第20話 エミリーの成長

――くっころ喫茶――



「いきなりかい、バイオレット。国の法でも定められてるじゃないか。喫茶店でお酒は出せないよ。そのためのお店は今後別に用意するつもりだけどね。今日は控えてくれ」

「あら。ここは国に営業許可を得てやっているの?」

「…………」


 当たり前だが痛いところをついてくる。くっころ島は誰にも束縛されず好きに運営する自由の島。理想郷だ。国の管理下に置かれていいはずがない。


 アリシアの不安そうな視線を受けながらネルは反撃を試みる。


「わかってて言ってるよね、バイオレット。君だってお日様のもと堂々と歩けないだけのことを散々やってきてるだろ? こんな時だけいい子ぶるのは違うんじゃないか?」

「その言葉、そっくりお返しするわ。拉致まがいのことをしておいて今さら法も何もないでしょ?」


 売り言葉に買い言葉。場は険悪になりつつある。皆も異変に気付いたようで心配そうにこちらを伺っている。そして、今まで黙っていたホセまで参入する。


「あ~! まどろっこしい! 酒はこの通り自前で持ってきたからよ! おかたいこと言うなって」


 笑顔だが、目は笑っていない。バイオレットとホセを同時に相手取るのはあまりに不利だ。ネルは両手を上げて降参した。


「今日だけだよ? ここはそういう店じゃないんだ。酔って皆に迷惑をかけるなら――」

「しねぇって! んなことより飯だ飯! どれにすっかな~」

「私はこの“おいしくな~れ杏仁豆腐”にするわ」

「アリシア、悪いね。注文を取ってグラスを2つ出してあげてくれる?」

「は、はい」


 ネルは後を任せると他のテーブルの様子を見に行った。



「お騒がせしてすみません。あちらの席だけお酒というのも不公平ですし、もしご希望であれば皆様方にもお酒を提供させて頂きますがいかがでしょうか?」

「ははっ……僕はいいよ、お前もいらないだろ?」

「うん、メイドさんの丁寧な仕事振りだけでも大満足だよ!」

「ご主人様ったら~♪」


 中央のテーブルではエミリーが接客していた。上手く客の心をつかんでいるようだ。ほめられたら軽く肩をボディータッチし、サービス精神が旺盛だ。


 また、クルトン、ユートからすすめられた猫耳と猫しっぽをつけ、他のメイド達よりも萌えを強調しており、客2人はエミリーの可愛さにデレッデレだ。たまに猫耳と猫しっぽを触らせて上げている。


 ネルをして驚くほどの成長っぷりだった。


(やれやれ……これだから女性は末おそろしい)


 エミリーの好成長っぷりにバイオレット達とのやり取りで生じたムカムカも消え去っていく。


 ネルはご機嫌な足取りで残りのテーブルに向かった。

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