第38話 心配だなぁ(敵の方が)

 それは俺が祭壇にたどり着く十分前にさかのぼる。

 教壇の建物の中に乗り込んだ俺とブランは立ちはだかる教徒たちを次々となぎ倒しながら進んでいく。


「な、なんだお前……」

「遅い!」

「こ、この!」

「遅イ」


 俺とブランは教団の建物内に入り込み信徒たちを次々と闇討ちしていく。

 信徒たちが手に持っていたものを見るとどれもナイフ、剣、斧といった武器からはたまた杖を持っている魔術師までいた。


「ったく、信徒のくせになんてこんな武器持ってんだ」

「んなもん見られたくないものが奥にあるからに決まってんだロ。早く行くゾ」

「あぁ」


 武器を持った奴らを片っ端からぶっ倒しながらあちこち部屋を見渡してみるがどこにも子供がいるような気配はない。

 おかしいな。魔術師の小娘が言うにはこの教団はあちこちで子供を集めてるって話だ。それならどこかに部屋があってそこに押し込んでそうなもんだが。


「ガキはどこだよ」

「おそらく儀式のために連れていかれたのだろウ」

「なんだって!?となるとあのクソみてぇな祭壇にいんのか。じゃあさっさと行かねぇと……」

「ケッケッケ。もう既に生贄にされ終わった後かもナ」

「おいふざけんなよ。だとしたらここまで来た意味がなくなるだろうが」


 そんなことを言い合っているとすぐにまた蟻みてぇにわらわらと増援が現れた。

 学習しねぇな人間ってのは。


「俺様の姿を見られると面倒なのでナ。見える範囲の戦闘は任せたゾ」

「殺しちゃいけねぇってのは面倒くせぇな」


 ブランと話していると見張りと思わしき信徒たちが二人ほどこちらに向かってくるのが見えた。


「いたぞ!こっちに侵入者が……」

「遅いっての」


 こいつが『いたぞ』の『た』を言いかけてる時くらいにすでに俺は後ろに回り込んでいた。

 俺は殺さないように首の後ろ辺りに思いっきり手刀を食らわす。

 そいつはそのままその場に倒れこんだ。


 ――心なしか少しだけ首がへし曲がっていたような。

 人間が貧弱とはいえ流石にこのくらいなら大丈夫かと思ったんだがな。

 まぁぎりぎり生きてはいるだろう。


「く、くそ……よくも……!」


 もう一人の方の信徒は武器を構えながらうろたえていた。

 さてどうしたものか。

 もたもたしていると十人くらいの武器を持った信徒が集まってきた。

 うろたえていた信徒はそれを見てにやついていた。

 まさかこのくらいの人数が増えた程度で買ったつもりなのだろうか。

 だとしたら随分と思考のおめでたい奴だ。


「こ、これでお前らも終わりだ!」


 面倒くせぇ。二、三人くらい手加減ミスって首をへし折るかもしれねぇなぁ。

 時間もないし、いっそのこと全員ぶっ殺してしまおうかと考えていると後ろでブランがにやりと笑った。


「糸錬金 蜘蛛の巣ラナテラ


 ブランが右手の指を手前にくいっと動かすと、信徒たちの体に糸が絡まりそのまま全員が真ん中に引き寄せされぶつかりあって動かなくなった。


「おー。なかなかいい攻撃手段だな」

「当然ダ」


 この辺りの見張りは全員片づけた。

 あ、そういえばこいつが残ってたか。

 俺はさっきこれでお前らも終わりだとかなんとかほざいてた教徒の目の前まで腕を組んで威圧の態度を振りまきながら近づいた。


「ちょうど一人余ったし、こいつに聞くか」

「ひ、ひぃっ!」


 俺は信徒の胸倉を掴みあげる。問いただす内容はただ一つだ。


「今日ここに連れてこられたガキが一人いただろう。そいつは今どこだ」

「そ、そいつなら既に祭壇に連れていかれた!」


 やっぱりか。となるともう時間が無い。

 道はだいたい覚えてるしここはブランに任せて最短で行くしかねぇな。

 俺がその祭壇まで行こうとしていることに気が付いたのか信徒が慌てふたいて静止を呼び掛けてくる。


「ま、待て!今日は最も重要な儀式の日だ!邪魔をしたらどうなるか……!」

「うっせぇ。お前らの都合なんて知ったことかよ」


 俺は全速力で祭壇の場所まで走り出した。



 一方その頃。襲撃から逃げてきた信徒たちが建物の外まで逃げるために出口まで向かっていた。


「くそっ、全く見えなかった。一体どんな奴が侵入してきたんだ?」

「しゃべってないで早く逃げるぞ!巻き込まれたら……」

「おい、どうした。早く扉を開けろよ」

「扉が開かないんだ!」

「なんだって!?これじゃ出られないぞ!?」


****


 私とエウロは建物の前で待機していた。

 ブランとカルルは建物の中に乗り込み、外に逃げるものがいないようにするのが私たちの役目だ。

 ……といっても、私の仕事はほとんどないけれど。

 しいて言うなら万が一のためにたまたま近くを歩いていた人とかを帰るように促したりとかそういうことはしてるけど。


「この教団の出入り口は塞いであります」


 この通りほとんどエウロがやってくれている。

 彼女の才能も大きいのだろうが結界魔術の汎用性の高さには驚かされる。


「便利ね結界魔術って……」

「ふふふ、そうでしょうそうでしょう」

「はいはい、凄い凄い」


 私はエウロを適当にあしらいながら乗り込んだブランたちのことを考えていた。


(……ブランたちは大丈夫かな)


「ブランたちのことが心配ですか?」

「……いや、むしろ敵の方が」

「?」

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