第25話 来るなら来い!
――くっころ喫茶――
バイオレットから語られる衝撃の事実はくっころ喫茶内を静けさで満たした。誰もが唖然として何も言えないのだ。
――ただ一人、オーマイガをのぞいて。
「なん、だ? そのメス――シルヴィアがどうしたんだ?」
バイオレットが面白いモノを見つけた無邪気さでオーマイガに向き直る。
「そう言えば、オークにも名はあるのかしら?」
「オーマイガ」
「そう。オーマイガ、あなたのお気に入りのシルヴィアちゃんはね、人間社会でとてもエライお家の出なの」
「オサならうちの里にもいるが、そういうのか?」
「そそ♪ もしもオサの娘さんが誰かにさらわれたら、あなたの里のオーク達はどうする?」
「力ずくで取り戻す、オサの娘でなくとも」
「う、う~ん……ちょっと欲しい答えとは違うけど、まぁ、そういうことよ」
ウンウンとうなずくバイオレット。その顔は明らかに楽しそうだ。逆に、頭を抱えんばかりに口元をヒクヒクさせているのはネルだった。まわりから『どうすんの?』と言いたげな視線が突き刺さる。
ネルは――笑った。
「ふ、ふふふ……ハーハッハ!」
「あ、ネルが壊れた」
「だよねぇ、いくらなんでもね」
「ネルさんスゴイ!」
「いやぁ、もう惚れちゃうぜボス」
ハンネス達それぞれが感想をもらす中、ネルは胸をはってのたまう。
「国が……大貴族が怖くてくっころ島をやれるか! 予定よりだいぶ早すぎるけど、いずれは通る道! みなでこの苦難を乗り越えようじゃないか!!」
「苦難ってなんだ?」
「ネルはね、シルヴィアお嬢ちゃんのお家の方が今頃お嬢ちゃんを探し回ってて、もしこの島が見つかったら大変なことになるからみんなで頑張ろうって言ってるの」
「解説ありがとうバイオレット! その通りだよ!!」
話についていけていないオーマイガに丁寧に説明するバイオレット。そしてそんなバイオレットに親指を立ててみせるネル。
しかし、そんな簡単に済む話ではない。
「いやいやヤバいでしょ!?」
「ですです!」
「だなぁ! いやぁ、おもしれぇ!! 貴族の軍とバトルか!」
「いや、何も面白くない。――というか、シルヴィアをお家に返すのは? 元々さらわれたんだし。それしかないんじゃない?」
アリシア達もそれぞれ感想をもらすが、サラの意見は無視できないものだ。皆がシルヴィアを見る。
シルヴィアはメイド服のスカートをぎゅっとにぎり、申し訳なさそうにしていた。すかさずネルが間に入る。
「ダメぇ! それはダメぇ!! ――ね! オーマイガさん!! シルヴィアがとられるなんてダメだよね!?」
「考えるまでもない。ダメに決まってる」
「でしょお!? じゃあ、何がなんでも守るしかないよね!!」
オーマイガを巻き込み強引に話をまとめるネル。サラが口をはさむ間も無く握りこぶしを作りながら宣言した。
「誰一人渡さん! もうみんな僕の……僕達の家族なんだ!! くっころ島はオアシス! 来るならこい、返り討ちにしてやろう!!」
ネルの宣言に呼応し、ハンネス達からの拍手だけがけたたましく鳴り響くのだった。
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