第5話  人気者の冒険者!

 俺達がギルドに入ると、周囲の冒険者たちの視線を一身に集めた。そして、俺達を見ながらひそひそと話が始まる。どうやら俺がクビになったという大ニュースは知れ渡っているらしい。


 やれやれ、人気者は辛いね。


「おいおいレグぅ。前のパーティーをクビになったんだってぇ?」

「Sランクパーティーをクビになるってなにやらかしたんだよ」

「俺たちのパーティーに入れてやろうかぁ? おっと、クビになったら3ランク降格だから俺たちにのパーティーには入れないか」

「俺たちAランクだからなぁ」


 ぎゃはは、と朝っぱらから元気な笑い声を聞かせてくれる顔なじみの冒険者たちに俺は笑って返した。


「残念だが、俺はもうパーティーに入った」

「は……?」


 何言ってんだこいつ……。みたいな感じでこっちを見てくる冒険者たち。


 そりゃそうだ。幾ら元Sランクパーティーの盾役タンクだろうと、クビになった冒険者をこんなにはやくむかえ入れてくれるパーティーなんてあるわけがない。


「見ろ、彼女たちが俺の新しいパーティーメンバーだ」


 俺はそう言って彼女たちを自信満々に紹介した。ギルドにいた冒険者たちの視線が俺からずれてフェリ達に向かう。


「なッ……。て、テメェ! レグ!! どっこでこんな可愛い女と知り合ったんだオイ!」「ざけんな! 男だらけのこっちにも1人寄越せ!!」

「そーだそーだ! お前なんでパーティークビになったのに美味しい思いしてんだよッ!!」


 冒険者たち一同の手のひら返しに思わず笑ってしまう。


「どいてくれ。新しいパーティーの申請しなきゃいけないんでな」

「お、おいおい。レグ、お前どこのパーティーに入ったんだよ。他のやつら見たことねえぞ」

「あッ、い、いや。俺はこいつらを知ってるぞ! こいつらFランクパーティーの『パルパス』だ」


 1人、まだ若い冒険者がフェリたちを指さした。


 びくん、と雷に打たれたように彼女たちの身体が固まる。


「あまりにパーティーをクビになるからって他のパーティーに入れない寄せ集め集団だよ!」

「だからパーティー名が『パルパス余り者』か?」

「Sランクの冒険者も落ちたもんだな」


 冒険者たちはフェリたちを指さして好き勝手に言う。


 だが、それにフェリたちは何かを言い返そうとしない。むしろ、そう言われるのは当然であるかのように受け入れている。


 だから、その喧噪の中で俺は笑った。


「名前が違うぜ」


 俺の言葉にギルドの視線が集まる。


「俺たちのパーティーは『神殺しミストルテイン』だ。『パルパス』じゃない」


 その言葉にギルドが静まり返った。皆ひそひそと恐れるようにその名を口にする。『勝利の神ヴィクトル』に立てつこうとしているのか? 名前は元パーティーへのあてつけか? レグがクビになったから??


 そんな声が小声で聞こえてくる。


「よし、行こう」


 だから俺は振り返って後ろにいた少女たちを急かした。


「え、で、でも……」


 フェリが困った顔でこちらを見ていた。


「良いんだ。好きに言わせておくといい。どうせ噂だ」

「そ、そうですね」

「噂ならボクもたくさん言われてるよ……!」

「有名税ってやつだ。すぐになれる」

「ちょっと、違いません……?」


 フェリの優し気なツッコミに笑う。だが、もう一人の声が聞こえない。不思議に思い、振り返るとエマはギルドの入り口で足を止めたままだった。


「どした?」

「…………見返し、たい」


 エマがぽつりとそう言った。その手は強く握りしめられている。


「見返し、たい、よ。レグ」

「……だな。

「……うん」

「俺たちなら何だってやれる。何だって乗り越えられる。だから今は、飲み込もう」


 そう言ってエマを落ち着かせると、カウンターに座った。


「ふふっ。顔が活き活きしてますね。レグさん」

「あ、分かります?」


 ここ最近はずっとお世話になっている受付嬢のココさんがにこにこしながら話しかけてくる。


「パーティー名は『ミストルテイン』、でしたっけ?」

「ええ。パーティーメンバーは4人。俺と、彼女たちです」

「分かりました。ちょっと用意しますね」


 ココさんはそう言うとテキパキと手を動かして何やら書類を書き上げた。


「……あの、レグさん」

「はい?」


 パーティーの書類を書いている途中でココの手が止まった。そして、ひどく言いづらそうな感じにこっちを見てくる。


「大変言いにくいのですが、彼女たちはパーティーをクビになりすぎているので……。その、ギルドのブラックリストに入ってまして……」


 逆にあれだけクビになっていて、ブラックリストに入っていない方がおかしい。


「その……良いんですか?」

「勿論です。進めてください」


 俺はココさんの目を見て頷いた。


「俺は彼女たちとなら、先に進めると思ったんです」

「分かりました。レグさんのその目を信じます」


 ココさんはそう言って紙にパーティー申請を認める旨を記した。


「貴方たちはこれから新パーティー『ミストルテイン』です。新生パーティーですのでランクはFからのスタートとなります。よろしいですね」

「はい。構いません」

「新しいパーティーの誕生に月と女神の祝福があらんことを」


 ココさんは決められたやりとりを終えて、にっと笑った。


「良かったですね。フェリさんにマリさんにエマさん」

「「「え?」」」


 突然話しかけられて3人は首を傾げた。


「レグさんは良い人ですよ。太ってますけど」

「一言余計なんだよなぁ」


 突っ込んで俺が笑おうとした瞬間、ギルドの中に聞きなれた声が響いた。


「あれ? 誰がいるのかと思ったらレグじゃないの」

「……ミディか」


 俺がいない『ヴィクトル』。それが後ろに立っていた。


 いつもは好き勝手言う冒険者たちも、流石に黙って俺達を見ている。


「あんた身体がデカいからすぐに分かったわよ。クビになったからって新しいパーティーでも斡旋あっせんしてもらってるの? みじめねぇ」

「いや、俺はもう新しいパーティーに入ったぞ」

「新しいパーティー?」


 ミディはそう言って、フェリを見て、マリを見て、エマを見た。


 そして、もう一度マリを見て、鼻で笑った。

 

「はん。そろいに揃っちゃって。ゴブリンの餌にでもなりに行くつもりなの?」

「行こう、みんな」


 だが、俺はミディの言葉を無視して立ち上がった。


「なッ、何よ!! 言い返せないからって無視するのッ!?」


 だが、しつこくミディは食いついて来る。


 だから、俺は言ってやる。


「2週間だ」

「……は?」

「俺たちは2週間でAランクまで駆け上がる」


 しん、と静まり返っていたギルドが俺の言葉で一斉に沸いた。何故なら、


「アンタ、頭おかしくなったの?」


 ミディの目には明らかなさげすみがある。


「Aランクまでの最速記録は2週間と3日。『ヴィクトル』が持ってる記録だ」


 俺は笑う。


 何故ならこれは、明らかな宣戦布告。Sランクパーティー『ヴィクトル』に真っ向から喧嘩を売っているのだ。他でもない、元パーティーメンバーの俺が。


「それを抜かすつってんだよ」

「……はぁ? 何言ってんの? パーティークビになったからって、ヤケになってんの?」

「おいおい、レグ。適当なこと言って、自分の首を絞めんなよ」

「……頭、壊れた?」


 仲間たちから散々言われる。だが俺は気にしない。


「まァ、2週間先のお楽しみってことで」


 俺たちは『ヴィクトル』の隣を歩いて抜ける。



 それは、冒険者同士が再会を誓い会うための言葉だ。


 故に、それはレグの宣言である。


『ヴィクトル』の記録を抜くという宣言。


 自分たちがAランクパーティーになるという宣言。


 そして――自分はもう彼らの仲間では無いのだと、自分の中でけじめをつけるための“宣言”であるッ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る