第12話 領主の計画
翌日、どうしても嫌な予感がしたので町の様子をこっそりと見に行った。
すると薬屋の方に人だかりができていた。しかしそれは良い意味でのものではないようだ。
人々は手に薬瓶といった店の商品を持って薬屋の人に苦情を言っているようだった。
……そして、その薬の張り紙にはあの特徴的なブランの紋章が描かれていた。
私はブランから貰ったローブを脱ぎ、折りたたんでしまい込んだ。これを付けたままだとブランのところの人間だと主張しているも同然だったからだ。
私は人混みの近くで野次馬らしき男性がいたため、話しかけて事情を聞くことにした。
「あの、一体何があったんですか?」
「あぁ、どうやら今朝からこの町の錬金術師のブランが作った薬を買った人たちが騒いでるらしくてな。薬を飲んだらむしろ具合が悪くなったとか毒だったとか全然効かないって皆言ってる。俺も薬を買いに来たんだが……どうやらやめといたほうが良さそうだな」
それを聞いた瞬間、私は昨日ローゼスが言っていた言葉を頭の中で思い返した。
『次の時にはお前の主人の気も変わってるだろう』
……あれはそういう意味だったのか。
この町の物流を握っていると言っていたが、まさか本当にこんなことをするなんて。
ブラン個人に嫌がらせをするならともかく、町の人たちを巻き込むようなことをするなんて何を考えているんだろうか。
ブランが普段どういう薬を売っているのかは知らないが、今日一日でこれだけの人たちが苦情を言いに来ているということは逆に言えばそれだけたくさんの人たちが薬を買っていたということ。
もしこのことがきっかけで病気の子の症状が悪化してしまったり、助かるはずだった人が助からないような状況になったりしたらどうするつもりなんだろう。
私はすぐにブランに報告するために屋敷の方へと戻ろうと走り出した。
私は走りながら色んな事を頭の中で考えた。
……というかそもそも、何故彼はここまで錬金術師のことが嫌いなのだろうか。
こんな裏で細工をしてまで。もしかして、何か恨みでもあるのだろうか。
あれこれと考えていたが、当然答えが出るわけもないので、大人しく屋敷に戻ろうと走り続ける。
向こう側から馬車が走ってくるのが見えた。
馬車は私の目の前で止まった。
あの馬車……どこかで見たことがあるような……
私は思わず立ち止まって馬車を眺める。
待てよ……まさか……あれは……
しばらくすると馬車から一人の男が降りてきた。その男は予想通りローゼスだった。
当然、後ろには聖騎士たちを引き連れていた。一体なぜここに……?
ローゼスは私の方を見ると口を開いた。
「お前に話があって来た。うちに来る気は無いか。悪いようにはせんぞ」
「なっ……一体何を言って……」
ローゼスからの言葉は思いもよらないことだった。
うちに来る?一体何を言っているのかが分からない。
唖然としている私の様子を気にもせずローゼスは話を続けた。
「お前、自分の家族を探してるそうだな。私が代わりに探してやってもいい」
「……え?」
「実を言うとサバンの一族を一人所有している。会わせてやってもいい。」
それを聞いた瞬間、心が揺らぐ。
町で騎士の一人が話していたことは、嘘じゃなかったのか!
「まだ一人しかいないがな。また見つかれば他の連中に捕まる前に手に入れるつもりだ。どうだ?悪い話じゃないだろう」
「あんなことしておいて、そんなことを信じろと?」
「あんなこと?さて、何の話か分からないな」
「町でブランの薬に変なことしたのはあんたでしょ!」
「言いがかりはやめてもらいたい」
昨日あんな脅しをしておいてしらばっくれるつもりなのか。
私は思わずローゼスを睨む。
しかしそれすらも一切意に介さず話を続けた。
「奴はこの町にとって害悪なのだよ。それが何故分からない?」
「……どうしてそこまでブランを目の敵にするの」
「目の敵にするも何も、錬金術師なんざ皆害悪だ。
奴隷にしてはやけに可愛がられてるようだが、何故そこまで奴を信用する?錬金術師なんて金か己の探求欲のために生き物のことを物としか見れないような奴しかいないんだよ。
町の住人には好かれてるようだが、私は騙されん。あんなもの偽善だ」
……気に入らないけど、ローゼスの言っていることは何も間違っていない。
他の錬金術師のことは知らないが、少なくともブランは己の錬金術師の研究のために私のことを幸せにするだとかなんだとか言って優しくしているだけだ。
もし、私の血が幸せになることではなくいたぶることで変化するのだとしたら、彼は喜んでそれを実行に移していただろう。
街の住人に対して良い顔をしているのも研究を邪魔されないため。そのくらいの理由だということも予想はつく。
——私の最優先すべきは家族を見つけること。
ブランは私の家族を探すといった。しかし未だに一人も見つけてはいない。
この男は既に一人所有していて会わせてくれると言う。だったら………
……待てよ。あいつ、さっき何て言った?
「結論は急がなくてもいい。私の屋敷に来てくれさえすれば……」
「……結論は出てる。……あんたにはついていかない」
「何故だ?」
「あんた、さっき言ったわね。サバンの一族を『所有』してるって。保護でも居住でもなく『所有』って。まるで物に対して言うかのように」
「………」
「さっき錬金術師は生き物を物として見れないような奴ばかりって言ったわよね。でもその言い方。あんただって生き物を、いや町の住人のことだって物としか見れないじゃない。私は騙されない。あんたは偽善すら持ってない」
「……!」
「確かにブランはデリカシー無いし幸せがどうとか言って人間の幸せというものをこれっぽっちも理解してないようなクソ野郎だけど……あんたよりはよっぽどマシ。それで言ったら錬金術師なんかよりもあんたの方がよっぽど……」
「……今なんと言った?」
「錬金術師よりもあんたの方が害悪だって言おうとしたけど。」
錬金術師よりも下。それを聞いた瞬間冷静な態度を装っていたローゼスの顔つきが変わった。
次の瞬間、ローゼスが私の胸倉を掴み近くのゴミ捨て場に向かってたたきつけた。
私はそのせいで体が埃まみれになり地面に手をついた拍子にゴミ捨て場にあったガラス瓶が割れ、右手に血が流れた。
「この私を!あの錬金術師よりも下等と抜かしたか!
集落で引きこもっているような低俗で愚かな下等な一族が……!この私を!」
今まで冷静な態度を取っていたローゼスの口調が荒々しく変化する。
『錬金術師よりも下等』その言葉がローゼスの逆鱗に触れたようだった。
……しかし、こちらも同じだ。
「下等な一族……?あたしの家族のことを侮辱するな!私たちのことを何一つとして知らないくせに……!」
「黙れ!そうやってお前ら一族がそうやすやすと襲撃を受けて崩壊していることこそがお前たちが愚かな証拠なのだ!」
私は右手にガラスの破片が刺さっていることも気にせず、立ち上がり今度は私がローゼスの胸倉を掴んだ。
私の血が服についたのが気に入らなかったのがローゼスは更に表情を険しくし怒り出す。
「その汚らわしい一族の血で私に触れるな!」
「汚らわしい汚らわしい煩いのよ……!正直言って錬金術師のことなんてどうでもいい。ブランのことなんて言われようが知ったことじゃないけど、私は私の家族を悪くいう奴だけは許さない!」
そう叫んだ瞬間、血だらけの手が紅く光り血が発火し両手が炎に包まれた。
私は怒りのあまりその異常な事態に意識が向かなかった。私はローゼスを憎み、許せないという心を強く思うとその炎は更に強くなっていった。
「な、なんだこれは……!」
「ローゼス様!」
炎がローゼスを包み込みそうになった瞬間、聖騎士のランスが私とローゼスを突き放した。
距離が取られたが、私は炎を手に纏ったままローゼスに向かい走っていく。
……しかし私は怒りのあまり気が付いていなかった。さきほどまでローゼスの傍にいて守りを固めていたはずの聖騎士が視界から消えていたことに。そのことに気が付いた時にはすでに聖騎士は私の背後に回り、剣の鞘を私の首筋に当てていた。
私はそれによってそのまま地面に倒れこんだ。
「ただ直進してくるだけの人間など獣の対処よりもたやすい。多少の魔術が使えるくらいで私に立ち向かおうとは。ローゼス様、お怪我はありませんか」
「あぁ……だが服が少し燃えた……」
聖騎士ランスの言葉を受けて落ち着い
しかしローゼスは何かを思い出したように燃えかけた服をさぐる。
ローゼスは服の中から取り出した一枚の紙切れを取り出し、紙切れの端が焦げていることに気が付き、憤慨する。
「この小娘が……っ!」
「お待ちください、ローゼス様」
「……なんだ。」
「どうか落ち着かれてください。これはこれ以上ない好機なのでは?」
「……どういうことだ」
「この娘。このまま連れ去れるのでは?」
「……そうだな。途中で予想外のことはあったが……このまま予定通りに進ませる。連れて行くぞ」
「御意に」
私は意識のないまま馬車に乗せられ、そのまま運ばれていった。
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