第47話 【神狩り】

 状況を整理しよう。


 俺たちは柊ツバサと戦っていた途中、急な眩暈に襲われて目を開けると王都の前にいた。そして聞こえて来た『転移魔法』という言葉。


 俺たちは王都の前まで転移させられた、とみるべきだろう。だがその理由が分からない。逃げるためなら、俺たちだけ転移させるか柊ツバサたちだけが転移するべきだった。そうすれば完全に逃げ切ることが出来ただろう。


 だが、柊ツバサは逃げなかった。


 依然として、俺たちの前に居続ける。


「観客がいた方が良いと思ってね」

「何の、話だ」


 眩暈も耳鳴りも、もう無い。アレは攻撃でないと柊ツバサが言っていたが、だったら『転移魔法』の余波みたいなものだったのか。


「僕は『機骸の魔王』って呼ばれてる。理由は、分かるかい?」

「……ああ。むくろ械でおぎなう。そういう、死霊術師ネクロマンサーだからだ」

「正解」


 そう言って、柊ツバサは両手を広げた。


「では、ここで問題です」


 そして、何かの魔法を使う。


死霊術師ネクロマンサーの使える魔法。死体を動かすこの魔法は、どんな死体を動かせると思う? 人間、モンスター。色んな死体を動かしてきたが、どの死霊術師ネクロマンサーも一向に手を出さない死体がある。僕ぁ、不思議だったんだ。どうして、その死体を使わないのか。それとも、使えないのか」

「…………?」

「気になったらやって見る。これは僕のモットーみたいなもんでさ。やってみたんだ。そして、上手く行った。さぁ、


 柊ツバサのその言葉と共に、宙に浮いていた黒い立方体が。まるでおもちゃ箱のように上が開いた箱から巨大なが飛び出した。


『OoooooooOOOOOO!!!!』


 いているのだろうか。ビリビリと俺が立っている場所まで揺さぶられる。すごい振動だ。


 鯨のような体の頭部には赤い金属製のパーツが取り付けられ、巨大な身体にはツギハギの金属プレートが貼り付けられている。そして、その鯨のまわりを魚のようについて浮かんでいる飛翔物。


 あれは、『レル=ファルム』の……ッ!


「アレは……。『神』の死体かッ!」

「そう。『ヴァルク=ダルク』の身体ボディに『レル=ファルム』の中身を詰めて、頭脳は『イルガ=ジャルガ』の物を使った。僕の最高傑作さ」

「くそッ!」


 俺はいてもたってもいられずに駆け出した。死体を動かしているのであれば、死霊術師ネクロマンサーを殺せば死体の動きは止まるはずである。


「フィーちゃん。止めて」

「分かってるわよ!」


 俺の突撃にフィオナが出てくる。俺はフィオナから飛び出してきた鋭い突き攻撃を、腕で逸らして両腕の内側にもぐりこむと鳩尾に勢いのある掌底。ホムンクルスが人の形をもとにして作る以上、弱点も人のソレと酷似する。


「マリ! 柊ツバサごとここを吹っ飛ばせ!!」

「無駄だッ! 僕が機械を使うのは、僕が殺されても動かすため!! アイツはもう止められないっ!!」

「なら、上だッ! あの魔法をっ!!」

「分かった!!」


 “魔女”が教えてくれた大規模魔法。

 “魔女”ですら使用を躊躇ためらう大規模破壊攻撃。


 マリが杖を抜いて、構える。空を泳ぎ続ける鯨に向かって照準をセット。


「【開いて】」


 ぐるり、と空が渦を巻く。そこからこぼれた1筋の光が鯨に向かって降り注ぐ。


「魔法攻撃だって対策してるさ! そいつに魔法攻撃は通用し……」


 カッッッッッッッ!!!!


 目も開けていられないほどの閃光。続いて、爆風。衝撃波。鼓膜が破けるんじゃないかと思うような爆発を得て、鯨の身体の9割が吹っ飛ばされたッ!


「……はははっ。すごい。僕の創った魔法障壁を突破するのか。凄い魔法使いだっ!」

「終わりだ。柊ツバサ!」

「終わり? まだ、始まってすらないのに?」


『WoooooOOOOOOOOO!!!』


 鯨の悲痛な声が上がる。痛みにうめく声を上げている。


「何を……っ!」


 次の瞬間、鯨に空いた大穴が治り始める。凄まじい再生速度。そして、瞬きが終わるころには鯨の身体は既に元通りになっていた。


「細胞の1つまでも消さなきゃ無限に再生し続ける。『ヴァルク=ダルク』の【豊穣の神秘】の応用だ。いやあ、神様ってのは凄いね」


 そして、柊ツバサは鯨を指さした。


「さて、観客たち。これから、


 鯨が口を下にして、になった。それはまるで、深い海に潜っていくかのように。


「消し飛ばせッ!」

「フェリ!」


 柊ツバサが叫ぶのと俺が叫ぶのはほぼ同時。フェリが浅く地面を斬りつけると同時に、鯨の口から光がほとばしる。


 光が曲がる。まるで鏡にでも当たったかのように、反射を受けて大きくぶれる。そしてここに向かってくる。


「はははっ。英雄気取りか。ここで死ぬつもりか? レグ!!」

「誰がッ!」


 王都を消し飛ばす、と柊ツバサはそう言った。ならあの光を吸い込まなければここら一帯を吹っ飛ばされる可能性が高い。


 そう思って地面を蹴った。


「……ッ!」


 光はこっちに向かってくる。間に合うか? ……間に合わないッ!


 手を伸ばす。あの光が爆発物だとすれば、その爆発に触れた時点で攻撃を吸い取れる。だが、仲間がその爆発圏内に入っていた場合、巻き込んでしまう。そうなれば間に合わない。俺の、失敗ミスだ。


 光は落ちる。落ちてくる。


 そして、光が


「……は?」


 柊ツバサが俺の後ろで素っ頓狂な声を上げる。


 その気持ちは俺にも分かる。俺だってそんな声を上げたいところだ。

 誰だ。今の光を斬ったのは。


「おう、レグ。オメェ、なにやってんだ」


 ひどく、小さな体躯。黒い髪の少年は肩に刀を乗せてポツリと呟く。


「今の光、拾おうとしてたか?」

「……そんなとこっす。…………レンさんはこんなとこで何やってるんですか?」

「公国に向かったオメェがこんなとこにいっからよ。よォく見てみれば、『機骸の魔王』もいるじゃあねェか。そんで、来たってわけだ」

「あ、なるほど。そういうことだったんですね」


 鯨からは凄まじい煙が上がっている。もしかして、あの光は相当な大技だったのか?


「そんで、なんで『ヴァルク=ダルク』があそこにいる」

「『機骸の魔王』が掘り起こしたんだそうですよ」

「あァ、なるほど」


 レンさんが俺の後ろにいる『機骸の魔王』を見る。柊ツバサは相変わらず、へらへらと笑っている。


「レンさん。『機骸の魔王』をここで止めてもらえることってできますか?」

「あん? そりゃァ、出来るが。オメェは」

アレを消します」

「消す? そんなこと出来んのかよ」

「出来ることには出来るんですが、時間がかかります。だから、時間稼ぎを」

「あァ、任せろ」


 レンさんの後ろには『バルムンク』が控えている。


「じゃあ、オメェのお手並み拝見と行くぜ。レグ」


 レンさんは、そう言って刀を構えた。

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