幕間 ズレ(1)

「あんたがレグの代わりを務めるっていう新しい盾役タンク?」

「うす! 噂に名高い『ヴィクトル』の方々と一緒に仕事が出来て光栄っす!」


 『ヴィクトル』のメンバーはそう言って頭を下げた若い少年を見た。身体はそれなりに鍛えている。余計な肉が1つもついていない。少なくとも、レグよりは身体は動くだろう。


 そう考えて、サムは頷いた。


「ふうん。身体はそれなりに動かしているみたいだな。盾役タンク歴はどれくらいだ?」

「5年っす! 前のパーティーは自分の実力に合わないみたいで辞めました」

「前のパーティーって……Aランクの……なんかよね。別にパーティーの名前は興味ないから言わなくて良いわよ」


 ミディはそう言って、少年を見下ろした。


「アンタ、特殊なスキルを持ってるんだって?」

「はい! 『天護守あまごもり』っていうスキルで、物理攻撃を9割近く防げますっす!」

「……魔法は?」

「『魔法防御Ⅲ』までなら使えます!」

「ふうん。レグと魔法防御力は一緒、物理防御力は上なのね」

「そ、そんな! 俺なんかをレグさんと比べないで欲しいっす! レグさんは俺達、盾役タンクの憧れで」


 少年は目を輝かせながらそう言った。


「オーガの攻撃も盾で防げないのに?」


 だがミディは一蹴。


「あいつは特殊なユニークスキルを持ってるっていう噂だった。私はその噂につられて『ヴィクトル』に入ったの。でも、アイツはスキルを使わなかった」

「使わなかったんすか? あのレグさんが?」


 なにか話がおかしいと首を傾げる少年。


「……本人が、言うには……。ダンジョンのトラップを解除したり、ワイバーンを触れずに、殺したり……。竜を弱めたり……、魔女を捕まえたのが、自分のスキルだって……言ってたよ」


 ガリアが引き笑いで喋る。それはレグのに対する笑いだ。


 それにサムが重ねて少年をさとす。


「ダンジョンの罠を触れずに解除するスキルなら確かにあるだろうさ。『開錠』、『罠無効』とかだ。ワイバーンを触れずに殺すとしたら『呪腕』、『不可知の槍』がそうだな。竜を弱めるなら、『竜殺しの加護』、『闇の呪い』とかか。魔女の魔法はなんだ?」


 サムがミディを見る。


「そうね。『白痴の呪い』か、『魔力分散』とかかしら? でも、それら全部を可能にするスキルなんて

「そ、存在しないんすか? だって、レグさんのスキルはユニークスキルですよね? そういうスキルがあってもおかしくないっていうか……」


 少年の言葉にミディはやれやれと肩をすくめた。


「あんたはだから知らないかもしれないけど、人のスキルの性能には限界があるのよ」

「限界……すか」

「そう。ユニークスキルは5のスキルしか、効果が重ならないの。それ以上の重複スキルは人だと使えないのよ」


 ミディの言葉に少年が「はぇー」と呟いた。


「さっすがミディさん! レイズ魔法女学院を首席で卒業されただけはありますね!!」


 ついでに『よいしょ』も忘れない。


 その言葉で気を良くしたミディはさらに続ける。


「レグの話を聞いている限り、アイツのユニークスキルは7種類近くのスキル効果を持ってるスキルよ。そんなの、のスキルじゃないわ」

「な、なるほど。だからミディさんはレグさんのスキルが嘘だって判断したわけですね!」

「そ。あんまり難しい話をしても仕方ないからここら辺にしておくけど、学がない人間の嘘はすぐにバレるから。あんまり私に嘘をつかない方が良いわ」

「大丈夫っすよ! 俺が先輩たちに嘘なんかつくわけないじゃないですか!!」

「期待しておくわ」


 そう言ってミディは微笑んだ。


 話が終わった頃合いを見計らって、サムが口を開く。


「今日のクエストだが、今日はロッタルト伯爵からの依頼だ」

「え、は、伯爵の!? すげー! 『ヴィクトル』すげー!!」

「静かにしてなさい。それで、どういうクエストなの?」

「領地に出来た新しいダンジョンの探索だそうだ。私兵を投入したが、ほとんど壊滅状態で帰ってくるらしい。仕方ないから俺達に依頼が回ってきたって流れだ」

「新しいダンジョン、ね。まあ退屈しないから良いんじゃない?」

「……新人、の……力、試しには……もってこい……だね」

「先輩たちに負けないように頑張るっす!」


 そして、彼らは街を出る。


 新生『ヴィクトル』。その新しい任務は、今までと同じ晴れやかな成果で飾られると思いこんで。


「良い? 私たちの得意とする戦術は、盾役タンクが敵を集めてそこを私の魔法で一網打尽にする。だから、盾役タンクのあなたが真っ先に敵の中に飛び込むの」

「ん? 俺が飛び込むんすか? 敵の中に?」

「そうよ? おかしなとこある??」

「いや、その何と言うか……」


 盾役タンクとは迫ってきた敵が後衛職に向かわないように歯止めをする職業ジョブではないのか。盾役タンクが敵の中に飛び込む? 言っている意味が分からない。


 そう思って少年は首を傾げた。


「確認良いすか? 俺が敵を止めるんじゃなくて、敵の中に入るんすよね?」


 自分の聞き間違い、あるいはミディの言い間違い。


 そのどちらかである可能性にかけて、少年はそう尋ねた。


。敵を『集敵ヘイト』で集めてモンスターの中に飛び込むの」

「えッ!? じゃあ、俺死んじゃうじゃないですか」

「大丈夫。そこで、アンタを起点として私がLv5の大規模魔法を使うから」

「ちょッ! 俺の持ってるスキルは『魔法防御Ⅲ』まで言ったじゃないですか!」


 魔法防御の後についている数字は防げる魔法のレベルを指す。『魔法防御Ⅲ』とは、Lv3の魔法を防ぐことが出来るということだ。


「レグは同じスキルで無傷でしのいでたわよ」

「えぇ……?」


 それはあの人が異常だからじゃ……。


 と、言おうとしたのだが先輩たちにそんなことを言える度量など少年には無く。


「ま、そこら辺は調整しながらやるわ。アンタは黙って前線で敵を集めてれば良いの」

「そ、そうすか。聞くんですけどサムさんは何をするんですか?」

「お前が漏らした敵を狩る。ミディが魔法を使うまでは、俺が細かい魔法でモンスターをけん制したり、接近戦でお前がこぼしたモンスターを倒したりだな」


 それが本来の盾役タンクじゃないのか。何か盾役タンクの役割がズレてないか。それを言おうとしたが、少年はやはり先輩3人に囲まれてその言葉を飲み込んだ。


 4人を乗せたまま、竜車はダンジョンへと走っていく。




 生まれたズレは、致命的なものである。

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