第4話 『くっころ喫茶』

「私の敗けだ。好きにしろ」


 オークの戦士オーマイガは、また一人女騎士を下した。


 オーマイガは“くっころ”商会のネルと“ある取引”をしていた。


 それは――



『――くっ、殺せ!』と言う女騎士を、ネルの管理する無人島に送れば、引き換えに報酬を渡す


 というものだ。オーマイガは、またも襲いかかってきた女騎士を下した。今、女騎士は地面にへたり込み、『キッ!』と鋭くオーマイガをねめつけている。


 まぁ、それはいい。いつものことだ。問題は――



『私の敗けだ。好きにしろ』


(これは、ネルの言う“くっころ”なのか?)


 よくわからない。でも、好きにしていいって言ってるし……。なので、オーマイガは――



「や、やめろぉ! 『好きにしろ』とは言ったが! ――確かに言ったが! まさか私を手ごめにする気か!? そんなこと、断じて――んむぅっ!!」


 縄で縛ると女騎士はジタバタと暴れる。それにうるさい。オーマイガはうんざりしながらも、ネルからもらっていた猿ぐつわを女騎士にかませた。


「ん~っ! んん~っ!!」


 女騎士は顔を真っ赤にし、涙目でこちらを睨んでくるが……どこか嬉しそう?


 オーマイガは首を振る。自分もネルに感化されておかしくなっているのかもしれない。さっさと連れて行くとしよう。


 オーマイガは身をよじって暴れる女騎士を肩に担ぎ、急ぎ引渡し場所の隠し入り江へと向かった。


――隠し入り江――



「あ、オーマイガさん! イイ“くっころ”ですね!!」

「んん~~~っ!!」


 入り江に着くと、そこで待機していたネルの商会の従業員――クルトンに女騎士を引き渡した。


 見た所、ネルよりも幼い。12くらいだろうか。


 だが、ネルと志を同じくしているためか、選別眼はたいしたものだった。


「“くっころ度”は……Aですね! おめでとうございます!」

「うん」


 クルトンからAランクの報酬が入った皮袋を受け取った。


――そう。謎の“くっころ度”なるもので報酬が変わるのだ。どうやら今回は当たりだったようだ。『――くっ、殺せ!』と言わなくても評価は高かったりするからよくわからない。


「じゃ、僕はこれで」

「またヨロシク」

「――んんぅ~~~っ!!」


 クルトンは女騎士を舟に乗せ、鼻歌を歌いながら漕ぎだした。うらめしそうに女騎士がこちらをにらんでいるが、――まぁ、向こうで取って食われる訳でもない。気にしないことにした。


 そう。女騎士は、ネルの管理する無人島で――


 オーマイガは、つい先日無人島にお呼ばれした時のことを思い出す。



「い、いらっしゃいませ~。 ――くっ! どうして私がこんな真似を! 屈辱だ!!」

「ダメだってアリシア。もっと可愛く♪ ――はい、やり直し」

「――くっ! い、いらっしゃいませ~♪ こちらのお席にど~ぞ♪」


 無人島にはログハウスが急造されていた。壁に掲げられた看板には――


『くっころ喫茶』


 ネルの趣味全開の店名が記載されていた。そして、客第一号としてオーマイガがお呼ばれされたという訳だ。


 店の中に入ると、見知った顔に出迎えられる。


――そう。オーマイガが初めて捕らえた女騎士だった。名はアリシアというらしい。


 メイドドレスを着て、丈の短いスカートを恥ずかしそうに手で押さえている。顔は真っ赤で涙目だった。



「――ふぉぉ~~っ!!」

「ネ、ネルさん! ハンネスさんが鼻血を吹き出してます!」

「すぐに手当てを! ――ハンネス! 死ぬなっ!!」

「――これで死ぬなら、我が本望……っ!」

「「「ハンネスーっ!!」」」


 オーマイガにはついて行けない世界だった。そうこうしている間にも――


「お、お食事はいかがいたしましょう?」


 アリシアからメニューを渡された。色々あるが――


「オススメで頼む」

「オススメ、入りましったぁ~っ!!」

「「イェ~ッ!!」」


 いつの間にか、ネルと従業員の子供二人――クルトンとユートが近くに来て、盛大に盛り上げている。


「オススメ、わかってるよね?」

「あ、あぁ。 ――でも、本当にやるのか?」

「当たり前だろ? ――それと、言葉遣い」

「は、はい~♪ お客様、しばらくお待ちください♪」


 アリシアは店の奥へと引っ込んだ。


【待つことしばし】



「お待たせしました♪」


 料理の乗った皿が運ばれてきた。卵料理みたいだ。ふわとろな卵に食欲がそそられる。


 オーマイガは早速食べ始めようとするが――


「待ったぁ!!」


 ネルが急に待ったをかける。早く食べたいんだが……。


「アリシア。ケチャップ」

「は、はい! ――くっ! 屈辱だ……!!」


 ネルが小声で何かをアリシアに言うと、恥じらいながらアリシアがトマトソースの入ったチューブを押して卵の上にかけていく。


 その柄は――


 ハートだった。意味がわからない……。オーマイガはネル達を見回すが――



「「「イェ~~ッ!!」」」

「――くっ! これでいいのだろう!? さぁ、食べるんだ!! あ~ん♪」


 盛り上がるネル達をよそに、アリシアが料理をさじによそってこちらに差し出してくる。


「は、早く口を開けろ!!」


 顔をゆでダコのように真っ赤にしたアリシアに言われるがまま、オーマイガは口を開けた。そこに差し込まれる料理。


 さじが口から取り出されると、ゆっくり咀嚼した。

 

 こ、これは――!!


「う、うまい!!」

「「「イェ~~~ッ!!」」」

「だ、だから恥ずかしいからそれをやめろぉ!!」


 オーマイガは、初めて食べる料理のあまりの旨さに驚き、狂ったように平らげた。その間、ネル達はキレたアリシアに追いかけ回されるのだった。


【帰り際】

――店の外――



「ま、またいらしてくださいね♪」

「ああ。ご馳走さま。また来る」

「きっとだよ!!」


 アリシアやネル達に見送られ、オーマイガは店を後にする。


――“くっころ島”。思ってたよりいいかも。



 オーマイガは満足げに腹をさすりながら、“くっころ島”を後にするのだった。


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