第13話 謎の力
どのくらいの時間が経っただろうか。目を覚ますと手足が縛られ口が塞がれた状態で馬車の荷台に載せられていた。
奥の方からローゼスとランスの話し声が聞こえる。頭に血が足りないのか、記憶がはっきりとしない。徐々に記憶を思い出していく。
ローゼスにサバンの一族を探してやると誘われた。しかし私は断った。そしたらローゼスは私の家族のことを侮辱した。それに怒って……
そこでようやく私は自身が突然発現した力について思い出した。
(あの力は……一体……?)
私は魔術を習ったことも無ければ使ったことも無い。魔術というものは家族に魔術師がいれば使ったことが無くても使えることもあるらしいが、私の家族に魔術師はいない。
さっきの力のことを思い出してみる。力が発現した時、私の血が紅く光り、燃えた。つまり私の力は血が元となり発現するということ。
荷馬車には一人見張りがいた。しかし、油断しているのか大あくびをして頬杖をついている。……隙はある。
服にガラスの破片が挟まっていた。私はそれをなんとか手繰り寄せ、手のひらを切る。
血に向かって念じてみるが、先ほどと同じようにならない。
「……それで、もう一人は?」
「例の場所に送らせるように手配してあります」
「そうか……ようやく……!」
「あの錬金術師も既に呼んであります」
「ご苦労。仕方がないとはいえ錬金術師の手を借りることになると忌々しい。まぁどうせ儀式が終わるまでだ。終わり次第消すぞ」
「御意に」
『もう一人』とは何のことだろうか。それに「儀式」とは?分からないことが多すぎる。
「汚らわしい一族だが、生贄として私に役立ってくれるなら捕まえた甲斐があったというものだ」
また言った。私の家族のことを……!
まただ。はらわたが煮えくり返るようなこの感覚。ついさっきも感じたことだ。私の大切な家族。一族のことを侮辱されるこの気持ち。その怒りが心に立ち込めた瞬間、手の平の血が紅く燃えた。
(やった……!)
私はその炎を使って手と足を縛る縄を燃やした。そして残った炎を馬車に放った。
そこまでしてようやく気が付いた見張りがあっけにとられているうちに体を蹴り飛ばし荷馬車から追い出す。その隙に私は荷馬車から飛び降り、森の中へ逃げる。
「……!?一体何事だ!?」
「に、荷馬車が燃えています!」
「何!?見張りは何をしている……!」
「ローゼス様。あそこ。サバンの女が森の中へ逃げます」
「早く追え!」
何とか荷馬車を抜け出し、森の中を走る。森のどこかに隠れ場所があるはず。そこに隠れていればそのうちブランが助けにくるはず。
そう信じて道のない森の中を走っていたが、しばらくすると突然私の体が動かなくなり、そのまま地面にうつ伏せに倒れこんだ。もう一度体を動かそうとしたが全く言うことを聞かない。
(い、一体何が……!?)
さらには意識が朦朧としはっきりしなくなってくる。
なんだろう……これは、朝起きて急に立ち上がった時とかに頭がくらっとなるやつに感覚が近い気がする。頭に血が行き届いていないような。
血といえば……まさか……これ……さっきの反動……?
かすかに後ろから足音と声が聞こえた。もう追い付かれてしまったのか。
「おい、いたぞ。こんなところで動けなくなっているとは間抜けな奴だ。二度と逃げられないように足の健を切っておけ」
「はい」
騎士の一人がじりじりと私に近づいてきて、騎士が剣を掲げた。
このままじゃ……私は……
体を動かしたくとも指一本たりとも動かない。
私は目を食いしばる。……しばらく待ったがなかなか私の足は斬られない。
「お、おい何だこれ!なんなんだこいつ!?」
後ろで騎士が慌てている声と、剣が弾かれた金属音が聞こえた。
はっきりしない意識の中で、散々聞かされたあの奇怪な声が聞こえた。
「危ない危なイ、流石にそこまでは許容できんナ」
「……な、なんだお前は!」
「名前は聞いたことくらいあるだろウ。世界で五本の指に入る伝説の錬金じゅちゅし。
……錬金術師。ブランケウン・ミードルだ」
「何だと……!?」
「くっそ……!」
騎士の一人が左右から同時に剣を上に掲げてブランへと襲い掛かる。ブランは斬撃を紙のような動きでひらりと躱し、無駄が全くない動きで切り裂いていき、あっという間に三人を倒す。
ブランは手を口に当てながらけたけたと笑っている。
しかしその後ろにいた騎士がその隙を見てブランを真っ二つに切り裂いた。
「ギャァァァァーー」
「よし……!」
「ヨシじゃねえヨ。自惚れすぎだロお前」
ブランは二つになったまましゃべると、あっという間に切られた場所をくっつけ、指を横に振ると騎士の体がまるで大きな熊の爪で切り裂かれ方のような大きな五つの傷がつきその場に倒れた。
ブランは悪だくみをするような恐ろしい顔でけたけたと笑うと残った騎士達のように顔を向ける。
「ケッケッケ。アタシの所有物を狙うとハ。今なら半殺しで許してやル。次は誰ダ?」
「……私が行こう。それにしても、かの有名な錬金術師の正体が魔道具の人形だったとはな」
聖騎士ランスが前に出て、剣を突きつける。掛け声と同時にブランに切りかかる。
聖騎士は何度もブランを斬ろうと剣を振るがブランは全ての攻撃をさらりとかわし続ける。
「お前、本当に騎士カ?当てようとしてんのカ?聖騎士とか言ってさぼってばっかいんのカ?」
流石に退屈になってきたのかブランは宙に浮いたまま両手を後ろに組み足を交差させてハンモックに寝そべるような体制を取って聖騎士を煽る言葉を吐いた。
それを聞いた聖騎士ランスは流石に起こったのかぶつぶつと声を出し、剣に向かって魔法陣を描くと、剣が光り始めた。
「私を愚弄するとは……いいだろう、私の力を見せてやる」
「ン?なんだそレ」
「ハァァァアア!!」
次の瞬間、聖騎士の光った剣がブランを貫いた。
聖騎士の剣の光はブランの体を貫いても消えず、寧ろ更に光を増していった。
次第にブランの体が金色の結晶のようなもので包まれていく。
「これハ……?」
「私をただの剣士だと侮ったな。封印魔術が使える封印剣士だ。貴様のような再生能力を持った奴も、こうして封印してしまえば終わりだ」
ブランの体が光と魔法陣に包まれたと同時に結晶に包まれ、そのまま封印され琥珀のような状態になる。
聞いたことがある。再生能力を持つような特殊な魔獣は封印魔術を使い封印して倒すことことがあると。
ブランは、魔法石に閉じ込められて封印されたということ?
聖騎士はブランの封印された魔法石を足で踏みつけて壊す。
ブランが……死んだ?いや、壊された?あんなにあっけなく……
「連れていけ。どうせ動けないだろう」
「はい」
聖騎士は壊したブランの破片のことは意に介さず、そのまま私を元の荷馬車へと運んで行くのだった。
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