第17話 第3回ラーラ幸せ会議

 一方、ブラン達の住む街。

 遠く離れた町でそんなことになっているとはつゆも知らず、私はブランと日課の幸せ会議をしていた。

 いつも通りブランは自信に満ちた顔つきで机の上に仁王立ちしていた。


「いい方法を思いついたのダ。」

「いい方法?」

「これを見るのダ。」


 ブランが指を鳴らすと天井から静かに花束が落ちてきたので、私はそれをキャッチする。

 中には赤色や黄色、白など色とりどりの花が添えられていた。


「……これ、花?」

「そうダ。この俺様が手作りで包んでやったのダ。」

「でも急にどうして?」

「ケッケッケ。お前、この前心がどうとかいう話をしていただろウ。アタシは調べたのダ。手作りをしたものは心がこもるらしイ。それも花の贈り物こそ人間の幸せにつながるらしイ。どうダ」


 もう一度花束の中を見てみる。

 確かに色は綺麗だし色んな花が入っているものの、花びらがバラバラにちぎれていたり茎が折れている花もあり、凄く雑に作られた花束だった。


「凄いぐしゃぐしゃなのは?」

「この指だから仕方ないだろウ。」

「え、あんた自分の手でやったの?いつも糸使ってるイメージあるけど。」

「贈り物というのは手作り感が大事なのダ。手を使わなければ意味が無いのダ。

シカシ、重要なのは見た目ではなく手作りしたという事実が重要なのダ

どうダ、完璧だろウ」

「うーん………」


 心ってそういうことじゃないと思うんだけど……

 確かに偏屈なブランが頑張って手作りしてこの花束を作ってくれたと思うと嬉しくなくもない。

 でも「手作りしたという事実が重要」と言っているあたり、割と適当に花束を作っている様子が目に浮かぶ。

 ブランには悪いが心がこもっているという感じは全くしてこない。


「いまいち心に響かないかな」

「ナンダト?今度は一体何が違うと言うのダ」

「……うーん、今回も微妙ね」

「チッ、またまた考え直す必要があるナ」


 私が机の上にぐしゃぐしゃな花束を置くと、ブランは糸を巻き付けてその花束を回収し天井まで運んだ。

 いつもはこの後私に仕事を押し付けてくるか自由時間になるのだがブランは机の上に立ったままの状態で右手の指を上に向けて話始めた。


「今日はもう一つやることがあるのダ」

「何?」

「お前が持ってる謎の力の検証ダ」

「あー……あの体から赤いオーラにじみ出て変な炎が出たやつね」

「俺様の考察ではお前の力は血の中の魔素を使った特殊な魔術か何かダ」

「何かってことは確定はしてないの?」

「そりゃそうダ。あんな力見たことないしナ」


 ローゼスに攫われた時に怒りの力で発現した私の力。

 偉大な錬金術師と自称し、大量の人形を呼び出して戦わせる力を持つブランでさえも知らない。

 一体サバンの一族とはなんなのだろうか。

 家族を救うためにも、私にはそれを知らなければならなかった。


「それで、私は何をすればいいの?」

「んなもん決まってるのネ。使エ」

「使えって、ここで?」

「ここなわけあるカ。アタシの屋敷燃えちゃうネ。庭ダ」


 ブランと共に庭に出る。

 前回私はブランに庭の掃除を任され全体の六割くらいの草は片付けたはずだったが、対して日も経過していないにもかかわらず草は生えてきていた。

 ……まさか、これらの草を全部燃やしてみろとか言われないだろうか。


「というわけデ、あの庭の雑草狙ってみロ」

「分かった。んんん……!」


 私は目の前に両手を広げ目を閉じ、炎が出るように念じる。

 声を出したり手に力を入れたり色々としてみる。

 ……しかし、炎の欠片も出なかった。


「真面目にやってんのカ?変な声ばっか出しやがっテ」

「変な声って何よ!こちとら大真面目よ!」

「ンジャ何で出なイ」

「私も分かんないわよ」

「お前があの力を発現した時はどういう状況だったのダ?」

「まず……ガラスの破片に触れて手が血だらけだったのと……あの領主に対してめっちゃ憎たらしい、ぶっ飛ばしたい、って思ったら出たような気がする」

「仕方なイ。掌をこっちに向けロ。」

「掌?こう?」


 私はブランに向けて右手を上向きにしてまっすぐ伸ばした。

 するとブランはどこに隠し持っていたのか短めのナイフを取り出し、私の掌を引っ掻いた。


「痛っ!?何すんの!?」

「その時と同じ状況を作り出すためダ。

 そのまま、あの雑草を心底憎たらしいと思ってみロ。」

「……急にそんなことを言われても…」


 私は血だらけの右手を抑えながら考える。


(そういえばこの前この庭掃除する時に雑草が多すぎて凄い腹立ったのよね……)


 私はその時のことを思い出しながら、雑草に対して憎しみの感情を出しながら、強く念じた。

 すると私の右手の血が赤く燃え、その炎は手全体を包み込んだ。


「おらぁ!」


 私が掛け声を上げると、手に集まった炎は雑草に向かって飛んでいき、庭の草木を燃え上がらせていった。


「……あ、出た」

「ホーウ、憎しみの感情で出るのカ。

ラーラ幸せ会議だけじゃなくラーラ憎しみ会議もやった方が良さそうだナ」

「絶対やめて。考えただけで嫌だ」

「ツマラン」


 ブランは私が飛ばした炎に向けて飛んでいくと、近づいてじろじろと様々な角度から嘗め回すように観察する。


「フーム、普通の炎とも違ウ。魔術で生み出す炎とも違ウ。

 魔術よりももっと純粋な魔素に近い炎ダ。

 ケッケッケ。魔術師がこの力を見たらお前を欲しがることだろウ」

「こ、怖いこと言わないでよ……」

「怖いか?ケッケッケ。怖いなら早めにこの力をある程度使えこなせるようになっておくことダ。

 それがお前自身のためでもあるシ、お前の一族のためでもあル。

 できる限りアタシ以外の前では使わないことだナ」

「どのみちまだそう簡単に使えないし……」

「それは毎日やってりゃそのうち使いこなせるようになるだろウ」

「そうだといいけど」


 ブランに引っかかれた傷を治してもらった後、燃えた雑草の処理を押し付けられたので仕方なく箒で集めて一か所にまとめることになった。


(ていうか、庭に生えてるこの謎すぎる草たちは一体なんなのよ……!)


 私はふと集落にいた一人の少女を思い出した。


『ラーラお姉ちゃん。今日も森に行ってきてこんなのを取って来た。見てよ』


 ロナという名前で、よく森の中へと入り、草やなんかを集めて薬を作ったりもしていた。

 とても元気な子で、私にもよく集めた草を見せてはこれがどういう草で、と説明してくれていたものだ。


(あの子だったらこういう草とか何なのか教えてくれるんだろうけどな……)


(……みんな……どこに……)


 私はまた前のように家族のことを思い出して心が落ち込みそうになったのを頭を左右に振って振り払った。


(……って、いけないいけない。考えても仕方がない。私にできることはブランに協力して一刻も早く一人でも多く助け出すこと)


 その後、掃除用具を片付け、屋敷の中へと戻ることにした。



 食堂の椅子に座って休憩しているとブランが相変わらずふよふよと浮きながら左右に揺れたり体全体をくるくる回転させたりと謎の動きをしているので、私は聞きたかった質問をブランに投げかけた。


「前に私の家族の居場所が分かったって言ってたけど、いつ探しに行くの?」

「一か所、危険度が高い場所で目撃情報を得タ。だが不確定な情報ダ。

だが一人、有益な情報を提供してくれそうな奴がいル。そいつから情報を得てからだナ」

「それって?」

「とある魔術師の人間ダ。そいつのところに聞きに行き確証を得ル」

「じゃあ今すぐ会いに行こう!」


 私は椅子から立ち上がり、出発の準備をしようとする。

 しかしブランは乗り気ではないという表情で空中で寝ころんでいる。


「行くのはいいがお前一人で行くのだネ」

「え、なんでよ。あんたがついてきてくれないとどうしていいか分かんないでしょ」

「魔術師と話す時は一人で行け、という意味だネ。道案内はしてやル」

「……あ、そっか。その姿で会いに行けるわけないわよね」

「そういうことダ」

「ともかく、その人に聞きに行って一族の情報をなんとかして得ないとね」

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