第39話 教団の最期

「よくも私たちの邪魔を……!」


 俺とブランに信徒たちをボコボコにされてなすすべも無い神父が苦し紛れに俺に対してそんな言葉を吐いてくる。


「邪魔してほしくないなら人に邪魔されるような悪いことすんなよ。せめて好き放題酒飲んで飯食って女はべらせるくらいにしとけ。あとこっそりお菓子盗むとか小さな悪事とかな」

「そんな下賤な者たちを我々と同じにするな!我々は……神をこの地に呼び覚まそうとしているんだ!神聖なる儀式だ!邪魔されるいわれなどない!」

「あっそう。まぁ正直お前の考えなんてどうだっていいんだわ。ガキどもを離しな」

「お前らの目的は……この子供たちか……!」


 神父は子供たちの方にまわり懐から刃物を取り出してテレシャにつきつけた。

 呆れた。今更そんなことをしても時間稼ぎにしかならないっていうのに。

 神をだとかなんだとか偉そうに言いながらやっていることはそこら辺の小悪党と何一つ変わらないじゃないか。

 これでよく自分たちのことを神聖だとかなんだとか偉そうなことを言えたものだ。


「動くな!」

「人質にでも取るつもりか?」

「おい、私ごとでいい。やれ」


 神父は魔術師に向けてそう声をかけた。

 私ごと?何をするつもりだ?


「正気か?それにまだ生贄も足りていない」

「ここで終わるよりはマシだろう。やれ!」

「……了解した」


 魔術師はなにやら呪文を唱え始めた。

 すると祭壇の上の魔法陣が黒いもやのようなもので包まれ始めた。

 待てよ。生贄?儀式?まさか。


「おい吸血鬼。俺様はあっちの魔術師をやル。お前はあっちの神父ダ」

「俺に命令をすんじゃねぇ」


 俺は全速力で移動しテレシャをつかんでいた方の神父の腕を切り裂き、テレシャを抱きかかえて回収して魔法陣の外へと移動した。

 神父が後ろで耳障りな悲鳴を上げていたがひとまずテレシャに特に怪我はなさそうだった。


「ぐわぁぁああ!う、腕が……貴様、よくも……!」


 ガキィン!というはじかれる音が聞こえる。

 ブランの方を見ると魔術師の周りには土色で半透明な防壁が展開されていた。


「ム。防壁カ」

「万が一のために用意してよかったよ。防壁を自動展開する魔道具だ。貴様のような人形ではとても……」


 しかしすぐにパキィン、という割れる音が響き魔術師のまわりに張られていた防壁が解かれる。


「な、なに……!?」

「安物使ってんナ。もう少し上等ならあと一分くらいはかかったかもしれんが規模が小さすぎル。どっかの小娘が展開した結界の方がよほど面倒だったゾ」

「く、くそ……!」


 ブランが指をくいっと振ると壁にくっついた糸に魔術師が引っ張られていきそのまま壁に激突して気絶した。


「魔術は中断させタ。儀式のほうハ……」


 魔法陣の方を見ると、黒いもやは収まるどころかより大きくなっていた。

 それにこの異様な気配。一体何の儀式なんだこれは。

 しばらくすると黒いもやが竜の頭のような形になった。


「はっ、はははっ!詠唱は中断されたが間に合った。神は、この地に降臨なされる!私は最後の生贄に選ばれた!これほど名誉なことは……」


 神父が歓喜の声をあげてそんなことを叫んでいたが黒い竜はそんなことお構いなしに話の途中で口のような部分で神父を飲み込んでしまった。

 そして、黒い竜はどんどん祭壇から這い出て止まらない。


「おい、これはなんだ」

「…………チッ」


 ブランは何か知っているのか不機嫌そうに舌打ちをした。

 なんだか良く分からないが非戦闘員のガキどもが四人もいるのにここで戦うわけにもいかない。

 ひとまず外に出るしかない。

 俺は抱きかかえていたテレシャに声をかけてやった。

 テレシャは小刻みに震えて動けなくなっていた。


「おいガキ。無事か?」

「う、うん……」

「とりあえず外に出るぞ」

「その……」

「ん?」

「私が、間違ってた。人のために、なんて言ってたせいで……騙された」

「……ふん」


 ようやく自分が考えなしに行動していたということに気づいたようだった。

 だが――


「別にお前が完全に間違ってるなんて言ってねぇよ」

「え?」

「次からは優しくする相手は選ぶことだな」


 俺は走りながらブランと共に建物の外へと向かった。


****


「……何か変ですね」


 建物の外で結界を張り続けていたエウロがぼそっとそんなことをつぶやいた。

 魔術師としての勘でも働いたのだろうか。


 しばらくすると、地面が揺れているような気がした。地震かな。


「もしかして、揺れてる?」


 でもこの揺れから普通じゃないような気がする。

 あの建物から揺れが響いてくる。

 一体何が起きているというのだろうか。


「まさか、これは……召喚魔術!?しかもこの規模は……」


 エウロが魔術痕から答えを導き出した瞬間、大きな地響きとともに建物が内側から破壊され、巨大な生物が出てきた。

 それは黒いもやの塊のような外見で、十本ほどの大きな黒い竜の頭のような触手を伸ばしていた。生物と呼べるかどうかも怪しく、おとぎ話でも見たことがないようなおぞましい怪物だった。


「あ、あれ……何?」

「わ、分かりません。見たことも聞いたこともない」


 うろたえていると黒い竜は触手を伸ばし周りの瓦礫や植物などお構いなしに貪り始めた。

 よくよく見ると教団の信徒たちも捕まって飲み込まれているのが見えた。


 ブランとカルルがこちらに走ってくるのが見えた。

 しかもそれだけじゃない。ブランの後ろにいる人形が抱えている三人の子供は……まさか。


「ま、まさか……ラーラお姉ちゃん!」


 あれは、間違いない。

 集落で毎日のように見たいたずら好きな子供たち三人。

 コンスとイルヒとアイケ。 

 私も駆け寄ろうとしたが、ブランが手を伸ばしてそれを止めた。


「おい待テ。再開の喜びに浸る暇はないからあとにしロ。あれをどうにかするのが先ダ」


 ブランは黒い巨大な竜の怪物を指さす。

 確かに、ここでせっかく再開したのであれに皆飲み込まれたら意味がない。

 どうにかするといっても、一体どうすれば……

 するとカルルが私たちの前に出た。


「俺がやる。下がってろ人間ども」

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