第41話 “銀氷”
王国北西部、ヌーベル伯爵領にあるハーメルンの町。小都市ロイツの北に位置するこの町は、
だが、王国の北と南。特に北は魔族の動きが活発で、アストリア不在の今、魔族の襲来を度々受けていた。
――そう。今この時も、
「ギガントボアが出たぞぉ!! まっすぐこっちに向かってる!」
◆
物見の知らせを受け、町の中が騒がしくなる。それも当然だろう。
――ギガントボア。
見た目は巨大な猪だ。
だが、その巨体は町の門ほどもあり突進による破壊力は途方もない。
北西の山脈に住まうはずの魔獣がここまで降りてくることなどめったにない。
だが、実際来てしまっている。なら迎撃するしかない。
「ありったけの弓矢を持ってこい! ――あ? そんなとこから撃って止まるなら苦労しねぇよ!! あと、槍だ! 長槍もありったけだ!!」
この町に常駐しているヌーベル伯爵お抱えの騎士団、その長であるゲラルトが大声で部下達と自警団員に指示を出す。
「嘘だろ? あんな巨体がそれだけで止まるかよ……」
「なんなんだろうな……死ねって言ってんのかな? 団長殿は」
「そこ! 駄弁ってんな!! さっさとしやがれ!!」
「「はぃい!!」」
不満をもらす若手の騎士二人。直ぐ様長槍を持って行こうとするが、背後から歓声が上がる。
「銀氷だ! 銀氷が来てくれたぞ!!」
若手騎士が思わず振り返ると、そこには角の生えた馬に騎乗した一人の女騎士がこちらにゆっくりと歩みを進めていた。
だが、普通の馬ではない。白をベースに青のたてがみ、そして頭には一本角が生えている。
「まさか、ユニコーン……」
「バカな、幻獣を飼い慣らしてるのか?」
若手騎士二人の視線はその主に向く。馬上の女騎士に。
全身を包む
さながら、物語に出てくる戦乙女のようだ。
若手騎士二人がほけーっと見とれていると、女騎士が馬に乗ったままこちらに向かってきた。
「ギガントボアか、中々に頑丈そうだ。――アレを倒せばよいのだろう?」
凛とした美しい声だった。間近でその女騎士の顔を見てほおを赤らめる二人。
――全てにおいて美しい。
若手騎士二人は緊張しながらも、何か答えなければとワタワタする。
「は、はい! 今から皆で矢と長槍を――」
「それでは間に合わんだろう。私に任せておけ。 ――行くぞ、フューリア!!」
女騎士のまたがる馬がいななき前足を持ち上げた。再び地につけると凄まじい速度でギガントボアに向かい駆けて行った。
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