第14話 開業日前日
再びコテージのベッドで目覚めるオーマイガ。近くにネルはおらず、ベッド横の机に書き置きが。
『すみません、オーマイガさん。明日の来客に向けみんな準備してまして看病が難しく。シルヴィアは責任を感じて看病をしたがったのですが、今のオーマイガさんには刺激が強いかもしれないので念のため断りました。僕は明日の来客を迎えに行ってきます。朝食、ここに置いておきます。後はハンネスやクルトンに任せてあるので、何かあれば二人に言ってください。――追伸。明日、楽しみですね!』
窓の外が明るく、遠くから鳥のさえずりが聞こえてくる。どうやら昨日倒れてからずっと意識が戻らず、翌朝になっているようだ。
手紙の脇に食事が置いてある。オーマイガはマメなネルに感謝しながらありがたく朝食をいただいた。
(明日楽しみって、オレも来ていいのか……?)
来客はまず人間だろう、たぶん。オークの自分がいたら問題にならないだろうか? ――いや、なる。普通に考えて。
(ココは居心地がよくてつい居着いてしまうな……)
オーマイガにも里や家族はある。ネル達は家族と同じ様に自分を扱ってくれていた。怖がらず、対等に。だからこそ迷惑はかけたくない。
(ハンネスとクルトンに聞いてみよう)
オーマイガはベッドから出て支度を整えるとコテージを出た。
◆
――くっころ喫茶――
「お茶が薄いよ!? なにやってんの!?」
「はぁ!? だったら自分で――」
「俺、客。いわば神様。あんた、メイド。OK?」
「――くっ! ぇ、えぇ。失礼しました、ご主人様」
くっころ喫茶に入ると昨日のように接客練習中のようだった。
ジャックのハラスメントに近いクレームにアリシアは手をプルプル震わせながらも従っている。
アリシアは腰に手を持っていくが、そこにはいつもはいている剣は無い。忌々しげに舌打ちする。そして、そんなアリシアの様子を見てどこか落ち着きをなくすジャック。
(怖いならやんなきゃいいと思うが……)
オーマイガがため息をつくと、アリシアとジャックもようやく気付いたようだ。二人してこちらに歩いてくる。
「もう身体はだいじょうぶなのか?」
「急にぶっ倒れたから心配しましたよオーマイガさん」
「ああ、ダイジョウブ。邪魔して悪かった」
そんなやり取りをしつつ店内を見回してみる。すると、他のメイド達も奥のテーブルで練習していた。
「おさわりは禁止ですよ? ご主人様?♪」
「イ、イタイ! 痛いよエミリー!? まださわってないじゃないか!?」
クルトンの手をニコニコ笑顔でひねり上げるエミリー。笑顔だが目は笑っていなかった。
「ねぇねぇ、この猫耳つけて?」
「バ、バカ! そういうのはもっと可愛いヤツに言ってやれ!」
「僕はカレンにつけて欲しいんだ。ねぇ、いいでしょ?」
顔を真っ赤にしてユートが手に持つ猫耳カチューシャを拒絶するカレン。まだ羞恥は捨てきれていないようだ。
サラとシルヴィアは何やらカウンターの方でハンネスと話し込んでいた。オーマイガが見ているとシルヴィアがこちらに気付き、ニコッと笑顔になり手を振ってきた。ハンネスとサラも気付き、三人でこちらに歩いてきた。
「お身体はもうよろしいので?」
「ああ、心配をかけて悪かった」
「……よかった」
「あ、ああ……」
「今ちょうど明日の予定について聞いてたんだけど、あなたもどう?」
「聞かせてもらおう」
アリシアとジャックは練習に戻り、オーマイガはカウンターの方に連れていかれた。
「ネルからは、明日の正午くらいに客を連れてくると聞いてます。予定では三、四人だとか」
「ニンゲンか?」
「そう聞いてます」
やはり人間のようだ。オーマイガは辞退を申し出ようか悩む。ハンネスも察したのだろう。フォローに入ろうとするが、シルヴィアとサラの方が早かった。
「……私達の練習の成果、見てて」
「アイツが連れてくる客なんだもの、普通の人間じゃないでしょ。気にする必要無いわよ」
シルヴィアはどこか期待した目で嬉しそうに、サラはオーマイガの悩みを見抜いた上でそう言ってくれた。そのあたたかさに戸惑ってしまう。
「お二人に先を越されてしまいましたが、あなたは既に私達の仲間ですので気兼ねなど不要です。ネルだって同じ気持ちですよ」
ハンネスがオーマイガの肩に手を置いてぽんぽんと軽く叩く。
オーマイガは嬉しかった。不安だっただけに喜びはひとしおだった。だから口元をほころばせて言う。
「ワカッタ。オレも見てる。何か手伝えることがあれば、エンリョなく言ってくれ」
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