第9話 第2回ラーラ幸せ会議
私が屋敷に戻って食堂の椅子に座り込んで休んでいると目の前の机にブランがあぐらをかいて座り込み、私に真剣な表情で語りかけてきた。
「お前、なかなか余計なことをしてくれタ」
「余計なこと?」
「あれだけ勝手な行動をするなと言っておいたというのニ。町で聞き込みをしたようだナ。」
「だって……あんたが手伝わせてくれなかったから」
「開き直るか貴様。おかげで騎士たちにお前の存在が気づかれタ。これで奴らは口実を手にしたことになル。これを理由にして何かしてくるかもしれン」
「……騎士たちが襲撃してくるとか?」
「ないとは言い切れんナ。それに理由は分からんが、このところの騎士団の動きは不自然ダ。警戒しておくにこしたことはなイ」
騎士団に対する自身の見解を述べた後、ブランは座り直し再び口を開く。
その様子は少し怒っているのか……呆れているのか……とにかく、面倒くさそうな様子だった。
「お前の単純すぎる人間性を考慮しなかったアタシの落ち度だナ。だから今命令すル。今後は勝手に家族の情報を集めることを禁止すル」
「何でそんな……」
「命令ダ」
「くっ……分かった……」
「分かったならヨシ。まだ今日の幸せ会議やってないゾ。ホラ、早く準備しロ。」
話を終え、ブランは私を連れていつもの食堂へと向かう。
食堂の椅子に座るといつものようにブランが現れ椅子に座る。
そしてパチン、と指を鳴らすと部屋中に糸が張り巡らされその下に大量の服が並ぶ。
「幸せ会議その二。おしゃれ。今日は前回の反省を生かシ、お前と似たような町の人間たちの流行を調べてきたゾ」
「おー……おー……?」
一瞬光景に圧倒され喜びかけたが、よくよく並べられた服を見てみるとやたらと肌の露出が多い服だったり、全身真っ黒で着てるだけで暗くなりそうな服だったり、はたまたよく分からない熊っぽい動物の着ぐるみのような服や浮浪者が着てそうな穴だらけの服さえあった。
「わざわざこの俺様が選んでやったのダ。感謝して好きなのを選ぶがいイ」
……あぁ、それでこんなに微妙なセンスの服ばかり並んでるのか。
「……あの、年頃の女の子が着る物とは到底思えないような服ばかり並んでるんだけど」
「ハ?何が不満だというのダ」
「えっと、どこでこの服買ってきたの?」
「古着屋ってのがあったからそこで良さそうのなの選んで買ってきたゾ」
あぁ、どうりで。
本人は自分で良いのを選んだつもりかもしれないが、同世代の女の子、というところを意識していなかったのかもしれない。……まぁ、人間の性別の違いもよく分かっていないのだから仕方のないのかもしれないけど。
「えっと、次お願いできる?」
「気に入らないカ。仕方なイ」
ブランが指をパチン、と鳴らすと並んでいた服が糸と一緒にどこかに引っ張られて消えていき、代わりに大きな袋を持った木人形が現れ、食堂の上にどさっと袋の中を雑にぶちまけた。
袋の中は全てアクセサリーだったみたいで、色とりどりのアクセサリーが机の上に並べられていた。
「おー」
「幸せ会議その三。おしゃれ(アクセサリー)。町でアクセサリーを買い占めてみタ。さぁ、好きなものをつけてみるがいイ」
私はアクセサリーを手に持ってみて眺めてみる。
一つは宝石と金が大量にぶら下げられたネックレス。綺麗ではあるけど正直重くて動きづらそうという印象しか沸いてこない。
もう一つは何か文字が彫られた銀の首輪のようなものがある。首輪という時点で奴隷として売られてた時のことを思いだすので却下。
更にもう一つ。……これは、いわゆる眼鏡というやつだろうか。しかもやけに黒い。目の悪い貴族がつけるものだという話をお父さんから聞いたことがある。これはアクセサリーなのだろうか。町の人たちの流行は知らないがこんな真っ黒な眼鏡をつけたところで前が見づらいだけなのだと思うが。
その他にも色々と見てみるがどれもぱっとしないものばかりだった。
「あの、これはどうやって選んだの?」
「アクセサリー屋で売れ残ってるやつを買い占めタ」
今回にいたっては選んですらいないじゃん。
私はため息をしながら手に取ったアクセサリーも元の場所に戻した。
それを見たブランが首をかしげて不思議そうな声を出す。
「どうしタ。今度はなにが不満だというのダ」
「いや、売れ残り押し付けられても嬉しくないし……」
「フーム?」
ブランが手を叩くと木人形がアクセサリーの山を手で掴んで拾い上げて袋に詰め込み、運んで行った。
「フーム、町中のお前と同じ世代の人間のことを調べあげてきたんだがナ」
ブランはそう言って首をぐるぐる回しながら不思議そうに考えている。
彼は毎回私にあれやこれやと幸せを感じそうなことを提案するものの、どれもこれもぱっとしないものばかりだ。
……そういえば子供の頃友達からプレゼントをもらったことがあったけど、友達が間違えて私が欲しい物と全く違う物を渡してきて凄い謝られた。でもその気持ちが嬉しい気持ちになったのも覚えてる。
……ブランとの違いは一体何だろうか。私はそれを考えてみると一つ考えが浮かぶ。
「……心がこもってないから、じゃないかな」
「心?」
「なんというか、親が子供のことを思って食べ物を与えるのと、魔女が子供を食う前に食べ物を与えるのとだったら、心のこもり方が全然違うでしょ?
どれだけ幸せにしてやるって言われてもいまいちピンとこないとは、そういうことなんじゃないかって思うんだけど」
「フーム、アタシにはその心とやらが理解できんからどうしようもない問題だナ」
ブランは地面に着地した後、ちょこちょことあたりを歩き回り、人間で言うところの顎に指先を当てながら熟考する。
「じゃあ聞くが、お前の今の幸せは何ダ?」
「……私の幸せ?」
私の幸せとは……
私はここ数日、ずっと頭の中で何度も考えて出した答えを口に出す。
「家族と再会して……以前の暮らしを取り戻すこと」
「フーン。家族がそんなに大事カ?」
「そりゃ……」
ブランはふよふよと宙に浮かび、私の頭の位置よりも少し高めの位置まで浮かび上がると腕を組み、偉そうな表情をする。
そしてブランのその後に出した言葉は私にとって衝撃のものだった。
「家族なんて呪いにしかならんゾ」
「……どういうこと?」
「兄弟による王位の争い、名誉殺人、親殺し、子殺し。家族が呪いとなり起こった悲劇はいくらでもあル。アタシは家族という物に価値を感じなイ。寧ろ邪魔だとさえ感じていル」
家族が……邪魔?呪い?
私はブランのその言葉だけは聞き流すわけにはいかなかった。
「ちょっと待ってよ。家族は呪いなんかじゃない!そんなの、家族っていうものを悪い視点でしか見てないだけじゃない!邪魔なんかじゃ……絶対に無い」
「ソウカ。そう言うならこれ以上は否定セン。せいぜい家族に固執すると良イ。どうなっても知らんがナ」
そう吐き捨てるとブランはそのまま浮かび上がって屋根裏に消えていった。
一人食堂に残された私はブランの言葉を思い返し、歯を食いしばっていた。
「何よ……私の家族のことを……何も知らないくせに……!」
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