第28話 第4回ラーラ幸せ会議

 次の日。同じようにブランが食堂の机の上に立ち、腕を組んで偉そうな態度を取りながら幸せ会議を始めていた。


「というわけデ、本日の『ラーラ幸せ会議』を始めるゾ」

「……この前ので体しんどいんだけど……やるの?」

「何を言ウ。習慣と言う物は一日たりとも欠かしては習慣にはならんのダ。

やると決めたら継続せねば何事も意味はないのだネ」

「……偉そうなこと言って……気分屋のくせに………」

「死の五言わずやるゾ」

「はーい……」

「思ったんですが、美味しい料理を食べるとかどうでしょうか。

 私はりんご料理ならいくつか作れますよ」


 私の隣の椅子に座ってたエウロが右手の指を上に向けながら案を出した。

 ブランには出せないようないい案だと感じたので私は少しうれしくなってしまう。


「あ、りんごとか一族の村でも滅多に食べれなかったし、それはいいかも」

「でしょう。早速私が腕によりをかけて作りましょう」


 ブランが私とエウロの間あたりに移動し、会話を遮った。


「マテ待て待テ。待つのだヨ。何故当たり前のように俺様の屋敷に居座っているのだ小僧」

「別にいいじゃないですか減るもんじゃなしに。

 幸せ会議っていうのも楽しそうですし。

 貴方にしては面白いことを考えつくじゃないですか」

「ていうかアトリエは大丈夫なの?」

「森への採取とかでしょっちゅう留守にしてるんで今更ですよ。

 用事のある人は書置きしておいてって看板置いてますし。なんなら今はロナに任せてますし」

「……結構いい加減なのね……」


 ブランに負けず劣らず彼女もいい加減なようだ。

 私とエウロの会話を聞いていたブランが苛立たしそうに足で机をこつこつと叩きながらエウロを問い詰めた。


「そもそも何しに来たのダ」

「ことの報告ですよ。

 上に報告しておいたので領主殺しの疑いが貴方にかけられることは無いでしょう。

 が、疑いが完全に晴れたわけじゃありません。事の真相を確かめるためにも、私が監視しなければなりません」

「ソウカイ」


 ブランは心底興味なさそうな顔をして後ろを向いてしまった。

 私は気になることがあったので問いかける。


「あの魔獣の調査はどうなったの?」

「どうやら結界が原因でした。というより、結界が完璧すぎたことが原因だったんです」


 エウロは手元から森の分析結果が描かれた紙を取り出して机の上に置き、私の方に見せる。


「あの森の中心には大きな穴があったみたいでそこから魔素が噴出していたんです。

その周囲を結界で囲んでいたので森の中の魔素濃度が上がり続けてた結果あのような異常な魔獣が生まれたみたいでした。

今後は周囲に影響がない程度に魔素を外に逃がせるように結界を改良するつもりです」


 そんなことがあるのか。

 改良とか簡単に言うけれど、あの大規模な結界を改良するのがどれだけ難しいか私には想像もつかない。

 錬金術にしても魔術にしても、この二人は私と次元が違いすぎてとてもついていけそうにない。


「……ていうかロナに任せたって言ってたけど、ロナはどうしたの?」

「助手になってもらいました」

「……え、助手?」

「彼女の身体能力は知識量、サバイバル技術を買い、私の仕事や研究の手伝いをしてもらうことにしました。それのお礼として、彼女に魔術を教えようかと。今は採取に出掛けてくれています」

「でも、なんで急に助手なんか……」

「『もっと人に頼るべき』でしょう?なので、私は彼女に頼ることにしました。実際、早速私が必要としている魔術の材料を集めてきてくれますし、非常に助かってます。」

「……そっか」


 私はエウロの導き出した答えに満足し、そのまま話を続けようとするが横にいたブランが邪魔くさそうな顔をしており、エウロをなんとか追い出そうとしていた。


「用が済んだなラ。帰れ帰レ。」

「嫌です。私はもっとラーラさんとお話がしたいので。

 それに、貴方自身にも興味がありますし」

「ホウ?」

「人形でありながら人形錬金術師として人類に協力する謎の存在。

 貴方の正体は果たして何なのか。そしてその目的は。

 今はひとまずは人類に敵対はしていないとしても、貴方がもし魔物で人々に仇なす存在ならば、私は貴方と戦わなければなりませんから」

「ケッケッケ。ご苦労なことダ」

「それに、貴方の秘密を漏らさないか、私が近くにいた方が監視がしやすくて都合がいいでしょう?」

「フン。勝手にするがいいサ」

「そうさせてもらいます。というわけで、りんご料理を私が振る舞いましょう。これ貰いますよ」


 そう言ってエウロは机の上の籠においてあった林檎を手に取る。

 それを見たブランは右手を横に振り糸を出してエウロが手にとった林檎を取り上げた。


「勝手に屋敷の物に手を付けるナ」

「いいじゃないですかりんごの一つや二つ。それに、さっき勝手にしろと言ったばかりじゃないですか」

「アタシの屋敷の物に手を付けていいと言った覚えはないネ。

 それニ、幸せ会議用に持ってきたとっておきの物があるのダ。

 アタシがそれをコイツに与えて実験するのが先だネ」

「そんな実験動物のような扱いで人を幸せにできると?

 私が先に手本を見せてあげますから大人しく見物しててくださいよ」

「ケッケッケ。アタシの実験邪魔する者は許さんのダ。人形錬金。雑用係スレイブチルドレン

「なんですか。やろうというのですか」

「お前を屋敷の外に追い出すだけダ。大人しく運ばれるのだナ」

「お断りします。この歳で運ばれるなんていう惨めなことをしたくありません」

「ケッケッケッケッケ、それならお前をボコボコにしてアタシの恐ろしさを血に教え込んでやル。サァ人形たちヨ。目覚めるのでス」


 ブランが両手を上に広げて木人形を大量に呼び出す。


「それが貴方の力ですか。まさかその程度の数でこの私を倒せると?」

「何を言ってるのダ。これは前菜ダ。ここから悪夢のフルコースが始まるのサ!食いきれませンと謝っても許してあげないネ」

「いいでしょう。……体内の魔素。充填。半月の杖、目覚めよ」


 エウロは杖に念を込め、辺りに魔法陣を展開する。

 ブランも次々と木人形を呼び出し、今にも戦いが始まりそうだった。


「ちょっと!ちょっと待って!戦っちゃ駄目!」


 私の静止も聞かずに食堂の中で魔術師と錬金術師の戦いが始まってしまった。

 椅子は吹き飛び、机はひっくり返り、棚は倒れ、壁掛けは剥がれ落ちる。


「ちょっとぉお!!誰がこれ掃除すると思ってんのぉおお!!」


 ……と、まぁこんな感じで、エウロはブランの屋敷に入り浸るようになった。

 こうして、騒がしい家族が増えたのであった。


****


「しばらく部屋の中で反省してろ!」


 どこかの場所にあるとある部屋でそう叫ぶ声が聞こえる。


「チッ。面倒くせぇ」


 大きな城の窓から地面を見下ろすその人物は人間の子供くらいの背丈で肌は真っ白で黒くて短い髪、そして闇夜に紛れるような真っ黒なコートを羽織っていた。

 その姿は、伝承にある吸血鬼そのものだった。


「……こうなったら、逃げ出して人間の国にでも行ってやるか」


――そしてまた、新たなる嵐は吹き荒れる。

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