わらせるぞッ!!」


 そう言って俺はゴブリンからの攻撃を盾で受ける。



 俺達の初陣は、森の中のゴブリンを壊滅させるという華々しい戦果で飾られたのだった。

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