第18話 魔術師のアトリエ

 ブランの住んでいる屋敷がある森は山の中にある。

 屋敷とつながっているお世辞にも綺麗とは言えないでこぼこした道を東に進むと町がある。

 町との距離は馬車が必要なくらいの距離があるが、南西の方角の割と近くに小さな村がある。

 ブランが言うにはこの村とブランの住んでる森との境目の場所に魔術師が住んでいる家があるとのことだった。

 距離が近いことと用意するのが面倒くさいからという理由でブランは馬車を使わせてくれなかったので私は歩いてその場所へと向かった。


「この場所って確か……」


ブランの地図に描かれていた場所は、私が町でとある人物から貰った紙切れに書かれていた場所と同じ座標だった。

アトリエと書かれた看板を過ぎ、扉をゆっくりと開けた。


家の中を見渡してみるが、どこも綺麗に整えられていた。

壁には豪華な棚があり、先端に宝石のようなものがついた杖が何本も置かれていた。これはいわゆる魔法の杖というやつだろうか。

その横の棚には分厚い本が並んでいたり、魔法陣のようなものがかかれた小物のようなものがあった。

これは作りかけの魔道具だろうか。


そして受付らしき机の向こう側に人影が見えた。

そこには少女が一人椅子に座り込んでいた。

その少女は魔法陣の描かれた大きな魔女の帽子をつけ、薄緑の髪色で髪は短く、黒紫色のコートを羽織っていた。

少女は私に気が付いたようでこちらに向けて挨拶を始めた。


「ようこそ。どうも初めまして。世界に七人しかいないと言われる偉大な魔術師の一人である星の魔術師、エウロが営むアトリエへようこそ。

魔術関連のことなら調査、討伐、売買、幅広く行っています。

何がご入用でしょうか。」

「えっと、私のこと、覚えてない?」

「………?」


エウロは座っていた椅子から立ち上がり、そそくさとこちらへ近づき、目の前に立つ。

するとゆっくりと顔を私に近づけ、睨みつけるかのような目で私の顔を見つめる。


「あぁ、この前の晩餐会で出会ったカラトレ家のお嬢様ですね。失礼しました、あの時と格好が違うもので」

「あの、全然違います」

「適当に言ってみたんですが当たりませんか。ごめんなさい。思い出せません。とりあえず名乗ってもらえますか?」

「えっと、私はラーラ」

「ラーラ……頭の隅々まで調べましたがその名前は記憶にありません。申し訳ありません。私は記憶力がそれほど良くないので」

「いや、名乗ってはないから。この前、町で歩いてたらあなたが声をかけてきて、サバンの一族だって一目で見破ってたでしょ」

「サバン……あぁーようやく思い出しました。あの錬金術師のとこの人ですか。えぇ、よく覚えてますよ。記憶力には自信があるので」

「あ、はい」

(……言ってることが支離滅裂だけど)


 エウロは満足したような顔でゆっくりと椅子の方へと戻り、どかっと座り込む。

 ……なんかこの感じ、どこかで味わったことがあるような気がする。


「冗談はさておき、こんなところまで何の用ですか?」

「実はその、森に入る許可をもらいたくて……」

「森というのはミスウェルドの森のことですよね。

森に入るためにはまず魔術師協会に申請した上で手続きを行い、そこで許可が出て初めて私が案内する形になるのですが、許可は得られましたか?」

「え?」


 って、そんなのが必要だったのか。

 前言撤回。ブランはやっぱり適当すぎる。

 私が動揺しているとその様子を見たエウロが何故か納得したような表情をする。


「ふむ、わざわざ私に直接森に入る許可をもらいに来るということは相当切羽つまっているようですね。話を聞かせてもらえますか?」


 私は事情を話した。

 私がサバンの一族を探していること。

 そのうちの一人があの森に入ったという目撃情報があったこと。

 そして助けにいくために森に入る許可が欲しいこと。


「なるほど、サバンの一族があの森に。しかしおかしいですね。結界を張っているので普通、人は入れないはずなのですが」


 それは私もうすうす感じていた。

 しかしあのブランが適当なことを言うとは思えない。

 ……いや、ブランはいつも適当なことを言ってはいるのだが。

こういう時の情報が間違ったことは無かった。


「でも、もしかしたら何か結界に不具合があるかもしれないし……」

「私の魔術は完璧ですよ。不具合があるはずがありません」


 エウロが少しむっとした表情になって腕を組みながらそう言う。

 ……しまった、怒らせちゃったか。

 しかし、今「私の魔術は」と言っていた。

 ということは森を囲んでいる結界はこの娘がかけているということだろうか。


「え、その結界って貴方がかけてるの?」

「そうです。これでも星の魔術師と呼ばれてますから」

「森を囲むような大規模な結界をその年で……凄い」


 思わず出た私の称賛の言葉を聞いてエウロの表情が少し柔らかくなった。


「ま、まぁ、私は生まれつき凄い才能を持ってますし、なにより結界系の魔術は私が一番得意としますからねー」


 少しにやつきながらエウロは嬉しそうに話す。

 ……褒められて気を良くするなんて年相応のところもあるのね。

 この流れをうまく利用して森の結界を調べてもらう方向に進めてもらえないものか……


「貴方の実力を疑うわけじゃないんだけど、そういう噂があったことは確かだから念のため確かめてもらっていかなーなんて」


 エウロは少しの間考えた後、椅子から立ち上がる。


「……分かりました。ですが、何度も言うように私の魔術は完璧ですから。それが証明できたら大人しく帰ってくださいね」

「うん、分かってる」


エウロに案内され、家の外へと出て森へと向かったのだった。

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