第40話 フェイとフローリカ

――くっころ喫茶――



「お嬢様方、お飲み物はいかがなさいますか?」

「お、気がきくじゃねーか! あたし、アイスコーヒー、ミルクましましな!」

「わ、私は緑茶でお願いします」


 新たに現れた二人の少女――フェイとフローリカを連れ、今ではたまり場と化してきたくっころ喫茶に皆で移動した。


 赤茶髪ボーイッシュがフェイ、メガネ金髪オサゲがフローリカだ。


 ハンネスが飲み物を二人に配りフェイが飲み始めたところで、バイオレットが口を開く。


「紹介するわ。フェイとフローリカ。私の恋人達よ」

「お姉様! 私を忘れてますわ!」

「おう! フェイだ! よろしくな!!」

「フ、フローリカです。よろしくおねがい……します」


 当たり前のように同性愛が成立、公開され、アリシア達は戸惑いを隠せない。逆に男性陣は興奮していた。


「秘密の花園!」

「僕、お花の百合もユリも大好き!!」

「これもまたよきかな……」


 クルトン、ユート、ジャックの順応性の高さは半端じゃない。ユートも純粋ながらその素質を開花させつつあった。


 ちょっとドン引き状態の女性陣のフォローにネルが入る。――というか、話題転換した。


「見たところ二人は騎士じゃなさそうだけど、どうしてバイオレットと?」


 そう。フェイは革を主体とした軽装、フローリカに至っては私服だった。


 バイオレットはくっころ女騎士を倒し征服し気に入ったのを手ごめにする。対象外のはずだと、そうネルは言いたかった。


「あたしは元々盗賊だったんだけどよ。剣聖に憧れちまった時があってな。で、森の中でヴィオーラ様にわからされて今に至るってわけよ!」


 どういうわけなのか、ネルですらよくわからない。


「わ、私も元は錬金術師だったんですけど、その……騎士にあこがれて森の中で魔物退治をしてたらヴィオーラ様におしおきされまして……ぅう! 恥ずかしい!!」


 フローリカは当時のことを思い出してか顔を真っ赤にし、両手でおおってしまった。


――なぜ錬金術師が騎士になってバイオレットにおしおきされてしまったのか。ツッコミどころはやはり多い。


「ふふ……♪ 二人とも、無理して騎士ぶるものだからつい楽しくなっちゃって。『――くっ! 殺せ!』とか、『私の敗けです、好きにしてください』とか言われちゃうと、ついイジメたくなっちゃうのよね……」


 当時のやり取りを思い出してか興奮にほおを赤く染めるバイオレットに目を向けられなくなるネル。自分も他人から見てこうなのだろうか。否定はしない。


 アリシア達は皆――シルヴィアを除き――口元がヒクついている。フェイ達のしてきたことに身に覚えがありすぎるのだろう。


「それでね? 十分にわからせた後、二人に教えてあげたの。『ありのままのあなた達の方がずっと素敵よ』って。そしたらわかってくれて、剣聖の“呪い”も解けたわ」


「の、呪いだなんて!」

「憧れてるだけです!」

「まぁ……みんな同じ様になっちまってるとこはあるかもな」

「ふん……個人の好き好きすきずきの話でしょ。余計なお世話よ」


 自分達の憧れを“呪い”と言われていい気のしないアリシア達だが、自分達より圧倒的に強いごうの者バイオレットに強くは出れない。だがやはり不満は口から出てしまう。


「ふふっ……私が見たところ、あなた達もここにきてからだいぶ変わってるんじゃないかしら。――あなたから見てどう? オーマイガ」


 急に話を振られたオーマイガに皆が注目する。オーマイガはうなずいた。


「少しわかる。最初は皆ほとんど同じに見えたけど、今は違いがよくわかる」


 オーマイガの返答にバイオレットが嬉しそうに笑い、アリシア達はなんとも言えない戸惑った表情になる。


 ブツブツとつぶやく男が一人。


「ふむ……しかしそれだと、くっころさの喪失に……いや、くっころは魂に刻み込まれた純潔とも言えるはずだ。変わるのは表層、あくまで個性的な部分。それを否定することはアイデンティティすら否定することに――」


 ネルは自問自答を始めてしまうが、バイオレットが手をパン!とうち鳴らし正気に戻らせた。


「――っ! 僕は何を!?」

「あ、戻ってきたわね。次からこうしましょうか」


 皆がうなずく。ネルが口をとがらせてイジケてしまった。


 そんなネルを無視してフローリカがソワソワとまわりを見回す。


「何か気になるの? フローリカ」


 バイオレットの優しげな表情。だが、それが次の一言でくもる。



「いえ、クラウディア様はどこかなと思いまして」

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