人形錬金術師は奴隷少女を幸せにしたい

蜂月八夏

第1章 幸せの実験

第1話 人形錬金術師

「おい、出ろ!」


 体格の大きいごろつきのような男が私に向かって怒鳴りつける。私は夢から目覚め

鈍い体を動かし何とか立ち上がった。

 私が目覚めたのは荷馬車の中で、それもかなり汚れてぼろぼろの荷馬車の中だった。

 ……私は何故こんなところにいるんだろうか。昨日まで村の中でいつものように朝起きて、朝食を食べて、集落で仕事をしたりうっとおしい近所の子供たちの御守をしていたはずなのに。


「お前の買い手だという奴の屋敷についたぞ。しかも高名な錬金術師様らしい」


 ……そうだった。私は攫われたのだ。昨日いつものように過ごしていた日常が、突如として崩壊した。

一族が襲われ多くが連れ去られた。なんとか村の外まで逃げようとしたが逃げ切れず、そのまま捕まって最終的にここまで連れてこられた。


 男に連れられて馬車の外へ出るとそこには黒紫色の木々に囲まれたとても大きな屋敷があった。しかし私はそれを見ても立派だとは思わなかった。

 何故ならその屋敷はとても大きいもののかなり朽ち果てており、ところどころ窓が割れていたり植物の弦が壁を覆っている箇所もあった。

 よく見ると壁にヒビが入っているのが見えとても人が住めそうな屋敷には見えなかった。

 錬金術師は偏屈な人間が多いと聞いたことはあるが錬金術師は皆こういう家に住んでいるのだろうか?

 屋敷の門の前には綺麗に整った黒いスーツを着た初老で白髪の眼鏡をかけた男が立っていた。本で見たことがある。……あれは、いわゆる執事というやつだろうか。


「あんたがこの屋敷の執事か?」

「あぁ」

「この奴隷を買い取るってのはおたくの主人だな?」

「そうだ。この娘だけか?」

「この場所まで連れてこられたのはこいつだけだ。他の奴らは違う場所に売り飛ばされてるだろう。こいつ一人で諦めるんだな。それで、金は?」


 執事の男は懐から金貨の入った袋を取り出し男に手渡す。袋には相当な金額が入っていたらしく男は口笛を吹き喜びの声を漏らす。


「交渉成立だ。連れてけ」


 私は執事の男に連れていかれ屋敷の中へと連れていかれた。

 様子をうかがっていると執事の男の様子が明らかにおかしいことに気が付いた。男は終始一言も話そうとせず、それどころかこちらを見るどころか目線すら変えず、瞬き一つしない。まるで人形のようでとても奇妙だった。


****


一方その頃、奴隷商たちが来た道を馬車で走っていた。


「錬金術師ってのは金払いが良いもんだな」


 奴隷商の男は金貨が詰まった袋を見て不敵に笑う。

 金貨の詰まった袋を横に置くと頭の後ろに手を組み荷馬車の壁に寄りかかりながら馬車を操縦しているもう一人の奴隷商と談笑する。


「まさか奴隷をご所望とはな。人体実験か何かするつもりか知らんが、不穏な噂は嘘じゃなかったみたいだ」

「だがこんな道の悪い森の奥まで来させられるのも面倒だ。ま、もう二度と関わることはないだろうが」

「いや、そうとも限らないぞ」

「どういうことだ?」

「あの国、特にあの町では奴隷を持つことと買うことが硬く禁じられている。そのことがばれればあの錬金術師は終わりだ。そしてそのことを知ってるのは俺たちだけだ」

「なるほどな。あの錬金術師は良いカモにできるってことだな」

「そういうことだ」


 そんなことを話しながら奴隷商の二人が笑っていると、突然荷馬車が道の真ん中で止まった。

 奴隷商の男は馬車が止まった衝撃で横に倒れそうになり、床を手で押さえる。


「おい、何で止まったんだ?」

「あ、あそこに……」


 道の先には人影のようなものが見えた。

 目を凝らすと木でできた人形のようなものが道を塞いでいるのが見えた。


「人形?なんでこんなところに……」


 二人が荷馬車から降り、人形に近づく。

 人形は二人が近づいても手の甲で頭を叩かれても何も反応を示さない。


「錬金術師が実験してる最中に放置でもしたのか?ったく、邪魔だな」


 奴隷商の一人が人形を思いっきり蹴飛ばして道からどかす。

 人形は大きな音を立てて道の端に倒れこんだ。


「おい、どかしたぞ。さっさと荷馬車に戻……」


振り返るともう一人の奴隷商が道に倒れていた。


 「お、おい、どうかしたのか!?」


 慌てて駆け寄る。

 胸のあたりにうっすらと赤い血が広まっていくのが見えた。

 あたりを見渡してみるが道に敵がいる気配もなければ森に暗殺者や魔獣がいる気配もない。


 「一体何が……!?」


 その言葉を発した瞬間、男の心臓をなにかが貫いた。

 男はその場に倒れ、静かになった。


『阿保の始末は終わったカ。ならさっさとそいつを連れてこイ』


 ——口封じのため奴隷商を始末した錬金術師は怪しげな屋敷の中で不敵に笑っていたのだった。

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