第45話 要塞と冒険者!
赤い大地をまっすぐ抜ける。手元にはコンパス。先ほどから迷わないようにちらりちらりと何度も手元を確認しながら奥へと進む。つい数百メートル後ろでは雪が降っているというのに、赤い世界は全く寒くない。適温だ。
「何が起きてんだか」
「神様の【神秘】を奪った……とか?」
「んなことができりゃそれは凄いけどさ……」
だが、神から能力を奪うだなんてことが出来るのだろうか? 例えばそれは俺からこのスキルを奪う、ようなものでは無いのだろうか。冒険者の中にはスキルを奪うスキルを持った奴もいると聞いたことがあるが、どこまで本当なのかが分からない。
だから、神の【神秘】を奪うという行為がどこまで現実的なのかが掴めない。
「おっと……。見えてきたぞ」
どうやら柊ツバサの
「ここが……。公国の首都?」
「
マリの疑問に俺は吐き捨てる様に返した。
そこには確かに人の営みがあったのだろう。家があって、大通りがあって、店がある。街の中心には議会や図書館などの文明の形が見て取れた。あくまで、形だけ。
まるで巨大な何かが這いずったかのように、家が粉々に潰れていた。
まるで巨大な何かが踏みつぶしたかのように、議会は激しく損壊していた。
まるで巨大な何かが通り過ぎたかのように、大通りは荒れ果てていた。
そこにあった文明の面影は、俺たちにどうしようもない現実を突き付けていた。
「人がどこにもいない……。ん?」
生き残り、なんてものがいるとは思えない。だが、人の
「あれって、何だろうな?」
「どれです?」
俺が指さした建物を見つけれず首を傾げるフェリ。
「ほら、あそこ。山のふもとにある黒い建物」
明らかに人工物。綺麗な立方体が、山のふもとにドン! と建っていた。
「あれって公国の建物なんですかね?」
「いや、どうだろうな……」
明らかにこの世界の文明の物ではない。
としたら考えられる原因は2つ。“神”か、“世界の敵”か。
「で、でもレグ。あれがもし『魔王』の城だとしても、あんな目立つところにあるかなぁ?」
そう言って来たのはマリ。確かにそう言われてみれば、わざわざあんな目立つところに柊ツバサが拠点を構えるだろうか?
【神狩り】に向けた罠じゃないのか。
「とりあえず、近づいてみよう。それで攻撃されたら、アレだから俺が先頭を行くよ」
見てみないことには話にならない。
俺たちは黒い立方体に向かって舵を切った。それにしても不思議な建物である。遠くだから一辺あたりの大きさが掴めないが、相当巨大だ。50m……いや、下手したらそれ以上あるかもしれない。
もしかしてこの街を壊滅させたのはあの黒い箱だろうか。
確かにその説は考えられるな。
そんなことを考えながら、足を踏み込んだ瞬間。明確な殺気。
「伏せろッ!」
次の瞬間、黒い立方体から俺に向かって光の奔流が
だがそれは『レル=ファルム』と戦った時に、嫌というほど見た攻撃。俺は直進。光に向かって手を差し出すと、光の攻撃はほどけて消える。そして、黒い立方体からわずかに煙が上がった。
何かを壊したらしい。
「フェリ、来れるか?」
「は、はい!」
念のためフェリに『
「……1発だけ、か?」
そんなわけがない。
「マリ、エマ。2人はそこで待機。何があっても近づくなよ!」
「はい!」
2人の確かな返事を聞いて、俺とフェリは黒い立方体まで全力疾走。しようとした瞬間、ガチ。と足が地面に沈みこむ感覚。
……地雷だッ!
だが俺には効かない。【因果応報】スキルが地雷を破壊。爆発を未然に防ぐ。フェリが踏み抜いた地雷も同様にして回避。そのまま俺たちは黒い箱に向かって走る。
今の攻撃で確信した。あの黒い建物の中には柊ツバサがいる。街から少し離れた場所に用意した明らかに人工的な建物。それは【神狩り】の連中を引きつける餌だ。そして、奴自身がその餌を担っている。
そして、その餌につられてやってきた【神狩り】たちをあの要塞から迎撃するのだ。
「レグさん、攻撃を地面に引き寄せます。もっと加速できますか?」
「出来る!」
「走り抜けましょう!!」
フェリが地面を剣で浅く削った。その瞬間、2度目の光の直線が空中で曲がるとフェリが削った地面に吸い寄せられる。『
「フェリ、地雷を踏み抜けるか?」
「み、見えたらわざわざ踏みませんよ!」
「そりゃそうか」
しょうがない。ちょっと多めに踏んでおこう。
【因果応報】の反撃機能をOFFにして、地雷を踏み抜くと俺の足元で激しい爆発が起きて……それを、吸い込む。
攻撃の絶対量を保存する【因果流し】の火力を2発の地雷で用意。
目の前に見えてきた黒い箱に向かって右手を構える。そして、接地。
「爆ぜろッ!」
叫ぶと同時に、建物に向かって【因果流し】を発動。地雷2発分の
ドォオオオンンンンンンッ!!!
激しい爆発音と共に、黒い建物の外壁が粉々に砕け散った。
「おいッ! 出てこい柊ツバサッ!!」
俺の中で殺害、という行為の優先順位は低い。それは別に“世界の敵”を捕まえて裁判にかけてやろう、だとか。話し合えば分かる、などという性善説の考えから来るものではない。
“魔女”がそうであったように、単独で世界を敵に回すような連中の頭は1つや2つどころじゃなく10くらいは突き抜けている。だからこそ、その技術を欲しがる国はたくさんある。だからこそ、高く売れる。
「わぁ!? うるさいなぁ。宗教勧誘かと思ったよ」
外壁をぶっ壊すと同時に、建物の奥から声が聞こえてきた。俺たちが壊した場所、そこに繋がっている廊下の最奥から2人の人間が歩いてやってくる。
「誰あれ。 バカ兄貴知ってる?」
「うん。
数年ぶりに見る柊ツバサの姿はまったく変わっていない。15、16に見える少年のままだ。実年齢なんて分かりはしない。“魔女”やレンさん、【勇者】のようなものだ。
「また君かぁ。僕の邪魔をするのはいつも君じゃあないか。何だい? 良い歳こいて。好きな相手に意地悪でもしたくなってるのかい?」
「チッ。相変わらずの減らず口野郎だぜッ」
言うが早いが俺は突進。
停止した瞬間から急加速を生み出すこの移動方法は、通常の人間からすると急に目の前に移動してきたように映る。そのまま、柊ツバサを捉えて俺たちは帰還。完璧な運びだ。
そう、完璧。だからこそ、上手く行かない。
「フィーちゃん!」
「分かってるわよッ!」
柊ツバサの真正面に金髪の少女が立ちふさがる。
フィーちゃん? こいつがあの時のホムンクルスかっ!
「どいてろッ!」
「嫌よッ!!」
俺のタックルがフィオナの身体を吹き飛ばす……直前、フィオナが地面を大きく蹴って床を
「フィーちゃん。そいつに攻撃は効かない! 注意するんだよ」
「分かったわ」
俺が勢いそのままに壁をぶっ壊した瞬間、そこにうつったのは脱兎のごとく逃げ出す柊ツバサ。
「待てッ!」
「行かせないってば」
フィオナが廊下に降り立つ。
「これが私の仕事だから」
そして彼女は俺に向かって拳を構えた。
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