第38話 報酬とサービスと冒険者!

「よくぞ、神を討伐してくれた」


 国王の間、多くの人間たちに囲まれながら俺たちは王にひざまずいていた。国王は極めて冷静な顔を保っているが、その声には感情が滲みだしている。


「これが報酬だ」


 俺たちの前には嫌と言うほど積まれた白金貨が運ばれてきた。


 金。金は大事だ。


 これだけあれば報酬を四等分したとしても、一生どころか子孫永劫に遊んで暮らせるほどの金があるだろう。俺はそのほとんどを孤児院に寄付するつもりだ。おかげで俺がいた孤児院の子供たちはそこら辺の家よりも裕福な生活が出来ているらしい。


 その孤児院は俺がいたころとは打って変わってとても綺麗で大きな孤児院になっていると聞いた。あそこのシスターは聖人なので子供たちにとっても良い環境になっているだろう。


 冒険者という職業は子供が出来てもマトモに育てないどころか、生まれたばかりの子供と死別している……なんてことは腐るほどありふれている。そもそも良い歳こいて冒険者なんてやってる人間にマトモな人間がいないので、どうしようもないことなのかもしれない……。


「レル=ファルムの討伐、ご苦労であった。何か望むことはあるか」

「……レル=ファルムの【神秘】によって、被害にあった民たちはどうなるんでしょうか」


 俺の問いかけに王は頷いた。


「うむ。あそこは『アルマント王国』の管轄でな、向こうもかなり気を入れて対策をしているらしい。それに何よりもリチャード伯爵が向こうで受け入れられない民たちを受け入れると言っておるのだ。リチャードは……うん、確かに心配だが。本人がアレでもアレの下におる者たちは優秀だ。お主が心配することは無い」

「ありがとうございます」


 深く、礼をする。


「初の【神狩り】、大義であった。次の【神狩り】まで、しばらく王都で休むと良い」


 それで、謁見が終わった。


 俺たちは失礼の無いように国王の前から退出する。


「次って……。次も、あるの?」


 エマが首を傾げる。それに俺は頷いた。


「人手が足りないんだとさ」


 世界には人類の敵が多い。


 竜や巨人などのモンスターはまだ手の付けられる範囲で。


 人の身で持って世界に仇成す、『世界の敵』。

 ダンジョンなどの今の文明よりも遥かに突き進んだ文明のもたらす災厄。

 尋常のことわりを外れ、己の世界を構築し人類を殺す『神』。


 それらを殺し、倒し、捕まえるのがSランクパーティーの責務であり、【神狩り】としての仕事なのだ。


「ね、レグ。次の依頼ってどれくらい待てばいいの?」

「さぁ……。早いと返ってきたその場で次の指令が来ることもあるらしいし、長いと一年くらいは待つらしいぜ?」


 そして、何よりもそれらの“敵”はこちらを待ってくれない。


「強くなんなきゃなァ」


 そう、ぽつりと呟いた瞬間。


「おめェ、レグか」


 廊下の向こうから、白い服に身を包んだ4人組の先頭、ある少年から声をかけられた。

 

 1人は、腰に刀を差している黒い髪で黒い目をした少年である。

 1人は、錫杖しゃくじょうを右手にもち左手に数珠を持った2mを越える禿頭の巨躯である。

 1人は、小さな竜の背に身体を寝かせる黒い髪で黒い目の少女である。

 1人は、ひどく冷徹な眼鏡をかけ腰には銃と呼ばれる異邦の武器を身に着けて咥えタバコの女性である。


 それが、“征装”を返り血の紫と元の白のコントラストで覆ってこっちに向かって歩いて来ていた。


「おー。レンさんじゃないっすか」


 俺が見下ろせるくらいには小さな、それこそフェリやマリと同じくらいの身長の少年と握手を交わす。


「聞いたぜ、おめェ。『ヴィクトル』クビになったんだってな」

「あの後すぐにパーティーに入りましたよ」

「そんで、【神狩り】になったかってか」


 ちらりと、レンが俺の後ろにいる3人を見る。獣の様な鋭い視線が3人を貫いた。


「へェ。仲間をもらったみてェだな」

「ま、そうっすね」


 俺とレンが2人で話していると、後ろから服をちょんちょんと引っ張られた。


「あの、レグさん。こちらはどなたですか?」


 フェリが首を傾げる。この恰好で分かると思ったけど、流石に面識がないと分かんないか。


「俺ァ、レン。“剣鬼”のレンだ。よろしく、嬢ちゃん」

「あ、はい。よろしく、お願いします……」


 少年の見た目から放たれるにしてはいささか不思議な言葉使いにフェリは首を傾げる。


「レンさんはこんな見た目でも40を超えてるんだ」

「え゛ッ!?」


 どっからどう見ても15ほどにしか見えないが、ガチのマジでこれで40超えである。


「おめェ、ネタバラシするんじゃァねえよ」


 そう言って笑いながら頭をかくレン。


「ま、そういうわけだ。俺たちが『バルムンク』。王国2番目の【神狩り】にして、永遠の2番手だ」


 2つの【神狩り】が同じ場所にいることは非常に珍しい。別に無い事は無いのだが、シンプルに忙しくて同じ場所に集まりづらいだけなのだ。


「ば、バルムンクってあの!?」

「おう。俺たちがその『バルムンク』だ。んで、レグ。おめェらどの神殺してきたんだ」

「レル=ファルムですよ」

「あァ、アイツか。どうだった、強かったか?」

「ええ、まぁ……」


 俺が言葉を濁すと、レンがにィっと笑った。


「生きて帰ってきたんだ。それで儲けもんよ。じゃあ、俺たちはもう行くぜ」

「ええ。また会いましょう」

「ちげェだろ」


 俺はその言葉に少し面食らって、言葉を直した。


「月と女神の祝福を」


 その言葉を聞いて、レンは俺の横を通り抜けていった。その後ろを禿頭の巨躯が続き、タバコをポケット灰皿に入れた眼鏡の女性が続く。そして、最後に小さな竜に乗った少女が俺の腹をつまんで。


「レグ、気が付いてないと思うんだけどさ」

「……?」

「太ったよ」

「いーんだよ! 分かってるから!!」


 そしてそのまま通り過ぎていった。何なんだよ……。




 外に出ると、騎士団が迎えてくれた。


「お待ちしておりました。王都で過ごされる間のお部屋まで案内させていただきます」


 とか何とかいって敬礼するので、俺たちは顔を見合わせて馬車に乗り込んだ。そして、案内されるのは王都の一等地。並み居る大貴族たちの王都用の別荘が並び並んでいる場所に、連れてこられると「フェリ様はこちらです」と、言ってフェリが降ろされた。


 そこにあったのは3階建ての大きな屋敷。「おー、おっきいなぁ」なんてことを言って俺も降りようとしたら、「レグ様のお部屋はまだです」とか言って戻された。


「ん? どういうこと? この家の中で部屋が決まっているんじゃないの?」

「違います。あの家1つが【神狩り】のパーティーメンバーの特権として無償で提供されるです」


 とか返ってきた。


 なるほど……? と納得のいかない内に馬車が移動、俺が降ろされる。俺がついた家はフェリの家とならんでも劣らないような豪華絢爛な建物。


 ……まーじでここ1つ使えんの? タダで……?


 なんてことを考えていると、馬車が行ってしまった。エマとマリにもそれぞれ家が貸し出されるってことか。すげーな。【神狩り】。


 とりあえず家に入って中を確認しなきゃなぁ……。と、思って敷地内に入ると声がかけられた。


「お帰りなさいませ。レグ様」


 そう言ってぺこり、と少女が頭を下げた。


「あの……誰っすか」

わたくしはレグ様の専属メイドであるフィロと申します。以後、お見知りおきを」

「え、あ、ども……」


 少女につられて会釈する。


 ……うん? メイド??


「私もこの屋敷と同じく【神狩り】の方々にされるサービスの1つですので、お気になさらず」

「無償……」


 無償でメイドが付いてくんの? 

 

 最高じゃん【神狩り】。

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