第28話 英雄の凱旋!
「やあ、いかがですか。国王陛下、彼らの実力は」
『ミストルテイン』が竜の異形と戦っている最中、避難しようとしていた国王の足を止めて、リチャード・ロッタルト伯爵は国王にそう言った。
「……強い、の。とても、強い」
王はレグたちを見ながら、そう言った。
「あのパーティーの魔法使い。先ほど言った彼女自身がそう言った通り、彼女は『
「…………ふむ」
常識のある人間であればあり得ない、と言うだろう。
それは常に刃物を首にあてて生活しているようなものだ。魔法を吸い込んでしまうその体質で、魔法を使うなど自殺行為の他になんと表現すれば良いのだろうか。
「さらにあの剣士は、『
「……
「はい。なんでしょうか、陛下」
「これはそなたの復讐か」
静かに。だが、明らかに強い視線でもって国王がそう言った。
「復讐? まさかまさか、この私がそんなものに手を出す人間だとお思いですか、陛下は」
ロッタルト家。それは、リチャード・ロッタルトの先々代からの
だが、それでも伯爵の名を冠しているということは。
「私はただ、次世代を担う若者たちを国王陛下に紹介したかっただけですよ」
リチャード・ロッタルト。貴族たちの間では、貴族の中で最も無能と呼ばれる男。定例会議では眠りこけるか、無駄話を繰り返す。他の貴族たちと何かをしていると思えば、下らないカードゲームの賭け事に興じているだけ。
そして、自己保身と名誉を守るために下らない道化を演じている男。そう、評されている。
だが、国王は知っている。いや、途中で気が付いたと言ったほうが良いだろう。
リチャードは自らが不利になるようなことを決して口にしない。特に大貴族の前では下らない揚げ足取りで地位が下げられることだってありうる。リチャードは道化を演じることで、それを回避している。
それに気が付いた時、王はリチャードという人間を知った。
徹底した事前調査。自らが望むものを手に入れるときには決して手を抜かない。だが、その様子を見せることもない。例えばそれが自らの領地について全く知らない愚かな貴族相手でも手を抜かない。
静かに、だが確かに。
自らの領土を賭け事で増やし続けていることに、王以外の誰が気が付いているだろうか。いや、気が付いている者もいるだろう。あんなゴミみたいな土地を手に入れて、どうするんだと言われているかもしれない。
だが、そこに何かあるはずだ。と、王は考える。この男は無能を演じている“蛇”。
しかし、周りの人間はそれを誰も信じない。
考えすぎだと、過大評価だと一笑に付されるだけ。
「次の、世代を……」
絞り出すように国王が告げる。
「いやあ、こんな歳になっても……ロマン、というのは捨てられないものですね。陛下」
竜のブレスがレグに当たる。だが、それは飲み込まれていく。そこにマリの魔法が飛んでくる。レグがそれを吸いこむ。それが、王城からは見えた。
「ロマン、だと」
「ご覧ください。世間から、世界から、捨てられた彼らが王都を襲った脅威を
次の瞬間、レグの手から迸った熱線が竜の身体を跡形残らず蒸発させていく。
「素晴らしいじゃあないですか! カッコいいじゃあないですか!!」
「……リッチー。これはお主が仕組んだのか」
別の貴族が言い出した。『リチャードに“魔女”の魔法を聞きださせよう』。あれは貴族たちの悪ノリだと思っていた。だが、それも仕組まれたことだとすれば?
「ははっ。まさか。陛下は私がそんな大それたことが出来る男かとお思いです? いやはや、それだと照れますね。いやあ、無能の私をそこまで評価していただけるだなんて恐悦至極に尽きるというもの」
……考え過ぎだろうか。
「さぁ、陛下。英雄たちの凱旋ですよ。拍手で迎えようじゃあないですか」
これは、考え過ぎなのだろうか。
――――――――――――――――
「やあ、レグ君! お疲れ様!! なんだいあの手からでたビームみたいなの!! 私は君が手からビームだせるなんて知らなかったよ! 目からも出せるのかい!?」
竜を倒した後に落ちた結晶を持って城に帰ると、伯爵がまっさきに迎えに来てくれた。
……いやあ、何だかなぁ。
別にね、出迎えてくれるのは良いんだよ。良いんだけどさ……。
せっかくなら可愛い女の子が良かった…………。
「いや、やったこと無いんで知らないんですけど……やりゃあ出るんじゃないですか?」
「ちょ、ちょっとだけで良いから見せてよ! 目からビーム!!」
「なんでそんなにビームにこだわるんですか。あれ俺の切り札なんだから見せないですよ……」
しかも帰ってきてから元々テンションのおかしい伯爵のテンションがおかしなことになってる。
うぜぇなぁ……。
「こほん。冒険者レグよ、ご苦労だった」
国王がそう言った事で伯爵が凄まじい速度で俺から離れた。こういうところは空気の読めるおっさんだ。
「まずは礼を言わせてくれ。
「勿体ないお言葉です」
俺は国王陛下に一礼する。
「では報酬の件だが、ここで君たちをSランクパーティーに任命しよう。報酬金の白金貨1000枚だが……。それは少し待っていてくれ。すぐには用意出来ぬのだ。なに、明日までには用意しよう」
俺は再び礼。
「残りの報酬についてだが……。レグよ。そなたの活躍、私のところまで良く届いておる。『ヴィクトル』、『ミストルテイン』と2度もSランクに登り詰めたそなたの実力は私だけではなく、多くの者が知るところだ。そこで、私はそなたに爵位を送りたい」
「……ッ! 爵位を、ですか」
貴族の地位。それは、多くの冒険者たちが喉から手が出るほどに欲しがっているものだ。
「ああ、そうだ。受け取ってはくれぬか」
貴族になれ。と、そう言われている。
俺はわずかに唇を噛んで……後ろを見る。そこには捨てられた犬のような顔をしている3人の顔があった。
…………そんな顔するなよ。
「陛下、この身に余る光栄でございます。けれど、私は冒険者。まだ、貴族にはなれません」
「…………そうか」
後ろの3人の顔がぱっと明るくなる。
その後ろにいた伯爵も笑顔になっていた。
……なんで?
「そなたの気持ちはよく分かった。だが、その強さ。ただの冒険者としておくにはあまりに勿体ない」
国王は何かを噛みしめる様にそう言って、
「ぜひ、【神狩り】に出向いてはくれぬか」
そう、言った。
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