第14話 終戦の冒険者!

 これ以上ダンジョンの中にいるとモンスターが集まってきてしまう。長居は出来ないということで、サムにボス部屋まで案内させた。


「エマ、悪いけどもうちょっと頑張ってくれ」

「だい、丈夫……!」


 顔色が悪い。長期戦闘は無理だろう。このダンジョンの最下層が分からないと、どうしようもない。普通はダンジョンの途中で上に戻るための宝珠があるはずなんだが。


「ここのボスは何だ?」

「サラマンダーだ」


 俺が尋ねると、サムがすぐに返した。


「ああ、火ィ吹くあれか」

「そうだ。とにかく範囲がえげつない。近づけば炎を吐いてくるし、離れれば炎弾を飛ばしてくるんだ」

「魔法のレベルは?」

「3か、4。俺達が見た限りだと、な」


 それなら大丈夫だ。その程度なら隠し技としてサラマンダーが大魔法を持っていようと、最大レベルは5。簡単に突破できる。


「レグ、ごめん。発作が」

「大丈夫だ。もう終わるから」


 苦しそうに胸を抑えたマリを抱える。


「発作って……。レグ! その子は『魔力枯渇症候群オーバー』よ! そのままボス部屋に連れていくつもり!?」


 マリのことを知っているミディが突然絡んできた。


 ……そうか、学校が一緒だったな。

 片や首席卒業者、片や絶対に生徒を見捨てない学校を退学になった魔法使い。


「そうだが」

「そうだがって……。自分がなにをやろうとしてるかアンタ分かってるの!?」

「分かってるよ。俺はもうお前らにスキルの説明はしたよな。あとは何も言わなくても何が起きるかくらいは理解できるだろ。馬鹿じゃないんだから」

「……っ! だから、アンタのスキルは存在しないのよ! 無理なのよ! 人間の身体じゃアンタのスキルには耐えきれないの!」

「じゃあ、見せてやるよ」

「見せてやるって……」

「俺はボス部屋で一歩も動かない。一歩も動かずにボスを倒して見せる」

「そんなこと……! できるはずが……!!」

俺達ミストルテインなら出来る」

「どういう……」

「見せてやるって言ってんだろ」


 サムが立ち止まる。ボス部屋についたのだ。俺はマリを抱えたまま、部屋の中に入る。


 暗かった部屋にあかりが灯る。ぼっ、ぼっ、ぼっ、と綺麗な感覚で灯っていくのをも見ると何だかテンションが上がる。


 部屋の真ん中にいたサラマンダーがゆっくりと俺達を見る。そして、最初にボス部屋に飛び込んだフェリに向かって炎の弾を吐き出した。


 だが――――がくん、とほぼ直角に炎の弾が向きを変えて俺……が抱えているマリに向かってくる。だから、俺はそっと手を掲げた。その手に炎弾が直撃する寸前、炎の弾は螺旋を描いて


 ズンッツツツ!!


 音が響く。サラマンダーの右腕が爆発した。


 意味が分からず、サラマンダーの顔が?に染まる。サラマンダーは再びフェリに向かって炎を吐き出す。だが、それは全て途中で軌道変えて俺に向かってくる。だから、俺は無表情でそれを見つめた。


 俺の顔の前で炎が急に消えた。まるで、世界からそこだけ切り取ったかのように消えた。


 そして、サラマンダーの頭が爆ぜる。


「……嘘」


 何が起きたのかが分からないまま死んだサラマンダーを見て、ミディがそう言った。


「これが、俺達だ」


 俺はサラマンダーの死体のあとに残ったアイテムを拾った。ボス部屋の真ん中にいつの間にか宝珠が現れている。それをさわればダンジョンの入り口に戻れる。


「……なんで」

「あん?」


 喉をいたわるように黙りこくったエマと、盾を腰に装備していたフェリ。そして俺がミディの声で振り返った。


「なんで、そのスキルを使わなかったのよッ!! 私たちといるときにどうしてそのスキルを……ッ!」

「使ってたぞ」

「う、嘘ッ!」

「嘘じゃねえよ。お前らにクビにされそうな瞬間にも、このスキルの説明はしてたぞ」

「あ、あれは……」

「あれが、そうだ。信じるも信じねえもお前らの勝手だけどさ」


 俺はミディをまっすぐ見た。


「もう、だろ? 今更グダグダ言うなよ」

「……っ」

「ほら、もう上がろうぜ」


 俺はそう言って宝珠に触れた。ばっと目の前が白くなって、気が付けばダンジョンの入り口に戻ってきた。相変わらず訳が分からないものだ。このダンジョンを作ったやつらは一体どういう脳みそしてるんだろうな。


 なんてことを考えていたら、フェリとエマが上がってきた。それについでサムとミディも。


「おおっ。流石はレグ殿! もう帰還ですか!!」


 上で俺たちの帰りを待ってくれていた竜車の御者が、大きく喜んで俺達を迎えてくれた。


「ああ。だったぜ」

「ではお乗りください。伯爵も喜ばれるでしょう」

「あー……」


 あいつに喜ばれてもなにも嬉しくないんだよなぁ……。


 でも報酬の白金貨50枚は欲しい。それだけあれば、いったいどれだけの子供たちの未来が明るくなるだろう。


 それにアイツの言っていた魔女の話も気になる。『魔力枯渇症候群オーバー』の話をどこまで知っているのか知らないが、どうせまともな情報の筋ではないだろう。困ったものだ。


 俺はそんなことを考えて竜車に乗った。


 ――――――――――――


「うん。全員、無事だね。良かった良かった」


 伯爵の館に連れてこられた俺達は伯爵の執務室に案内されていた。


「いやぁ、一時期はどうなることかと思ってひやひやしたけどね。うん。冷や汗もたくさんかいたんだよ。えっ!? 私の汗が肉汁みたいだって!!? いやぁ、そこまでじゃあないけどねえ!!」


 1人で言って、1人で盛り上がる伯爵。


 誰もそんなこと言ってねえよ……。


「伯爵。報酬を下さい」

「うわっ! レグくん! まっすぐだねえ。まっすぐな男の子は嫌いじゃあないよ!! うん。その姿勢のまままっすぐ進みたまえ。ははっ。まっすぐ進みたまえだって。まっすぐなのにね」

「早くもらえますか?」

「はいこれ」


 そう言って伯爵は袋を手渡してきた。

 中を見ると、久しぶりにみる白金貨。すごい量だ。


「うん。今回の件を受けてギルドは君たちがAランクになったら、Sランクパーティーに即時昇格するらしいよ。うん。未来ある若者ってのは眩しいものだねぇ。結構結構。今日は時間も遅いからウチに泊っていきたまえ。なに、悪いようにはしないよ」


 伯爵はそう言って、手元の書類に目を落とした。


「じゃあ、この話はここまでだ。メイドに部屋まで案内させよう。おーい。客人を部屋に案内してくれよ」


 伯爵が大声を出すと、メイドが部屋入ってきた。


「あ、レグ君は残っててね」

「何でですか」

「な・い・し・ょ・♡」


 伯爵、迫真のスマイル。


 ……なんだこいつ。


 と思ったが、話の中身は推測できる。十中八九“魔女”に関してだろう。メイドが俺以外のメンツを外に連れて出ていったのを見てから伯爵が立ち上がった。


「うん。うんうん。もう良いかな」

「“魔女”ですか」

「話が早くて助かるね」


 だが、伯爵は口に指をあてた。


「でもレグ君。おいそれと、大きな声で話せるような内容じゃあ無い。そういうわけで、ミュージック! スタート!!」

「は!?」


 伯爵が大声を出した瞬間、部屋の壁から腹に響く様な重低音が響き始めた。


「いやあ、どうだい。これなら聞かれまい」

「いや、音デカすぎて目立ちますって。どうするんですか」

「ダイエットのためのダンスだと言えばいいだろう」

「…………」

「さて、本題に入ろう」


 音の中、ギリギリ聞き取れるくらいの声で伯爵が言った。


「“魔女”はこのロッタルト伯爵領からわずかに離れた魔術都市のその最奥に封印されている。それは知っているだろう?」

「まぁ」


 何しろ封印した張本人がここにいるのだから。


「今回の件には私も同行する。明日の昼に出発しよう」

「うん? 伯爵も来るんですか?」

「それでね、君たちに警備を頼みたい」

「護衛クエストですか?」

「ああ、ついでに4つほど運搬クエストも君たちに依頼したことにしておこう。これで明日でDランクだ」

「それは……。嬉しいんですけどどうして伯爵も?」

「“魔女”からね、ぜひとも聞き出したい魔法があるんだよ」

「……魔女から?」

「ほら、私はじゃあないか」

「そうっすね」


 どの口で言ってんだ、こいつ。


「こんな無能が、国王と仲が良いってのはさ。ほら、色んな貴族から後ろ指刺されるものなんだよ」

「大変ですね。貴族って」

「うん。それでね。国王に入知恵をした貴族がいるみたいでね、国王から直々に命令が下ったんだ」

「命令? 国王直々に?」


 それはちょっとままならない話だな。


「魔女の術式を1つかならず掘って来いってね」

「はぁ。大変っすね」

「まぁ、何で私なんだと思ったが……。国王も『リッチーならやれるよ♪』みたいな感じでノリノリだし? そのついでに君たちの支援しようっていう話なんだ」

「なるほど。それで、なんで俺をここに残したんですか」

「それをね、君にも協力して欲しいんだよ」

「まぁ……。別にそう言われたら協力はするっちゃしますけど……。タダでですか」

「“魔女”に会わせるってのじゃあ足りないかい?」

「その“魔女”から魔法を盗るんでしょう? それならプラスで報酬を貰わないと」

「んー。なら白金貨10枚で」

「おー太っ腹ですね」

「え!? 誰がデブだって!!? あっ、私か。アハハ!」


 言ってねえよ。

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