第33話 新たな情報

「隣町で目撃情報を得ました」


 食堂の机に両手を突きながらエウロは話を切り出した。

 前回の話からエウロは魔術師協会に掛け合って情報を集めるように指示してくれていたらしい。


「隣町で活動しているとある教団があります。最近勢力を拡大しており、主にあちこちで慈善活動をしていては信者を募っているようです」

「慈善活動?それなら問題ないんじゃ……」

「しかしきな臭い噂がいくつもあるんです。

子供が建物の中に連れていかれるのを見たという人はいても出ていくところを見た人は誰もいないんです」

「それって、中で何か悪いことをしているかもしれないってこと?」

「確定はできませんがその可能性があるのは事実です」


 エウロはとんがり帽子の中に手を入れると一枚の紙を取り出して机の上に置く。

 その紙には詳しい情報と簡単に書かれた三人の人物の絵が描かれていた。


「これは三人の子供たちが連れていかれる目撃情報です。

三人とも10歳前後で、一人は白髪、ほかの二人も薄い茶色の髪、薄い灰色の髪と三人とも白髪に近かったようです。

この世界では白髪は珍しいですからね。特徴的だったために目撃者の記憶に強く残ったのでしょう。

この三人に心当たりはありますか?」

「……うん」


 私には心当たりがあった。

 いや、心当たりなんてものじゃない。

 ロナやアンナと同じように、毎日のように顔を見ていた三人だった。


****


 それはまだ事件が起こる前。

 みんなが集落の中で平和的に暮らしていた時の話。

 集落にはいたずら好きのとある三人がおり今日もいたずらを仕掛けようとしていた。


「ふ、二人とも……もうやめようよぉ……」

「何言ってんだよ、こっからが面白いんだろ」

「さすがはコンス兄ちゃん!」


 コンスは10歳の男の子で白髪で白い瞳が特徴。三人のリーダー的存在で二人を率いて集落のあちこちでちょっとした事件を起こしていた。

 イルヒは同じく10歳の男の子で灰色の髪に黒い瞳をしている。コンスの弟分で一緒になってあちこちでいたずらを仕掛けている。

 アイケは同じく10歳の女の子で薄い茶色の髪とオレンジの瞳をしている。臆病者だが二人のことが心配でいつもついて回っているがそのせいで二人のするいたずらに毎回巻き込まれている。


 この日は集落の中の木々の間に隠れ、視線の先にはとある大きな建物があった。

 当然、この日もいたずらを仕掛けるつもりだったようだ。


「ロナはあの粉は本来煙幕用って言ってたけど……本当にいたずらに使っていいのかな……」

「ロナに作ってもらったあのお手製の粉。試さないのはもったいないだろ」


 アイケは心配そうにするがこのいたずらの言い出しっぺのコンスはそんなことを言いながらいたずらをやめる気は一切ないようだった。

 後ろでイルヒはいたずらの仕掛けが動く瞬間を今か今かと待ちわびていた。


 入口の扉の真上には紐でつるされた木箱が設置されている。

 木箱は衝撃を受けると簡単に蓋が開き中身が外に出てしまうような構造になっていた。


「さて、そろそろラーラ姉ちゃんが来る頃だな……」

「あ!足跡が聞こえてくるよ!」

「3、2、1……」


 次の瞬間、扉がゆっくり開くと同時にコンスは手に持っていた紐から手を離した。

 紐とつながっていた箱は扉を開いた人物の頭に向かっていきそのままこつんとぶつかると、箱の中身である白い粉があたりに散らばり真っ白になってしまう。


「な、なに!?これ……げほっげほっ!」


「よっしゃあ!大成功!」

「ね、ねぇ……今の……」


 少しずつ真っ白な景色が晴れていくと、いたずらの被害にあってしまった運の悪い人物の姿が明らかになっていく。

 それを見た瞬間、三人の顔色が変わる。


「あ、アンナお姉ちゃん!?」

「だ、大丈夫!?」


 三人は隠れていたことも忘れて慌ててアンナのところまで駆け寄る。


「けほっ……うん、大丈夫だけど……」

「ご、ごめんねアンナお姉ちゃん……」


 アイケが必死に謝るがアンナは全く気にしていないどころかいたずらにあった自覚すら無いようだった。


「あ、もしかして……この粉ってオムギの粉?私がこれから作った料理が好きだってのを知っていっぱいかけてくれたのかな……ありがとうね……」

「いやいやいや、違うよお姉ちゃん」

「ちょっといたずらしたかったんだけど相手を間違えちゃって……」


 三人は謝罪することに必死になっており後ろから近づく気配があることに気づいていなかった。


「あんたら……あれほどいたずらはあれでやめなさいって言ったのに……」

「え?」

「ら、ラーラお姉ちゃん……」


 私は実は後ろで一部始終を見ていた。

 子供たち三人は私があの建物から出てくると思ってたらしいがたまたまその日は予定が違っており先に外出していて帰ってきたところだった。

 その時に子供たちのいたずらの瞬間を目撃してしまったのだ。


「ま、まずい……」

「だ、だからやめようって……」

「早く逃げろ!」

「あ、こら!待ちなさい!」


 そのあとは追い掛け回して一人ずつ捕まえて説教をした後建物の前に散らばった粉を片付けさせて事なきを得た。


****


 エウロが持ってきた中にある目撃情報と三人の特徴は一致している。

 どういう経緯でそうなったのかは分からないがその教団の中に連れていかれたことは間違いないだろう。


「早く助けに行かないと……」

「いえ……助けに行くにしても問題があります」

「問題って?」

「まだ今の段階では『可能性がある』程度ですから」

「でも悪いことしてるんだとしたら、それを理由に調査にでも入ってやれば悪事の一つや二つ見つかるんじゃないの?」

「全く、浅はかな奴ダ」

「なんでよ!」


 私の提案を聞いたブランが横で呆れたような声をかけてきた。

 エウロは察していたのか補足説明をしてくれた。


「今はまだ『子供が中に入ったまま出てこない』という情報くらいしかありません。

 何か明確な証拠があるわけでもないですし、乗り込むのは難しいでしょう」

「でも、その間に集落の子供たちに何かあったら……」

「気持ちは分かりますが、まだその教団が悪いことをしていると決まったわけじゃありません。もしかしたら本当にただ慈善活動をしているだけかもしれませんし。どちらにせよ、もう少し情報を集める必要があります。私はもう少し魔術師協会に詳しく調べてもらってみます」

「私もあちこちでその教団についての情報を聞き込み調査してみる」

「何か追加の情報があったらお互いに共有しましょう」

「うん」


 エウロと私の今後の方針は決まったがブランが何をするつもりなのかを聞き出せていなかったため私はそれについて質問をした。


「ブラン、あんたはどうするの?」

「俺様の情報網を舐めるでなイ。マァ、アタシに任せておくことダ」


 ブランは何をするつもりなのか詳細なことは教えてくれなかったが何かしらの調査を独自で行うつもりなようだ。


 私の家族を探すための話し合いはひとまず終わったので私はカルルのことが気になりエウロと一緒に教会に様子を見に行くことにした。

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