第35話 神に魅了された者
私は神父様に連れられて大きな教会の中へと入っていった。
神父様はとても敬虔な信徒で皆から慕われているらしい。
しかしそれは当然のことだと思った。
みんなのために尽くしている私を見つけてくれて、孤児という身分も関係なく迎え入れてくれようとしているからだ。
私はきっとここでもみんなのために働いて見せる。そう思って心を躍らせていた。
建物の中へと入ってくとあちこちに信徒の人たちがいた。
やけに周囲を警戒しているような感じがするのは気のせいだろうか。
奥へと入っていくと大きな祭壇がある部屋まで案内された。
大きな祭壇のある部屋の真ん中には黒い大きな魔法陣が描かれており、その周りには他にも神父様が何人もおり、ただ一人魔術師のような恰好をした人が呪文を唱えているのが見えた。
そして真ん中には真っ白な服を着た人が横たわっている。
……一体何をしているんだろう?
魔術師の人が呪文を唱え終わると、魔法陣が黒いもやのようなもので包まれた。
するともやの中から真っ黒なおぞましい見た目をした竜のような生物が現れ、魔法陣の真ん中で寝ていた人を丸のみにしてしまった。
満足したのかその黒い竜はゆっくりともやの中へと戻っていき、何事もなかったかのようにもやは消えて部屋は元の姿へと戻った。
「これは、一体……!?」
「そう慌てることはない。彼らは自分から望んでやっていることなんだ」
神父様が私の隣に立ち私の肩を叩きがら優しく声をかけた。
しかし、いつもは暖かく感じる神父様の声はやけに冷たく感じた。
「どうしてこんなことを……!?」
「もうじき、この地に神が降臨される。私たちはその手伝いをさせていただいている。
実に光栄なことだ。神が私たちのような矮小なる人間の犠牲で復活に近づけるのだから」
神?神って……
一体なんのことを言っているんだろう。
神さまは私たちを天の上から見守っているだけで、降臨するなんてことがありえるのだろうか。
「君は神に選ばれたんだ。喜びなさい」
私が?私もあそこに寝かせられて……さっきの人みたいにあのおぞましい竜に食われるのでだろうか。
「で、でも私……こわい、です……」
「怖がることはない。これは死ではない。救いなんだ。
神が降臨されれば皆が幸せになれるんだ。誰も苦しまない。
お腹がすくようなこともなくなる。奪い合う必要だってなくなる。
実に素晴らしいことだ」
神父様の言葉はまるで魔法のように私の心に入ってくる。
少しずつ、少しずつ私の心を溶かすかのように。
「本当に……みんなが幸せになれるんですか……?」
「当然だ。私の言葉を信じなさい」
「………分かり……ました」
「良い子だ」
****
「あいつ……」
俺はどうしても気になってあの神父とテレシャのあとをついていった。
そしたらこの妙な建物の中に入っていった。
気配からしてろくなものじゃなかったが、まさかこんなクソみたいな実験をやってるとはな。
何が幸せだ。何が神だ。
歯の浮くような美辞麗句を並べたてて結局は生贄が欲しかっただけじゃないか。
人助けするなんてものは好きじゃない。
だがああいう『善意のある人間』につけこんで『人のためにすべき』という考えを他人に強要しながら自身は甘い汁すすってるような矛奴らのことが気に入らない。
奴らを心底ぶっ壊してやりたい。
俺にかかればこんな組織一瞬で粉々にできる。
俺はすぐにでも乗り込もうとした。
しかし、その直前で誰かが俺の肩を叩いた。
「待テ」
後ろにはブランがいた。
――なんなんだコイツは。この俺の後ろをとるなんて……
一体いつから俺の後ろにいたんだ!?
「な、なんだよ」
「お前、勝手に乗り込もうとしてたナ」
「悪いかよ。言っておくが、てめぇに指図される筋合いは……」
ブランはため息をした後、俺の首に針のようなものを刺した。
「てめぇ、なにをし……」
怒ろうとしたが、ブランにつかみかかろうとする前に俺は意識を失いその場にゆっくりと倒れこんでしまった。
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