第8話 聞き込み調査
翌日。このもやもやした感情をどうにかするために気分転換に町をうろついていた。
幸せについての研究だからとか言ったらブランはあっさりと了承して同じように馬車を手配してくれた。
昨日ブランが何気なくはなった一言。
『気長に待て』
あの言葉のせいでどうしてもブランのことを信用できなくなっていた。
私の焦っている気持ちを理解していないようだった。
ブランはあの様子だと人間の感情を読むのが苦手なのだろう。
もしかしたら一人二人死んでたとしても大した問題じゃないとか考えているのかもしれない。しかしそれじゃ駄目なのだ。私はあの頃の生活を取り戻したい。そのためには例え一人でも欠けていたら駄目なんだ。
「なんとかして私だけで家族のことを調べる方法がないものか……」
そう考えながら町を散策していると、ある店の看板が目に入る。
前にブランが持ち帰って来たお父さんが作るスープと同じ味がするスープを作っている料理店だ。
もしかしたら、ここの料理長の人に聞けばお父さんの手がかりがつかめるかもしれない。
そう思ったが、中に入りたくても入ることはできなかった。
何故なら中はお客でいっぱいで、店の人たちも非常に忙しそうにしている。
この状況で料理長の人に会うのは難しいだろう。
……待てよ、ブランはこの店の人とコネでもあるのかよく分からないが、何故か料理をお持ち帰りしていた。ということはブランに頼めば……
『アン?スープの味?んなもんたまたまだろウ。調べる価値などないナ』
……あいつならそう言いそう。
店の人に聞こうにも定休日もだいぶ先のようだし、一旦店の人に聞いてみるという作戦は諦めることにした。
街の散策を続けていると、道に人だかりがあり、その視線の先の壁に人の顔が描かれた紙がいくつも貼られているのが見えた。
「あの、すみません……あそこに貼られてるのって……?」
「あぁ、人探しさ。行方が分からなくなった家族だとか恋人をここに貼ってるんだ。
どうやら、ある貴族の息子の行方が分からなくなったらしくてな。見つけたものには高い報酬が支払われるんだってよ」
その話を聞いた瞬間、私の頭の中に一つの考えが浮かぶ。
町で聞き込み。その手があったか。
ひとまずは町で聞き込みでもしてみればもしかしたら見かけたという人に出会えるかもしれない。
私はさっそく町の広場であるいていた人に話しかけて聞き込みを始めた。
「あ、あの……」
「ん?なんだ?」
「その……人を探していまして。私の家族なんですが……私みたいに髪の毛が白金色で肌が白いのが特徴なんですが……」
「性別は?年齢は?」
「あ、えと……色々……」
「……色々?」
……しまった。何も考えずに行動することが先になってしまった結果かなり怪しい聞き方になってしまった。
「あ、分かったぞ」
「あっ……」
「お嬢ちゃん、家族とはぐれたんだな。ははっ。その年ではぐれたって言うのが恥ずかしいのは分かるが、曖昧に言われすぎると流石にこっちも探せないからな」
「……は、はい……」
怪しまれたかと思って冷や汗をかいたが家族とはぐれたと勘違いしてくれたので私は安堵した。
「幸い、外見は特徴的だから、見かけたら伝えるよ」
「あ、ありがとうございます……」
通りがかりの男性はそう言って立ち去った。
その後しばらく何人かに聞き込みをしてみたが一人も知っている人はいなかった。
広場のベンチに座りこんで頭を抱える。
……やっぱり私はあいつの言う通り、ただの世間知らずの役立たずなのだろうか。
今こうしている間にも家族が酷い目に合っているかもしれないというのに。このまま何もせず、屋敷でブランがどうにかするのを永遠と待っていることしかできないのだろうか。
これからどうしようか考えていると、周りが何やら騒がしいことに気が付いた。
周りの人たちの目線の先には周りの人たちの目線の先には数十人の騎士たちがいた。
見た目は軽装の鎧に剣や槍などを携えている。
そして、その先頭には白銀の鎧を身にまとった金髪の男がいた。どうやらその金髪の騎士が騎士達のリーダーのようだった。
「騎士?なんで騎士たちがこんなところに……」
集落で孤立した生活を行ってきたがために世の中の常識に疎いが、この状況が不自然なことは分かる。
傭兵は依頼を受け、報酬をもらい動く。それに対して騎士は自身で主君を決め、その元で忠義を尽くして戦う、誇り高き戦士である。
……要するに、プライドが高い人が多いということだけど。
下の一般兵なら分かるが、見るからに階級が上の騎士も何人もいる上にかなりの人数を引き連れている。
よほどのことがない限り、この数で動くなど滅多にない。
そのはずの騎士団が、町の広場に隊列を成していた。
一体誰の命令で動いているのだろうか……
そんなことを考えていると、あろうことか、先頭に立っていた騎士が私の目の前で立ち止まり、声をかけてきた。
「お前か」
「な、なんです…?」
「こいつが、報告にあった人間で間違いないな」
「はいランス様。間違いありません」
「私ただ買い物に来てるだけで……」
すると騎士達のリーダーと思しきランスと呼ばれていた騎士がゆっくりと近づいてきて、私の横に立った。
あの胸につけた白い紋章……騎士よりも上の階級に位置する聖騎士のようだ。
「嘘をつくならせめて態度に出さないことだ。サバンの小娘」
ランスと呼ばれていた聖騎士は冷徹な声で全てを見透かすように囁いてきた。背筋が凍りつく思いだった。
「お前が探している人間の特徴がサバンの一族に一致している。
運が悪かったな。この私がすぐ近くにいる時に不用心に聞き込みなどするとは。
大方、この町で同族がいないか聞いて回っているんだろうが、もう少し慎重になるべきだな。」
「う………」
「お前のような奴がなぜこの町にいるのかは知らんが我々は丁度お前たち一族の存在が危険なものとして捕縛して回っているところだ」
「き、危険……!?なんでそんな……」
「お前たちの集落は襲撃されたということは既に周囲の町に広まっている。何者かがお前ら一族を狙っているということは、お前がこの町にいることでこの町が襲撃されるかもしれないということだ。そんな危険な存在を野放しにするわけがないだろう。話は終わりだ。連れていけ」
その言葉を聞き後ろにいた騎士が私の後ろに回り込むが、私が背中に羽織っていたローブに書かれていた紋章を見てはっとした表情する。
「ラ、ランス様……この娘、ブランの所有物のようです……」
「……ブラン?」
「しょ、所有物なんかじゃない!」
ついさっきブランに役に立たないと言われたのが許せないからか、所有物呼ばわりされた瞬間私は騎士の言葉を訂正しようと声を荒げた。
「どうだっていい。しかし、あいつの物だとすると面倒だ。私の独断では決めかねる。悪運が強いようだな。
だが錬金術師しかり……お前のような存在しかり……秩序に仇なす者はこの街に必要ない。これでも私はまだ優しい方でな。ローゼス様が動かないうちに主人共々出ていくことを奨める。」
そう言ってランスと呼ばれる聖騎士は私を解放させた。
私はその場に居たくも無かったのでさっさと去ることにした。
「……何よあいつ」
屋敷に向かいながら、聖騎士に言われたことを考えていた。
もちろん私はあんな奴らの言うとおりにするつもりは無いし、ブランもあの様子じゃよほどのことがないかぎり引っ越しなどしないだろう。
私は一旦今日の忘れることにして、屋敷に戻った。
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