第7話 家族を見つけるためには

 その夜、私は食堂で夕食の時間を過ごしていた。

 ブランは私の食事の様子を机の上に立ちながら頭を突き出し、 これ以上ないくらい私の顔を凝視していた。……当然落ち着いて食事などできるはずもない。


「……あの」

「………」

「そう凝視されると食べづらいんだけど……」

「黙るのダ。アタシは集中しているのダ」

「え?」

「血を調べれば調べるほど分からないことだらけなのダ。血は食事から生まれル。そして血は体を駆け巡ル。お前のその食事で何故あの血が生まれるのかが全く分からないのダ。そうなったらお前の食事の様子を観察するしかないだろウ」

「そんなに?だとしても……」

「俺様のことは石とでも思エ。」


 食べづらさは拭えないが、私は目でも瞑って気にしないようにしながら何とか夕食を平らげた。


 夕食を片付けた後、私は一番気になっていたことをブランに聞く。


「私の家族の居場所はまだ分からないの?」

「調べてる最中ダ。もう少し待テ」

「……いつになったら分かるの?」

「そんな一日やそこらで分かるわけがないだろウ。無茶言うでなイ」


 正直私はかなり焦っていた。

 今日は町を散策して楽しい時間を過ごしたが、寧ろそのせいで私が楽しい時間を過ごしている間に集落の皆が酷い目にあっていたのだとしたら、と考え罪悪感を覚えてしまった。


「その、どのくらい時間があれば見つけられそうなの?」

「オイオイオイ、このアタシを信用していないのカ?この偉大なる人形錬金術師であるブランケウン・ミードル様ヲ」

「……そういうわけじゃないけど、心配で……」

「マァそう焦るでなイ。のんびり探してればそのうち見つかるだロ。気長に待っとケ」


 ……のんびり?気長に?そんな悠長なことを言っている場合なのだろうか。

 私だってたまたまブランみたいな変わった錬金術師に買われたのでどうにかなっているが、もっとたちの悪い人間に買われてたらどんな目に合っていたか分からない。

 ようやく家族を見つけた頃には手遅れだった、なんてことになるのは絶対に嫌だ。

 ブランに任せるばかりで自分はなにもしようとしてない。これでいいのだろうか。


「ねぇ、私にも何か手伝えることはない?」

「フム?」

「人に任せきりなのは無責任なことだと思うし…何よりもこれは私に関係のあること。だから私にも何か手伝わせて欲しくて……」

「フム。いい心がけダ。しかし駄目だナ」

「ど、どうして?」

「理由は二つダ。一つ。お前の一族を狙っている者に見つかって襲われる危険があること。二つ。お前に手伝わせても効率が上がる可能性は低イ」

「……効率?」

「マ、分かりやすく言うとお前は役に立たんってことダ」

「なっ……!」

「何か間違ったことを言ったカ?仕事を手伝うというのであれば何か貢献するための能力というものが必要ダ。戦闘、技術、知識。その中の何か一つでも持っているカ?」

「それは……」


 私はただ集落に住んでいただけの人間。騎士みたいに剣が扱えるわけでもなければ魔術を使える魔術師なわけでもなければ、彼のように錬金術が使えるわけでもない。でも、それでも……


「じゃあ…なんのために私はここにいるのか分からないし……」

「アァ、自分が役立たずなのが気に入らないのカ」

「ぐっ……」

「役に立っているとモ。お前は血を分けてさえくれればアタシの研究は進むのダ。何が不満なのかアタシには分からんナ」


 ブランは全く気を使うということをせず私の図星を突いてくる。

 そうだ、今の私はただの役立たずだ。

 今の私には実験台としての価値しかないというのだろうか。

 私の力だけじゃ家族を救えない。その事実がどうしようもなく私の中でのしかかり、悔しかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る