第19話 森への道のり
ミスウェルドの森は村の道をしばらく西に進んでいくとたどりつくとのことだった。
私とエウロはしばらく村の道を歩いていたが、エウロは歩きながら村人たちの様子を気にしていた。
「ちょっと待っててください」
エウロはそう言うと家の前にいた村人の女性に声をかけた。
「どうも」
「あれ、エウロさん。どうかしたんですか?」
「これ」
エウロは懐から掌に収まる大きなの丸い魔道具を取り出して女性に渡した。
それを受け取った女性は首をかしげて不思議そうな表情をしている。
「これは?」
「部屋に置くと部屋全体を温めてくれる魔道具です。昨日作りました」
「え?これを私に?でもどうして?」
「昨日言ってましたよね。『最近昔と比べて寒くなってきて肌寒いのよねぇ』って」
「まさか、それを聞いて……?ただの世間話のつもりだったのにわざわざ……。どうもありがとう」
「いえいえ。どういたしまして」
エウロは満足そうな表情をして私のところまで戻って来た。
「お待たせしました。行きましょうか」
「う、うん」
しかしエウロはまた何かを見つけたような表情をする。
「ごめんなさい、やっぱりもう少し待ってください」
エウロの行った先で三人の村人が何か困りごとがありそうな顔をして話し合っていた。
「どうかしたんですか」
「エウロさん。実は最近畑の様子がおかしくて……」
「どれどれ。これは……そうですね、任せてください」
エウロは畑に夢あって小さく呪文を呟きながら杖を振ると、畑全体に緑色の光のようなものが浮かんだ。
「こ、これは……?」
「植物用の回復魔術です。最近知り合いに教えてもらいました」
「そ、そんなものをわざわざ!?しかし私たちには支払える報酬は……」
「必要ありません。皆さんの気持ちだけで充分です」
エウロはその後も先々で村人たちの問題の首を突っ込み魔物の討伐、魔術の依頼、魔術と関係なさそうな雑用までも全て引き受けていた。
「……あの、そんなに仕事抱えて大丈夫なの…?」
「大丈夫ですよ。少し睡眠時間を削ればなんとか」
「体……壊さないでね」
「はい」
私は心配になりつつもエウロについていった。
****
「つきました。この森です」
エウロが話しかける町人全てに対応していたこともあり、予想よりも倍近く時間はかかったが、なんとかミスウェルドの森へとたどり着く。
そこは普通の森とは違い森の入り口から異様な気配を放ち、見たことの無いような巨大な植物の蔦が今にも同化しそうなほど周囲の木とまとわりついていた。
森の周りには半透明の土色のガラスの壁のようなものが張り巡らされていた。
「これが、結界?こんな大きなものが……」
「大規模な結界魔術は消費する魔素の量が膨大なため、最初に何人かの魔術師で協力して結界を張るものなんです。そして定期的に結界のかけなおしを行うことで結界を安定させることができます。まぁ、この結界に関してはほとんど私がかけましたが」
エウロは結界に近づくと右手に持った杖を結界に触れさせ目を閉じてじっと集中していた。
しばらくすると調査が終わったのか目を開けて説明を始めた。
「調べてみましたが結界は安定しています。人が入ることもありえませんし、ましてや魔獣が出ていくこともありえないはずです。おそらく見間違いか何かでしょう」
――本当にそうなのだろうか。
ブランが調べ方を間違えただけなのか。だとしたら私の家族はどこに行ったんだろう?
私が顎に手を当てて眉間にしわを寄せて考え込んでいるとその様子を見たエウロがため息をした。
「……仕方ありません。もう少しだけ周りを調べます」
納得のいかない表情をしていた私を見てエウロが渋々、森の周りを歩き始めた。
ここまで付き合わせてしまい申し訳ないと思いつつも私はエウロの後をついていく。
――しかし、数十秒ほど歩いていると、一瞬何か歪むような変な音が聞こえた気がした。
「今何か変な音がしたような……?」
「音ですか?」
エウロは何も感じていないようで頭をかしげる。
しかし次の瞬間、周囲が一瞬白く光った。
「!?」
「な、何……!?」
すると足元に魔法陣のようなものが出現し、足が固まったかのように地面から動かせなくなった。
次第に周囲の景色が徐々に歪み始める。
その異様な光景に思わずめまいがしてきそうだった。
やがて周囲が白い光に包まれていく。
「ラーラさん!私から離れないでください!」
エウロが私の方へ手を伸ばしてきた瞬間、意識が飛んだ。
――私とエウロはその場からいなくなっていた。
その様子を遠くから見下ろしていたブランが私たちが飛ばされた場所まで移動してきていた。
「チッ。間に合わなかったカ」
ブランは地面や結界を観察しながらぶつぶつと呟く。
「オイオイオイ、オイオイ、オイ。今のは転移魔術カ?
そこまで高度な魔術を使えるような奴がこの森のどこかに潜んでいるとでもいうのカ。
イヤ、今の術式からしてかなり雑な魔術。まるで獣が作ったかのような魔術。
魔術を使える魔獣もいるにはいるガ、転移の魔術を使う魔獣がいるのカ?
ケッケッケ。面白イ。ダガ笑ってる場合じゃないなこれハ」
ブランは珍しく少しだけ慌てた様子を見せながら結界が張られた森に向かって手をおいた。
「サテ、果たして間に合うかどうカ」
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