第53話 メルキドの町で ②

――カポーン。


 そんな擬音が聞こえてきそうな大浴場内。湯気で白く染まる視界の中、浴槽内でリーンとクラウディアはまったりしていた。


「あ~……生き返る~……」

「温泉ではないが、なかなかのものじゃないか。北方でもないのにな」


 のっぺりするリーンと、頬を上気させて二の腕をさするクラウディア。クラウディアは当然のことながらここでも注目を集めた。


 クラウディアに気付いた他の冒険者達が寄ってくる。そう。この宿は冒険者組合と懇意にしている宿なのだ。多くの冒険者が泊まっていた。


「あ、あのあの! もしかして、銀氷のクラウディア様ですか!?」

「そうだが、そうかしこまる必要もない。私も君達と同じ一介の冒険者だ」

「いえいえ! 雲の上の存在ですよ、私達にとって! 国外に出てるって聞いてましたが、戻ってらしたんですね」

「ああ。ついこの前な。この町に来たのは少し用事があってだ」


(用事……)


 風呂の暖かさにどべーっとしているリーンだが、クラウディアの話を聞いて興味をそそられる。


 見た感じクラウディアに話しかけている二人の冒険者は年上だ。自分が横槍を入れるのを嫌うかもしれない。三人の会話に黙って耳を傾けた。


「何の用事なんですか?」

「人探しだ」


 クラウディアが女冒険者にそう答えた瞬間、リーンの心臓が跳ねる。


(もしかして、クラウディアさんもシルヴィアお嬢様を!?)


 だとすれば強力過ぎるライバルだ。何せ、2000ゴールドの成功報酬が約束された依頼だ。噂が国内に広まってクラウディアの耳に入っていてもおかしくない。


「まさか、恋人に会いに……とか?」

「ふふ……それは教えられないな」

「教えてくださいよ~♪」


 女冒険者二人が色恋を邪推するも、クラウディアははぐらかす。リーンとしても気になるが、無理に聞いて場の雰囲気を壊すのははばかられた。


(これは、テッドとも話さないと!)


 すっかり目が覚めてしまった。こういうことは頭脳役のテッドに相談した方がいい。リーンの経験則では。


 しばらくすると女冒険者達はクラウディアから離れていく。クラウディアは少しして浴槽から立ち上がった。


「さて、と……。私は上がるが、君はゆっくりしていくといい」

「いえ、私ももう大丈夫です!」


 お湯を桶によそい、身体にかけて流すクラウディアとリーン。そのまま二人して脱衣所で服を着て風呂場を出た。


「飯は何時にするか……。彼も呼ぼうか」

「はい! あいつに言ってきますね!!」


 部屋へ戻る途中、リーンはクラウディアと別れ、テッドにあてがわれた一人部屋へと向かった。

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