第54話 メルキドの町で ③

「テッド! テッド!」


 部屋の扉がドンドンと叩かれる。よく知る幼馴染みの声に、テッドは部屋の内側から扉を開けた。


 そこには、ホカホカ上気しているリーンの姿があった。


「あ、リーンもお風呂行ってきたんだ。よかったよね、広くてさ」


 テッドも風呂を済ませていた。男一人なので長湯もせずさっさと身体を洗い出てきていた。今は暖炉の前で暖まっていた。


 そんな平和なテッドとは対照的にリーンの表情には焦りが見える。


 リーンはテッドの了解も得ずに部屋に踏み込み、戸を閉めた。


「ちょ――」

「もしかしたらクラウディアさん、私達のライバルかも!!」


 戸惑うテッドを気にもせず、リーンはテッドに、風呂場での冒険者とクラウディアの会話を語り聞かせた。



「なるほどね……」


 リーンの話を聞き終えたテッドはふむふむとうなずく。


「どう、あやしいでしょ?」

「いやぁ、でも人探しってだけじゃそこまで決めつけられないよ。タイミングは良すぎるとは思うけど」


 テッドが自分の思う反応を返さずムッとするリーンだが、テッドは意に介さない。


「直接聞けばいいじゃないか」

「聞いてもはぐらかされるでしょ」


 そう。あの冒険者達がそうだったのだ。むしろ、何故気にするかを問われるんじゃないだろうか。そうしたら、こちらの目的も話さなければいけなくなるかもしれない。


「僕の見立てだと、あの人は正直だよ。嘘が得意なようには見えない」

「そりゃ私もそう思うけど」

「あの人がライバルだったとして、その時点で僕らは不利だよ。実力も名声も圧倒的に違う。それより腹を割って話してみて、一緒に事に当たれないかな?」

「え~! 報酬が減るし、土壇場で裏切られたら!?」

「報酬はそれでも3分の2だし、成功率は高まると思うけどな。それに、あの人が裏切るような人に見える?」

「……見えない」

「僕もそう思う。それに、シルヴィア嬢がこの地に来ている確証だってないんだ。気にしすぎの線の方が濃いよ」

「なによ、あんただって納得してたじゃない」

「君の勘はよくあたるからね。でも、まだ判断材料に乏しい。ここは、クラウディアさんに探りを入れつつ、必要に応じて協力を仰ぐのが丸いんじゃないかな?」


 テッドの言うことにイマイチ納得はしきれないが、リーンはうなずいた。


「わかった。なら、この後晩御飯だから、そこで聞きましょ。いつ来れる?」

「ん? ああ、僕はいつでも」

「じゃあ、半刻後に呼びに来るわ。それまでに支度しといて」

「あ、うん。わかっ――」


 テッドが答え終わる前にさっさと部屋を出ていくリーン。扉が開いてすぐ閉じられた。せっかく男女二人で一室だったのに、色気なんて1ミリもなかった。


 テッドは暖炉の前に移動し、再びのっぺりする。だが、先程までとは気分が違う。


「やっかいなことになんなきゃいいけど……」


 テッドの経験則は警鐘を鳴らしていた。

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くっころから始まる夢の島 黄昏のy @tasogarenoy

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