くっころから始まる夢の島

黄昏のy

第1話 くっころから始まる夢の島

「――くっ、殺せ!」


 戦い追い詰めた人間の女騎士は皆、いつもこんなことを言う。


『生き恥をさらすくらいならいさぎよい死を!』とのことだが、襲って来たから撃退しただけで、別に命なんて欲しくない。


 オークの戦士オーマイガは、いつもの様に困り果てほおをかく。


(とりあえず、金になるものをもらっとくか)


 オーマイガは、命の代わりにお金になる物をもらうことにした。地べたで座り込む女騎士ににじりよる。



「や、やめろぉ! そんなはずかしめを受けるくらいならいっそ――」


 女騎士は何を勘違いしているのか、大袈裟おおげさ身悶みもだえている。ただ、もう体力が無いので、クネクネと身体をよじるだけだ。別に害は無い。


 まず、剣や盾を回収する。次に鎧だ。立派な銀鎧だから高値で売れるだろう。オーマイガは嬉々ききとして鎧に手をかけた。


「わ、私を手ごめにする気だな!? そ、そうはさせんぞ!」


(うるさいメスだなぁ)


 ギャアギャアわめくメスがうっとうしいが、強引に銀鎧をぎ取ることにする。とめている金具に手をかけると、より一層抵抗が激しくなった。


「ダ、ダメだ! こんなところで! せめて部屋の中で――」


 女騎士の顔が真っ赤だ。部屋の中でなら大人しく渡してくれるのだろうか。別にこのまま奪うだけだけど。


 だが、そんな時――



――がさっ


 近くの草むらで葉擦はずれの音が鳴る。


「「「あ……」」」


 三者三様のつぶやきがれた。


 新たに現れたのは、人間の少年だった。オーマイガと女騎士を見つめて戸惑っている。


(あ~……。面倒なことになった)


 ひ弱そうな少年だ。すぐに倒してしまおうか? オーマイガは、腰にげたこん棒を手に取り、少年に歩み寄った。だが――



「ま、待ってください! 僕はあなたの“味方”です!!」


 少年が両手を万歳ばんざいし、抵抗の意志がないことを示す。オーマイガは迷った。


(ミカタ? ミカタってオレの“味方”ってことか? 意味がわからん……)


 オーマイガは考えるのが面倒になり、こん棒を振りかぶった。そして勢いよく振り下ろす。


「待ってください! このとーりです!!」


 少年の頭を狙ったこん棒は空を切る。少年が急に土下座したせいでかわされたのだ。その動きは、オーマイガには修練を積んだ達人の動きに見えた。


(こいつ……できるっ!)


 オーマイガはこの少年に対する警戒レベルを引き上げた。ジリジリと油断無くにじり寄る。


「待ってくださいって! 取り引きっ! 取り引きがあるんですっ!!」


 少年は土下座しながら拝みだした。しかも涙目だ。その必死さから、とても演技とは思えなかった。


 油断ならない相手と戦わなくていいならそうしたい。保守的なオーマイガは、少年の言う取り引きとやらを聞いてみることにした。



「――んん~っ!!」

「はいはい。静かにね」


 少年は手慣れた手つきで女騎士をヒモで縛る。口には猿ぐつわをかませている。女騎士は信じられないものを見る目で少年をにらむが、少年はどこ吹く風だ。鼻歌なんぞ歌っている。


 オーマイガは二人の近くに座り込み、黙ってその様子を見張っていた。


「これでよし……っと! ――お待たせしました!」


 少年は女騎士を縛り終えるとそでで額の汗をぬぐう。スゴくさわやかなイイ笑顔だった。そして、オーマイガの目の前に座った。


「自己紹介が遅れました。僕は“くっころ商会”の会長、ネルです。どうぞお見知りおきを」

「オーマイガ」


 オーマイガは端的たんてきに名乗り返した。だが、少年――ネルは嬉しそうだ。


「オーマイガさん。どうぞよろしくお願いしますね。――さて、取り引きの内容についてお話しますね? 実は我が商会では新しい事業として――」


 ネルは取引内容について饒舌じょうぜつに語りだした。



 ネルの話をまとめるとこうだ。


①女騎士を集めている。


②ただの女騎士じゃダメ。「くっ、殺せ!」と言う女騎士限定。意味が合ってれば、別の言葉でも可。


③女騎士は、少年が最近購入した無人島に送る。


④女騎士にはそこで働いてもらう。――そこは夢の島だ!


⑤女騎士を捕らえて送ってくれたら報酬を渡す。“くっころ度”が高い程、報酬は高くなる。



(…………)


――つまり、人身売買の片棒をかつげと? 


 オーマイガはいぶかしんだ。なぜ同族を捕らえたがるのか。それに“『くっ、殺せ!』と言う女騎士を集めたら夢の島!”というのも意味不明だ。


 人間は同族で商売をする奇妙な生き物だ。“奴隷商”という、オークには無い商売がまかり通っているのだ。


 それが奴隷じゃなく特殊な女騎士になっただけなのだろう。オーマイガはそう考え納得することにした。


――それにしても、“くっころ度”って何だ?


「どうでしょう? 取引を受けてくださいますか?」


 オーマイガは、とりあえず少年の手を取るのだった。



 後世にまで伝わる“くっころ島”は、こうして誕生するのだった。

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