第9話 歌姫と冒険者!
「良いですか、レディー。貴女が最初にするべきことは歌声に魔力を乗せること」
「声に……魔力……を?」
「イエス。難しいようですがコツを掴めば簡単です。では声をだしてください」
「~~~~~~!!」
エマが大きく息を吸い込んで声を出した。とても澄んだ綺麗な声だ。
だが、それにはバフもデバフも乗っていない。ただの声だ。
「~~~~~~~~!」
すると、先生がエマの声に共振させ始めた。先生は声を共振させたまま、魔力を声にのせた。不思議なことに、そうすると
エマはそれに目を丸くして驚いた。
そして、ぎゅっと手を握ると声が
今度は俺が驚く番だった。先生もこれにはちょっと驚いたように目を丸くしている。
「レディー、もうやめてもよろしくてよ」
「……どう、でしたか?」
「凄まじいですわね。レグですら1週間かかったのに、まさか数秒で使える様になるとは。もう一度、やってもらってもよろしくて?」
「はい……! ~~~~ッ!!」
エマの声はやはり2つ重なって聞こえる。
……てッ、天才だッ!!
この子は天才だぞ!!!
「結構。レディー、やはり貴女にはすさまじい才能が秘められています。次のレッスンに進めますね」
歌声に魔力をのせる、確かに難しい。これにはコツがいる。そのコツを掴むまでがひどく難しいのだ。それを、わずか数秒で。
「あの、先生」
ちょうど頃合いも良さそうなのでレグが挙手。
「何です、レグ。今は授業中ですわよ」
「なんで今お腹さわってるんですか」
そう、先生は授業が始まると同時に俺のお腹をぷにぷにし始めたのだった。
「これが契約でしょう」
「いや、まさか授業中にやられるとは思ってなかったって言うか……。邪魔じゃないんすか、触ってて」
「楽しいですわよ」
「……そうっすか」
じゃあもう何も言わないことにしよう。俺は黙りこくった。
ぎゅ、と先生が俺のお腹を握って続ける。
「次のレッスンはバフをかける練習ですわよ。そうですわね、近くにレグがいることですしレグにバフをかけましょうか」
「……はいっ!」
「“吟遊詩人”である
「……物語?」
「イエス。世界に
そして、先生はそっと歌い始めた。
それは筋力上昇、攻撃力上昇効果をもった歌だ。
先生は一番だけ唄ってそっとほほ笑んだ。
「という感じですわよ。どうです、レグ。効果のほどは」
「相変わらず、すごいバフですね。先生」
「ふふっ。久しぶりだから緊張しましたわ」
ぜってぇ嘘だわ。
「という感じです。これが歌詞ですわ、今からこの歌を練習しましょう」
「……質問、が、あります」
「ふふっ。何でも聞いてくださいな」
「冒険者同士、でも……敵に、なったりする。“吟遊詩人”の……バフは、両方……支援する?」
「その問いはイエスでもあり、ノーでもありますわ。レディー」
「…………?」
「一流の“吟遊詩人”は同じ歌でも味方に支援をし、敵を
エマはそれにこくりと頷いた。
「では歌いましょう。私と共に歌ってくださる?」
「……はいっ!!」
その日、エマは2つの歌を覚えた。
―――――――
昼すぎのギルド。パーティーメンバーで集合して、エマの成果を報告するとフェリが大きく驚いた。
「じゃ、じゃあ初日で歌を2つも覚えちゃったんですか!? エマちゃんが!!?」
「……うん」
「どうやら凄い天才だったらしい」
「……レグ、
そういって照れるエマ。可愛い。
「それにしてもレグの人脈も凄いね! あの“歌姫”と知り合いだったなんて」
「ん? うん。ま、色々あったんだよ……」
俺はそう言って
「さて、今日の目標を発表する」
「目標?」
「ああ、2週間でAランクになるって言っちゃったもんだから目標を細かく分けていこうと思って」
「なるほど……!」
2週間でAランク。あの時はほとんど思いつきのように言ってしまったが、パーティーメンバーからの反発は無く……というか、エマなんかはむしろノリノリでやろうやろうと言ってくれた。
「今日の目標はFランク依頼を9つ達成すること」
「9つも!?」
フェリが驚く。
「いや、あのな……。あんまり言いたくないんだけど、Fランクって冒険者の中でも初心者のためのランクなんだ」
「は、はい。それは知ってますけど……」
「だから、Fランクってのはギルドの依頼の受注とか冒険者の仕事のやり方とかに慣れるような依頼ばっかなんだよ。だから、大抵のパーティーは3日とかでFランクを抜ける。ほんとの初心者はEランクからだ」
俺の言葉に彼女たちは目を見合わせて、申し訳なさそうにうつむいた。
「だから、今日中にEランクに上がる。というわけで、俺が目を付けていた依頼たちがこれだ」
そう言って俺は
ゴブリン5体の討伐。スライム3体の討伐。コボルド5体の討伐。
ライム草10本の採取。コロコの木の樹液の採取。光苔の採取。
モドシキノコ7本採取。ゴブリン3体の討伐。ミレの実の採取。
「……ゴブリンの、依頼が……2つ、ある」
「ゴブリンってのは腐るほどいるからな。適度に数を減らさないと、すぐに繁殖して手が付けられなくなる」
ちなみにこれは5体倒せば3体のほうも解決するということではなく、8体倒さなければならない。
「なる、ほど……」
「他の依頼も難しいものじゃない。よし、行くぞ!!」
というわけで受付嬢に受注処理をしてもらうと、一同は森に向かった。
「おー。良いとこに生えてるじゃないか」
道中は【因果応報】と『
俺は木の影に隠れて生えている、真っ青なモドシキノコを根元から採取した。
「それが、モドシキノコ……ですか?」
「そうだ。分かりやすい見た目しているだろ」
「レグー! これもそう?」
マリが青いキノコを5本まとめて持ってくる。
「おー。それだそれだ。モドシキノコは似たような毒キノコが無いから見つけやすいんだよ」
というわけでさらに追加で2本採る。
「……レグ、それ8本目……」
「ん。ちょっと待ってな」
俺は周囲を探すと……あった。近くの木の枝に小さなつぼみがなっているのを見つけ、それを
「レグ……?」
エマが何をするのだろう、という目でこっちを見てくる。俺はポーチから手の平サイズのすり鉢と石の棒を取り出してキノコと花のつぼみをすり鉢ですり潰した。
そして、水をすり鉢に入れると指を入れて味見。うん、すーっとする味だ。これなら良く出来た方だろう。俺はそれにそっと魔力を込める。
「ほい、フェリ」
「……? なんですか? これ」
「治癒ポーションだよ。レベルは1だけど」
フェリは差し出されたポーションと、俺の顔を交互に見た。
「い、良いんですか?」
「怪我ばっかってのは辛いだろ?」
治癒ポーションは高価だ。
特に駆け出し冒険者にとっては何個も買えるような値段じゃない。だから、こうして自分で作るのだ。
「いただきます……!」
フェリがすり鉢の中の治癒ポーションを全て飲み干した。フェリは少し変な顔をしていたものの『……!!』と、何かにびびっと来たのか慌てて包帯を剥いだ。
「怪我が……治ってる!!」
「す、すごい! レグ凄いよ!!!」
「レグ……ポーション作れるの……!? 凄い!!」
「あ、ああ……」
「レグさん! ありがとうございます!」
地面に頭をこすりつける勢いで頭を下げるフェリ。その目にはわずかに涙が浮かんでいて。
「……ん」
まさかこんなに真正面から感謝されるとは思っていなかったので、思わず俺は顔を真っ赤にしてしまった。
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