第34話 神と冒険者!

 村で休む、と言ったのにも関わらず全く休めなかったが仕方がない。俺たちはレル=ファルム討伐のために進むことにした。身体に大きく影響が出るような疲れではないし、それよりも一刻も早い討伐が好ましいのだ。


「ほら、さっさと歩け」


 たらたら歩くアベルの尻を蹴っ飛ばして、レル=ファルムのところまで案内させる。前提知識がなければ、このまま『赤い大地』を彷徨さまよわないといけないところだったが、アベルがいたおかげでレル=ファルムを探す手間を省くことが出来た。


「い、嫌だ……。行きたくない…………」

「まだ言ってんのか。逃げたら殺すぞ」


 この場でこいつを逃がせば、あの村に……アルに被害が出るかもしれない。絶対にここから逃がすわけにはいかなかった。


 全ての武器を奪い、手も後ろで縛った状態で無理やり歩かせている。傍から見れば捕虜の輸送か何かに見えるだろうか?


 こんな場所だし、流石に見えないか。


「村を出てからしばらく歩いているが、どんだけかかるんだ?」

「知らねェ……。こんな場所じゃ、時間も意味ねえよ」


 それもそうか。空は常に真っ赤。それで昼とか夜とか知れるわけではない。ただひたすらに赤一色に染まっているのだから。


 しかしそうなると、時間感覚が狂ってくる。時計なんて貴重品を持ち歩いているわけがないので、正しい時間が分からない。一時間歩いたと思ったら数分だったり数分だと思ったら数時間だったりする……というのは精神衛生上良くない。


 何か指標のようなものが欲しいが、太陽すら見えないこの世界では何も頼るものがない。ただ、己の精神力だけが頼る場所となる。


 下らないギャグでも言って場を和ませようか……。

 でもアベルこいつがいるからなぁ……。

 

 というわけでしばらく無言になる。


 気温は特に高いということもなければ、低いということも無い。普通だ。

 夜になれば、寒くなったりするのだろうか?


 とにかく、何かの変化が欲しい。


 何も変わらないのだ。どれだけ歩いても、どれだけ進んでも変わらない。周囲は赤く変色した荒れ地だ。

 

「レル=ファルムってどんな見た目してんの?」


 俺が後ろからアベルにそう話しかけると、彼の肩がびくっ、と震えた。


「見りゃあ……。分かる。それだけだ」


 だが、アベルはそう言って口をつぐんでしまった。


 そんな一目で見てわかるようなものなのだろうか?


「なぁ、レル=ファルムって真っ赤なのか?」

「……赤い。確かに、赤い」


 俺の問いかけに勘弁してくれと、言わんばかりにアベルが吐き捨てる。だが、それでは困る。どれだけトラウマになっていようとも、情報は共有してもらわないと。


「どんな攻撃してくるんだ?」

「分からん」

「分からん?」


 そんなことあるか?


「気が付きゃ、盾役タンクの奴が足だけ残して消えてた。次に魔法使いが障壁を張った。だが、ソイツも消えた。俺と治癒師ヒーラーの奴は、その時点で逃げたよ。引き返した。けど、俺の隣を走ってて。気が付けば……そいつも消えてた」

「消えたって……どういうことですか?」


 フェリが若干顔を青くしながらそう聞いた。


「どうもこうもねえよ。消えたんだよ」


 これ以上は答えたくないと言わんばかりにアベルはそう言って話を打ち切った。


「おい、勝手に話をやめるな。分かったことを全部言え」

「だから分かんねえっつってんだろ!」

「ただ消えたのか? 音は? 光は? 魔力は」

「何にもなかった。つっても逃げるのに必死で分かんなかっただけかもしれねえけどな」


 …………うーん。


 空間魔法、と言われる魔法だろうか。だが、あの魔法は“魔女”しか使えないという話だったと思うが……。それに、どこかに転移させられたのだとしてもアベルの言っていた足だけ残して……というのが良く分からない。


 無理やり身体ごと転移させた……。いや、生き残っているという想定で考えるのは止めよう。彼らは既に死んでいるとみるべきだ。


 なら、知覚できない攻撃……と見るべきだ。


 そして、どうして知覚できないか。と考えるべきだ。


 理由としては幾つか考えられる。


 例えば、幻覚魔法にかかっていた場合。既に幻の世界にいて、そこを現実だと思い込んでいたからアベルは仲間たちが埒外の攻撃で殺されたと思いこんだ……。


 例えば、凄まじい速度で攻撃された……とかはどうだろう?


 所謂いわゆる、目にも止まらぬというやつだ。ただ、アベルは腐っても英雄だった。『レーヴァテイン』といえば南の果てから離れに離れた王国まで名が伝わってくるくらいには優れたパーティーであったはずだ。


 そんな彼らが目にも止まらぬ速度で攻撃された……というのはちょっと考えづらい。


 と、1人で考えて俺はかぶりを振った。相手は神だ。下手な思い込みはこっちの命取りになる。


 そういうのも在るものとして考えるべきだ。


「おい。まだか?」

「あァ!? だから、俺に向かっていったって、どう……しようも…………」


 その時、見えた。


 遥か遠く、視界の先に。それが見えた。


 ……『塔』のように見えるが、違う。全身を真っ赤なそれは、天を貫くほどの高さの裸の乙女像。


「あれが……レル=ファルムか」

「……あ、あああ…………うああああああああああっ!!!」


 慌てて逃げ出そうとしたアベルの身体を掴む。


「いッ、嫌だ! 止めろ!! 離せッ!!」


 離すわけないだろ……。


「ちゃんとついてこい。お前は囮だ」

「嫌だぁぁあああ!!」

「じゃあ、お前はここで選べ」

「な、何を……」

「神に殺されるか、死刑になるか、それとも俺たちに殺されるか、だ」

「……う、ううう」

「お前が神に殺されれば仲間の栄誉は守られるかもな」

「く、クソッ! 行きゃあ良いんだろ!!」

「そうだよ」


 ということで、やけくそになったアベルがそう言って歩き始めた。何をやけになっているか知らないが、それは自業自得だぞ。


 神が見えたということは、向こう側からもこちらが見えているということだろう。しっかり構えよう。


 そして俺たちが近づくにつれて、レル=ファルムの異様な姿が見えてきた。デカい……。本当にデカい。500mはあるんじゃないだろうか。身体は石で出来ているように見える。


 裸の乙女像の足は地面に埋まっている。しかも、乙女像は柱に縛られているかのような見た目だった。


 ……これが、神か。


「おい! どこまで行けばいいんだよ!」

「近づけるところまでかな」

「ふざ」


 消えた。


 アベルが、消えた。


 頭で思考するよりも先に、身体が動いた。


「『身代わりダミー・ダメージ』ッ!!」


 俺が身代わり先に選んだのはフェリ。どうしてマリじゃなくてフェリだったのかは分からない。冒険者としての直感とも言っていい。


 そして、俺は見た。乙女像、その周囲に展開された浮遊している物体から光の奔流が俺に向かって飛んで来ているのを、死の間際に見るというスローモーションの世界で俺は確かにそれを見た。


 俺に向かって飛んできた、光の直線。だが、それは俺の手前でほどけて消える。


 そして―――――バァンンッ!!!


 爆発音と共に、こちらに攻撃を仕掛けてきた浮遊物が破壊された。


「戦闘開始!!!」


 叫ぶと同時に俺が3人を下げる。


 ……【神狩り】が始まる!

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