第22話 ロナという少女
「はぁ……はぁ……はぁ…………」
なんとか洞窟の奥まで逃げきれた。
洞窟の壁に右手を置き肩で息をしながら呼吸を整えていた。
「まさかこんなに走ることになるとは……ってそれどころじゃなかった。傷の様子を見ないと……」
「ラーラお姉ちゃん、こっち」
ロナが洞窟の先を指さした場所は明らかに誰かが生活しているような跡があり、そこには藁でできた寝床であったり、焚火、などが置かれていた。
そして石の上には薬草がびっしりと入っているの小さな袋があった。
「その魔術師の人、そこに寝かせてあげて」
「わ、分かった」
私はエウロをゆっくりと洞窟の地面に降ろし、自分も腰を掛けて休憩する。
ロナは袋の中から薬草を取り出す。
「これ。傷口に塗ってあげて。」
「う、うん。」
私はロナから薬を受け取り、言われた通りに治療を始める。
洞窟の中を見渡し、気になって仕方のないことをロナに尋ねた。
「ここで生活してたの?」
「うん」
「魔獣とかたくさんいるのに……」
「お父さんとお母さんから魔獣から逃げるための知識とか教わってるから。」
「食べ物とかは?」
「食べられる木の実の見分け方とか教わってた」
「……逞しいね」
「そう?お父さんは『もし誰もいない島に迷い込んだとしても生きれるようになれ』って言ってたし」
「……流石狩人一家。」
そう、ロナの一家はうちの集落の中でも狩りやサバイバルを得意とする一家で毎日のように森に入っては薬草や獣を狩り、それを集落の人たちに配ったりもしていた。
当然その血と知識を受け継いでるロナを例外ではなく、よく親子で森へ狩りに行っていた。
「あの日、無事に逃げられたみたいね。でも、どうしてこんな危険な森の中に?」
ロナがこの森に入ることになった経緯を教えてくれた。
あの日なんとか集落を脱出したあと追手から逃れるためにこの森に逃げようと近づいたら、私たちと同じように足元に魔法陣が出てきていつのまにか森の中に移動していたらしい。
しかも途中で魔獣に襲われてしまいなんとか命からがら森の奥の洞窟に逃げ込んだが、今度はあの大きな魔獣と結界のせいで森の外へ逃げれなくなってしまったとのことだった。
「でも、こんな森来たことなかったし……思ったより食べれる木の実も多くなくて。もう少しで限界が来そうなところだったから、ラーラお姉ちゃんがきてくれて本当に良かった」
「そうだったんだ。ともかく、無事で良かった」
「ラーラお姉ちゃんも。お姉ちゃんはあの日の後は……?」
「私の方も色々あってね。話すと長くなるからまた今度ね」
「うん」
「問題は、どうやってこの森を出るかね……」
「あの魔獣、ずっとあそこで寝てたから、大人しい魔獣かと思ってたけど、急に暴れだしたね」
「その原因も説明すると長くなるから後で。大人しくなるまで待つか、それとも強行突破すべきか。どちらにせよ、早く彼女の怪我を診てもらわないと……」
私が今後の方針を考えようとしていた時、エウロが目を覚ました。
エウロが怪我も気にせず起き上がろうとしていたので私は慌てて静止した。
「あ、駄目よ、ちゃんと寝てないと」
「だ、大丈夫です……つ、杖を……取ってもらえますか………?」
「杖?」
エウロの持っていた杖は、魔獣から逃げる時に一緒に拾っていた。
私は魔術師には詳しくないが、私が昔本で見た魔術師が持っていた杖とは違うものだった。
私が見た本で描かれていたのは、樫の木の枝の先端を巻貝みたいに曲げたようなものだとか、お城の柱のように綺麗に装飾された細い棒の先端に宝石がついているものなどがあった。
さらにそれは大抵の場合、長さが腰の高さまであったり、さらに大きい物なら頭の位置まで達するような長さの杖のものが多かった。
しかし彼女が持っている杖は、肘から手の先までくらいの長さしかない短めのものだった。おかげで運びやすかったので助かったが。
杖をエウロに渡すと彼女は杖を右手に持ち、杖の先端を顎の方へ向けながら、胸元まで手繰り寄せる。
そして小さな声で十秒ほど呪文を詠唱して唱えると、エウロの周囲に緑色の光が漂い、エウロの傷口が光ると少しではあるが傷が塞がっていった。
「私は……回復魔術が専門なわけではないので……重症を完治させることができませんが……なんとか体を動かせる程度に回復させることはできます………」
「だとしても重症なのは変わりないでしょう?無理に動かず休んでなよ」
「いえ……私一人休んでいるわけにはいきません……私が……あの魔獣をなんとかします……」
「何か策はあるの?」
「それは今から考えますが……なんとかします」
その様子を見ていたロナが心配そうに見つつも、好奇心に満ちた目でエウロを眺めていた。
「お姉さん、魔術師なんだよね?」
「……あぁ、申し遅れました。私はエウロと言います。世界に七人しかいないと言われる偉大な魔術師の一人である星の魔術師の一人です」
「誰?分かんない」
「……ぐっ」
エウロは自分のことを知らないと言われてかなり心にダメージを受けてその場に蹲ってしまった。
「あ、あの、その、うちの一族、外界の情報とかほとんど入らないから……知らないのも無理は無いからあまり気にしないで」
心のダメージが怪我にまでいきそうな気がしたので私は慌ててフォローした。
私の言葉を受けて心の怪我が回復したか、エウロは頭を上げて話を再開した。
「……それもそうですよね。気軽にエウロと呼んでください」
「うん。エウロさん」
ロナは元気よく返事をした。
そうして話していると、外で何かが揺れているような振動が洞窟の中から響いてくる。
流石にあの魔獣がこの洞窟まで入ってくるとは思えないが……私は心配になった。
「ちょっと外の様子見てくるからロナはエウロの様子を見てて」
「うん、分かった」
私は洞窟の道を歩いて行き様子を見に外へと向かった。
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