第14話 開業日前日

 再びコテージのベッドで目覚めるオーマイガ。近くにネルはおらず、ベッド横の机に書き置きが。


『すみません、オーマイガさん。明日の来客に向けみんな準備してまして看病が難しく。シルヴィアは責任を感じて看病をしたがったのですが、今のオーマイガさんには刺激が強いかもしれないので念のため断りました。僕は明日の来客を迎えに行ってきます。朝食、ここに置いておきます。後はハンネスやクルトンに任せてあるので、何かあれば二人に言ってください。――追伸。明日、楽しみですね!』


 窓の外が明るく、遠くから鳥のさえずりが聞こえてくる。どうやら昨日倒れてからずっと意識が戻らず、翌朝になっているようだ。


 手紙の脇に食事が置いてある。オーマイガはマメなネルに感謝しながらありがたく朝食をいただいた。


(明日楽しみって、オレも来ていいのか……?)


 来客はまず人間だろう、たぶん。オークの自分がいたら問題にならないだろうか? ――いや、なる。普通に考えて。


(ココは居心地がよくてつい居着いてしまうな……)


 オーマイガにも里や家族はある。ネル達は家族と同じ様に自分を扱ってくれていた。怖がらず、対等に。だからこそ迷惑はかけたくない。


(ハンネスとクルトンに聞いてみよう)


 オーマイガはベッドから出て支度を整えるとコテージを出た。


――くっころ喫茶――



「お茶が薄いよ!? なにやってんの!?」

「はぁ!? だったら自分で――」

「俺、客。いわば神様。あんた、メイド。OK?」

「――くっ! ぇ、えぇ。失礼しました、ご主人様」


 くっころ喫茶に入ると昨日のように接客練習中のようだった。


 ジャックのハラスメントに近いクレームにアリシアは手をプルプル震わせながらも従っている。


 アリシアは腰に手を持っていくが、そこにはいつもはいている剣は無い。忌々しげに舌打ちする。そして、そんなアリシアの様子を見てどこか落ち着きをなくすジャック。


(怖いならやんなきゃいいと思うが……)


 オーマイガがため息をつくと、アリシアとジャックもようやく気付いたようだ。二人してこちらに歩いてくる。


「もう身体はだいじょうぶなのか?」

「急にぶっ倒れたから心配しましたよオーマイガさん」

「ああ、ダイジョウブ。邪魔して悪かった」


 そんなやり取りをしつつ店内を見回してみる。すると、他のメイド達も奥のテーブルで練習していた。


「おさわりは禁止ですよ? ご主人様?♪」

「イ、イタイ! 痛いよエミリー!? まださわってないじゃないか!?」


 クルトンの手をニコニコ笑顔でひねり上げるエミリー。笑顔だが目は笑っていなかった。


「ねぇねぇ、この猫耳つけて?」

「バ、バカ! そういうのはもっと可愛いヤツに言ってやれ!」

「僕はカレンにつけて欲しいんだ。ねぇ、いいでしょ?」


 顔を真っ赤にしてユートが手に持つ猫耳カチューシャを拒絶するカレン。まだ羞恥は捨てきれていないようだ。


 サラとシルヴィアは何やらカウンターの方でハンネスと話し込んでいた。オーマイガが見ているとシルヴィアがこちらに気付き、ニコッと笑顔になり手を振ってきた。ハンネスとサラも気付き、三人でこちらに歩いてきた。


「お身体はもうよろしいので?」

「ああ、心配をかけて悪かった」

「……よかった」

「あ、ああ……」

「今ちょうど明日の予定について聞いてたんだけど、あなたもどう?」

「聞かせてもらおう」


 アリシアとジャックは練習に戻り、オーマイガはカウンターの方に連れていかれた。


「ネルからは、明日の正午くらいに客を連れてくると聞いてます。予定では三、四人だとか」

「ニンゲンか?」

「そう聞いてます」


 やはり人間のようだ。オーマイガは辞退を申し出ようか悩む。ハンネスも察したのだろう。フォローに入ろうとするが、シルヴィアとサラの方が早かった。


「……私達の練習の成果、見てて」

「アイツが連れてくる客なんだもの、普通の人間じゃないでしょ。気にする必要無いわよ」


 シルヴィアはどこか期待した目で嬉しそうに、サラはオーマイガの悩みを見抜いた上でそう言ってくれた。そのあたたかさに戸惑ってしまう。


「お二人に先を越されてしまいましたが、あなたは既に私達の仲間ですので気兼ねなど不要です。ネルだって同じ気持ちですよ」


 ハンネスがオーマイガの肩に手を置いてぽんぽんと軽く叩く。

 

 オーマイガは嬉しかった。不安だっただけに喜びはひとしおだった。だから口元をほころばせて言う。


「ワカッタ。オレも見てる。何か手伝えることがあれば、エンリョなく言ってくれ」

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