第26話 最後の一撃
ロナよりも遅い速度ではあっても私は必死に走り続け、なんとかあたりを一周してエウロのいる高台の場所まで近づいてくることができた。
それを見たエウロが杖を再び構え、準備を始めた。
「二発目がそろそろ準備できる……!
命をかけてくれているあの人のためにも……外せない……!
今度こそ、今度こそ守るんだ………!」
杖の先端が茶色に光り、更にその周りを炎と風が包み込むようにして集まっていき、土で出来た槍の塊へと変化する。
「槍魔術……!」
エウロの放った二つ目の槍は今度は逸れずに魔獣の体をめがけてまっすぐ飛んで行った。
そして轟音が響くとともに当たったかどうかを確認するも、槍は魔獣の体には当たったたが左腕をかすった程度で致命傷にはなっていなかった。
「くっ、あと……一発しか………」
****
魔獣は怒り狂った叫び声で森を響かせる。
エウロの魔術が外れてしまった。あと一回して残っていない。
私の足も限界でこれ以上走れそうにない。
私にはもう手がないのか。
――いや、ひとつだけある。一か八か。
私はもう一度、魔獣に向けて走り出した。
右手の拳を構えた状態で走る。
私は右手に力を込めた。
力だけじゃない。血を込めた。私の血の力。魔力。あの魔獣を倒したい。怒りだけじゃなく、恐怖も全て込めた。
倒したい倒したい。強く願う。そしてその願いは氷という形で顕現する。
私の右手が水色に輝く。
「うらぁぁぁああああ!!!」
私は魔獣の右足に思いっきり殴打を喰らわせた。
軽く押されはしたものの全くダメージは入っていない。
しかし、私の右手を包んでいた水色のオーラが魔獣の右足に広がっていき、右足を凍らせていく。魔獣は右足を振り払い水色のオーラをはねのけようとするが氷は広がっていく。これも長くはもたないだろう。しかし、それでもいい。
私は最後に残った力を振り絞り叫んだ。
「エウロォ!撃てェ!」
****
「……あの力は……!?」
魔術?あの人は魔術がつかえたのか。
でも杖も持っていないのに。それに、あんな魔術見たこともない。
というか、あれは本当に魔術なのか?
――いや、今はそんなことどうだっていい。
魔獣が動けない。その事実が重要だ。
「これが最後のチャンス……運よく魔獣が動けないとはいえ……
どうせすぐに動けるようになってしてしまう。
これを外してしまえばラーラさんは……あの子は……!
絶対に……絶対に外せない……なんとしてでも……当てないと……!」
エウロは自分の狙う手が震えていることに気が付いた。
「くっ……なんで………魔術なんて……何十回何百回と練習してきたはずなのに……」
早くしないと。一秒でも早く。早く、早く!!
魔獣が再び動き出そうとしている。
急げ。なぜ。私は なんの ために 今まで
私がもたもたしているせいで魔獣は体を丸めて硬い背中の表皮で全員を覆ってしまう。
いくら動けないとはいえこれでは魔術が当たっても弾かれてしまう可能性が高い。
あの表皮、表皮さえはがせれば……!
そう思った瞬間、私の視界の右側から白い糸の槍のようなものが飛んできて魔獣にぶつかった。そしてその衝撃で魔獣の表皮にヒビが入った。
****
森の木よりも更に高い位置にそれはいた。
その人形はふよふよと浮かびながら魔獣を見下ろしていた。
「ケッケッケ。ぎりぎり間に合ったカ。面倒くさい結界なんざかけやがっテ。この俺様でさえもあそこまで時間をくうとはナ」
「シカシ、あの力。まさか炎だけじゃなくて氷にもなるとハ。感情の変化により発動する能力が変わるとはますます謎が深まるナ」
「さてト、さっさとトドメを刺せ魔術師の小僧」
****
何が起こったのかは分からない。しかし私が今しなければならないことは自分を責めることでも後悔することでも手を震わせることでも無い。
魔術を撃ってあの魔獣を貫く。
――なんだ、簡単な作業じゃないか。
薪を置いて斧で割る。それと一体何が違うのだというのだ。
私にあったはずの邪念が全て消え去り、私は魔術を放った。
「……うぅぅ……あぁあぁぁあああ!!!」
「創世の
放った槍の魔術は、風のように魔獣の腹に向けて飛んで行った。
そして魔獣の腹の横あたりを貫き、そのまま向こう側にある岩さえも抉り突き刺さった。
そのまま魔獣は地面に放り投げられるかのように倒れこんだ。
魔獣は……動かなくなった。今度こそ、倒せた。
****
「なんとか……なった………」
エウロがなんとか魔術を完成させ魔獣を貫いたのを目にした瞬間、限界に達しその場に倒れこんだ。
慌ててロナとエウロが私に駆け寄る声が聞こえたあたりで私の意識は途切れた。
「……疲れて気を失ってるだけです。大丈夫でしょう。」
「良かった……」
****
数十分後、私は目を覚ました。
「うぅ……?」
「あ、目が覚めましたか?体の方は大丈夫ですか?」
「全身が凄いだるくて足がずきずき痛むこと以外は大丈夫……」
「……全然大丈夫じゃないみたいですね」
「あ、そういえば魔獣は!?」
「それなら大丈夫です。あそこ」
エウロが指をさした場所には動かなくなった魔獣の体があった。
それを見て私は安堵した。
「どうしてこんな魔獣が出現したのかは分かりませんが、ひとまずこの件は上に報告しておきます。森の外に、出ましょう」
「そうね……」
私はロナに肩を貸してもらいながら、森の外へと向かったのだった。
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