第10話 昇格の冒険者!

「鑑定を頼む」

「なにこれ」


 どすん、と大きく目の前に置かれた荷物にマミは図鑑から顔を上げることなく尋ねてきた。


 ……だんだん接客が雑になってない?


「依頼の成果だ」


 俺はそう言って受注した依頼の数々をマミの机の上にひろげた。


「……ああ。9個も依頼を受けたのね」

「そういうことだ。鑑定をやってもらっても良いか」

「んー」


 そう言ってマミは荷物から1つ1つ取り出して素材を確かめていく。採取と行ったってただそれを取ってくれば良いってわけじゃない。素材の品質や状態だって見られるわけだ。


「はい、合格。おめでとう、『ミストルテイン』これでアンタたちはEランク冒険者よ」


 そう言ってマミはカウンターの下からEランク用のパーティー証を取り出した。


 かなりあっさりそう言って、マミは俺に手渡す。


「文字は……書けるよね?」

「ああ。大丈夫だ」


 冒険者の中には文字もかけないし、読めない連中が少なくない。俺は昔の仲間に教えてもらって読めるようになったし、書けるようになった。


「んじゃ、自分で書いといて」

「雑だな」


 俺は笑ってEランク用のパーティー証に『ミストルテイン』と記した。


「ほんとに2週間でAランクになるの?」


 マミは首を傾げてそう聞いて来た。


「ああ。だから今のうちに護衛の依頼を受けておきたいんだけど」

「そういうのはココに言ってちょうだい」


 マミは気だるそうに言って、ココさんを指さすとちょうど仕事の空き時間だったのかこっちにやってきた。


「え? 私ですか?」

「『ミストルテイン』がEランクに昇格したの。それで護衛の任務を受けたいって言ってるのよ」

「じゃあちょっと探してみますね」


 ココさんはそう言って依頼板クエストボードに向かっていった。


 ああ、ココさんの余計な仕事を増やしちゃった……。


 ココさんを引き留めようとした瞬間に、俺の服が後ろからちょいちょいと引っ張られた。


「ん? どした、マリ」

「なんで護衛の依頼を受けないといけないの?」


 そういって首を傾げるマリ。


「EランクからDランクに上がるためにはEランクのクエストを10回クリアすれば良いんだよ。けどな、DランクからCランクにあがるためには護衛のクエストを受けておかないといけないんだ。護衛の経験がないと、高ランク帯にギルドはしてくれないんだよ」

「そ、そうだったんだ……。知らなかった……」

「まあ、Dランクになったら受付の人が教えてくれるよ。けど、Dランク帯の護衛任務は日数が多いし、遠くの街までってことも少なくないんだ。2週間っていう短い間でランクを駆け上がるならEランクのいま受けておくべきなんだよ」

「レグ……。凄い。すごく、考えてる……!」

「ん。ありがと」


 俺がまた顔を赤くしていると、ココさんが帰ってきた。


「これとか、どうです?」


 そういって受け渡されたクエストを読む。


「ロッタルト伯爵領までの護衛任務ですか」


 確かにこれなら、1日足らずで行ける距離だ。


「それに加えて運搬クエストもどうですか?」


 運搬クエストの説明はほぼ必要ないだろう。Aの街からBの街まで荷物を運んでくれ、ただこれだけのクエストである。


「ん? ロッタルト伯爵領までのですか?」

「はい。そうですよ」


 ただ気になるのがそこだ。ロッタルト伯爵領までは道が整備されてあるし、距離も近い。冒険者にわざわざ依頼するほどか……? とは思うのだが。


「レグさん。行くついでなら受けておきませんか?」

「そだな。そうしようか」


 そんな難しいことを考えたってどうしようもない。貴族のやつらには貴族のやつらの考えがあるのだ。


「護衛クエストは明日の朝からなんですけど大丈夫ですか?」

「明日ぁ!? なんでそんなギリギリの任務が残ってるんですか」


 と、俺が聞くとココさんは申し訳なさそうに、


「その、ロッタルト伯爵領までで銀貨30枚なので……」

「やっす……」


 そりゃ誰も受けんわ。ってかギルドもよくそんな依頼通したな。


「まあ、いまは金額にとやかく言ってる場合じゃないんでそれ受けます。って良いよな?」

「レグさんが決めたなら大丈夫です」

「リーダーの決定にさんせー!」

「レグ、に、任せてる……」


 期待が、重い……っ!!


「じゃあ受けます」


 というわけでロッタルト伯爵領に行くことになったわけだが、


「荷物は必要最低限で、な」


 俺は3人に釘をさしておく。数々のパーティーの経験則だが、こういうクエストになると女は多くの荷物を持ってくる傾向にある。旅行ならそれでも良いのかもしれないが、今回はクエストだ。荷物は増やせない。


「大丈夫、です」


 だが3人を率先してフェリがそういった。


「荷物、無いので……」

「悲しいこと言うなよ……」


 でも言われてみればそうだ。俺だってFランクの時は自分のものを買う金なんて無かった。武器や防具を買うだけで生活苦である。


 ということでその日はその場で解散となった。




「貴方たちが護衛してくれる『ミストルテイン』ですか?」

「リーダーのレグだ。よろしく」


 朝、街の門の近くで俺達は依頼主と待ち合わせた。依頼主は駆け出しの行商人と言った感じの、まだ幼さが残る少年だった。それなら金の少なさも頷ける。駆け出しだから金が無いのである。


「その、後ろの荷物は……?」

「運搬クエストをついでに受けてるんで、それです」


 誤算だった。フェリたちはマジで荷物を持ってきてなかった。むしろ、盾がデカい分俺の荷物が一番大きいくらいだった。だが、ついでに受けた運搬クエストの荷物が思ったよりも多かったのだ。


 とは言ってもほとんどが素材なので軽いのだが。


「な、なるほど……? 馬車にのりますかね、これ……」

「最悪、俺が走って持っていくんで大丈夫だよ」

「は、走るって……。冒険者さんはいざと言う時の保険なんでちゃんと休んでおいてくださいよ」


 そう言われると弱い。


 俺達が荷台に乗り込むのを、少年は確認してから馬車を進めた。


「レグさんはロッタルト伯爵領に行ったことはありますか?」


 御者台で前を見ていた俺に少年が話しかけてくる。


「あるよ。伯爵が、なんというか……軽い人だからな。街の活気も凄い場所だよ」

「実は僕、行くのが初めてなんです」

「独り立ちしたばっかりとか?」

「そう! そうなんです! これが行商人として初めての仕事なんですよ!!」

「……元気なのは良い事だけど、そういうのは言わない方が良いよ」


 こればっかりは、冒険者として彼に忠告しておかなければならないだろう。


「……? 何でです?」

「冒険者ってのは誰もがまともじゃないってことだよ。特にそういう自分の実力不足を出すような発言はまずい。君だって荷物を奪われて殺されてモンスターの餌なんかにはなりたくないだろう?」


 俺の言葉に少年はこくこくと頷いた。


 悲しいことに全ての冒険者の人格が出来ているわけじゃない。中には捕まらないからって犯罪行為を繰り返しているやつだっているのが現状だ。


「まあ、暗い話ばっかりしてたって仕方ない。この話は終わり。これからは気をつけてな」

「は、はい!!」


 少年はそういって頷いた。


 その若さが羨ましいね。


「その、レグさん。1つ聞いてもいいですか?」


 少年はちらりと荷台を見て小声で聞いて来た。荷台に乗っている3人は後ろの警戒に当たっている。もうしばらくすると緊張がほどけてくるころだろう。


「どした?」

「3人全員に手を出してるんですか?」

「うぉおい!!!??」


 こいつは若いなぁ!?

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