第30話 新装備の冒険者!
「じゃーん! どう、レグ!」
「おおー。かっこ良いじゃん」
俺の部屋に新品の服を着てやって来たマリを褒める。
王都を襲った異形が死んで1週間が経った。
ちょうど俺達の“征装”がやって来たその日、“征装”をまっさきに俺に見せてくれたのはマリだった。服は白を基調とした服。勿論、マリのトレードマークの大きな帽子も真っ白だ。彼女の泡栗色の髪の毛が覗いていた。
マリの全身はマントが覆って身体の線が見えないようになっている。
「それ、服の中どうなってんの?」
「こうだよ!」
「じゃーん!」と言ってマントを取って見せてくれた。中は紺色の服装で、ぴったりと身体に沿った素材で出来ている。服の様々な所に帯のような物が見えた。あれは動きをアシストする奴だな。
腰には杖のホルスターがかけられ、買ったばかりの杖が掛かっている。
「ほー。なるほどな」
「どしたの?」
「その服装。マントで身体の線を隠して、魔法の早撃ちが出来る様になってるんだな」
魔法使いは杖を使って魔法を使う。魔法使いに魔法を使わせたくないなら、杖を持っていない瞬間を狙えばいい。
だから、魔法使いたちは考える。杖を握る瞬間をばれないように、隠せるように。マリの恰好はつまり、そういうことだ。
「れ、レグ凄い! レイトさんと同じこと言ってる!」
マリは俺の推測に感動してくれた。ありがたいけど、魔法使いならそこら辺も知っておいた方が……。と思ったが、彼女たちには対人戦の経験がない事を思い出して黙った。
模擬戦ならともかく、実戦で人間と戦うなんてそんな経験、無い方が良いに決まってる。
「レグ……。どう……?」
なんてことを考えていると、エマが恥ずかしそうに入ってきた。
「おお。エマの服装はちょっと違うんだな」
彼女の服も白いマントで身体が覆ってあったが、マリのように全部をすっぽり隠すような形では無かった。彼女の場合は、身体の線がもう見えている。ごたごたとした無駄な装飾は無く、至ってシンプルな服装だ。だが、首元に緑色の魔石がはめ込まれていた。
「その首の奴は?」
「拡声魔石……だって。声が遠くまで届きやすいって、レイトさんが言ってた」
「へぇー。なるほどね」
ちゃんとそう言うのも考えて作ってあるんだなって。
「ねー。レグさん。どうですか! 軽装の鎧ですよ! とっても動きやすいです!!」
ハイテンションで入ってきたのは鎧……と、皮の防具の中途半端な服装をしたフェリだった。当然、背中には白いマントを羽織っている。
そう、白いマントというのが大事なのだ。
それは【神狩り】に向かう者の正装であるために。
「ね、レグの服は?」
「これから受け取りに行くところだよ」
「おおー! ついていってもいい?」
「何でだよ」
俺は笑いながらそう言って、レイトさんのところに向かう。
服か。どんな感じに仕上がっているんだろうか。
なんてことを考えながら、レイトさんの待つ部屋に入るともう服は用意してあった。
「レグ様、お待ちしておりました」
レイトさんが俺の“征装”を手に取った。神の狩人のための衣装だ。レイトさんから受け取って、俺は部屋の片隅にある更衣室の中に入った。俺は着ていた服を脱いで、“征装”へと着替えていく。
最初に思ったのは、思ったより身体にピッタリだな。というものだった。身体を激しく動かすのであれば、そっちの方が向いている。そう思って完全に“征装”を身にまとった。
俺がレイトさんに付けた注文はただ一つだけ。
防御力を一切無視して、機動力だけを重視してくれ。という注文だ。最初は不思議に思われたが、俺がそういうスキルを持っていると言えば納得してくれた。
俺のスキルは規格外であるだけに、知識がない人間の方が信頼してくれる傾向にある。レイトさんは防具設計やデザイナーなだけあってスキルに関する知識は人並みのものだ。
「あの、レグ様に言われた通りの設計をしたのですが……。これで良かったのですか?」
「ええ、ばっちりですよ」
俺の“征装”には金属パーツが1つもない。これは、俺が『ミストルテイン』として『神殺し』を果たすことを決意したからだ。このパーティーは全てが異質である。通常の
全てが純白。だが、時折走る青いラインが俺の身体を引き締める。頭の“征装”は視界が遮られるからと拒否した。
「どうです? 似合ってますかね?」
俺がレイトさんの顔を見ると、彼女は「おおっ」と声を漏らした。
「何です。その声」
「我ながら、上手く出来たなぁ。と」
「どういうことですか」
「“征装”って英雄の服なんです。だから、万人が見てかっこいいと思うようにしなきゃ駄目なんですよ。しかも、同じ服は使えません。“征装”は絶対に1人に1つ。だから、レグ様の服は苦労したんです」
「太ってるからですか?」
「ふふっ」
笑ってごまかされた。
……痩せようかなぁ。
「レグ様、出発は明日ですが緊張なさりますか?」
「んー。緊張っていうか」
俺は子供の頃を思い出す。
あの時は孤児院が今ほど裕福じゃなかった。その日の食べ物、その日の生活ですらやっとだった。そんな中、泥の中で闇の底で俺の街に英雄たちが通ったのだ。
後から知った。彼らは【神狩り】なのだと。
全てを純白に包んだ彼らは、何も知らない俺にも『カッコイイ』と思ってしまった。あの時、あの瞬間だけは俺は今日死ぬかも知れない孤児ではなく英雄に憧れる普通の子供になれた。
「俺は、
「なれますよ」
レイトさんは俺の言葉にすぐに返した。
「だって、レグ様はもう王都の英雄なんですから」
俺はその言葉に思わず、恥ずかしくなって顔を真っ赤にしてしまった。
「でも、レグ様。どうか、どうか。
それは、数多くの英雄たちを見送ってきたレイトさんだからの言葉だからだろうか。
「死にませんよ」
だから、俺は吐き捨てる。
仲間が死んでも、友人が死んでも。
俺は死ななかった。惨めに生き足掻いた。
「俺は、死にません」
どれだけの惨状をくぐっても、俺は死なない。
【因果応報】は俺への敵意を絶対に撃ち返す。
故に、俺は考える。
南の果て、そこに待つ《
『古き神々』と呼ばれる最強種、数多のパーティーを葬ってきた神の姿を。
「神なんて、殺してみせますよ」
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