第4話 『くっころ喫茶』
「私の敗けだ。好きにしろ」
オークの戦士オーマイガは、また一人女騎士を下した。
オーマイガは“くっころ”商会のネルと“ある取引”をしていた。
それは――
『――くっ、殺せ!』と言う女騎士を、ネルの管理する無人島に送れば、引き換えに報酬を渡す
というものだ。オーマイガは、またも襲いかかってきた女騎士を下した。今、女騎士は地面にへたり込み、『キッ!』と鋭くオーマイガをねめつけている。
まぁ、それはいい。いつものことだ。問題は――
◆
『私の敗けだ。好きにしろ』
(これは、ネルの言う“くっころ”なのか?)
よくわからない。でも、好きにしていいって言ってるし……。なので、オーマイガは――
「や、やめろぉ! 『好きにしろ』とは言ったが! ――確かに言ったが! まさか私を手ごめにする気か!? そんなこと、断じて――んむぅっ!!」
縄で縛ると女騎士はジタバタと暴れる。それにうるさい。オーマイガはうんざりしながらも、ネルからもらっていた猿ぐつわを女騎士にかませた。
「ん~っ! んん~っ!!」
女騎士は顔を真っ赤にし、涙目でこちらを睨んでくるが……どこか嬉しそう?
オーマイガは首を振る。自分もネルに感化されておかしくなっているのかもしれない。さっさと連れて行くとしよう。
オーマイガは身をよじって暴れる女騎士を肩に担ぎ、急ぎ引渡し場所の隠し入り江へと向かった。
◆
――隠し入り江――
「あ、オーマイガさん! イイ“くっころ”ですね!!」
「んん~~~っ!!」
入り江に着くと、そこで待機していたネルの商会の従業員――クルトンに女騎士を引き渡した。
見た所、ネルよりも幼い。12くらいだろうか。
だが、ネルと志を同じくしているためか、選別眼はたいしたものだった。
「“くっころ度”は……Aですね! おめでとうございます!」
「うん」
クルトンからAランクの報酬が入った皮袋を受け取った。
――そう。謎の“くっころ度”なるもので報酬が変わるのだ。どうやら今回は当たりだったようだ。『――くっ、殺せ!』と言わなくても評価は高かったりするからよくわからない。
「じゃ、僕はこれで」
「またヨロシク」
「――んんぅ~~~っ!!」
クルトンは女騎士を舟に乗せ、鼻歌を歌いながら漕ぎだした。うらめしそうに女騎士がこちらをにらんでいるが、――まぁ、向こうで取って食われる訳でもない。気にしないことにした。
そう。女騎士は、ネルの管理する無人島で――
オーマイガは、つい先日無人島にお呼ばれした時のことを思い出す。
◆
「い、いらっしゃいませ~。 ――くっ! どうして私がこんな真似を! 屈辱だ!!」
「ダメだってアリシア。もっと可愛く♪ ――はい、やり直し」
「――くっ! い、いらっしゃいませ~♪ こちらのお席にど~ぞ♪」
無人島にはログハウスが急造されていた。壁に掲げられた看板には――
『くっころ喫茶』
ネルの趣味全開の店名が記載されていた。そして、客第一号としてオーマイガがお呼ばれされたという訳だ。
店の中に入ると、見知った顔に出迎えられる。
――そう。オーマイガが初めて捕らえた女騎士だった。名はアリシアというらしい。
メイドドレスを着て、丈の短いスカートを恥ずかしそうに手で押さえている。顔は真っ赤で涙目だった。
「――ふぉぉ~~っ!!」
「ネ、ネルさん! ハンネスさんが鼻血を吹き出してます!」
「すぐに手当てを! ――ハンネス! 死ぬなっ!!」
「――これで死ぬなら、我が本望……っ!」
「「「ハンネスーっ!!」」」
オーマイガにはついて行けない世界だった。そうこうしている間にも――
「お、お食事はいかがいたしましょう?」
アリシアからメニューを渡された。色々あるが――
「オススメで頼む」
「オススメ、入りましったぁ~っ!!」
「「イェ~ッ!!」」
いつの間にか、ネルと従業員の子供二人――クルトンとユートが近くに来て、盛大に盛り上げている。
「オススメ、わかってるよね?」
「あ、あぁ。 ――でも、本当にやるのか?」
「当たり前だろ? ――それと、言葉遣い」
「は、はい~♪ お客様、しばらくお待ちください♪」
アリシアは店の奥へと引っ込んだ。
◆
【待つことしばし】
「お待たせしました♪」
料理の乗った皿が運ばれてきた。卵料理みたいだ。ふわとろな卵に食欲がそそられる。
オーマイガは早速食べ始めようとするが――
「待ったぁ!!」
ネルが急に待ったをかける。早く食べたいんだが……。
「アリシア。ケチャップ」
「は、はい! ――くっ! 屈辱だ……!!」
ネルが小声で何かをアリシアに言うと、恥じらいながらアリシアがトマトソースの入ったチューブを押して卵の上にかけていく。
その柄は――
ハートだった。意味がわからない……。オーマイガはネル達を見回すが――
「「「イェ~~ッ!!」」」
「――くっ! これでいいのだろう!? さぁ、食べるんだ!! あ~ん♪」
盛り上がるネル達をよそに、アリシアが料理をさじによそってこちらに差し出してくる。
「は、早く口を開けろ!!」
顔をゆでダコのように真っ赤にしたアリシアに言われるがまま、オーマイガは口を開けた。そこに差し込まれる料理。
さじが口から取り出されると、ゆっくり咀嚼した。
こ、これは――!!
「う、うまい!!」
「「「イェ~~~ッ!!」」」
「だ、だから恥ずかしいからそれをやめろぉ!!」
オーマイガは、初めて食べる料理のあまりの旨さに驚き、狂ったように平らげた。その間、ネル達はキレたアリシアに追いかけ回されるのだった。
◆
【帰り際】
――店の外――
「ま、またいらしてくださいね♪」
「ああ。ご馳走さま。また来る」
「きっとだよ!!」
アリシアやネル達に見送られ、オーマイガは店を後にする。
――“くっころ島”。思ってたよりいいかも。
オーマイガは満足げに腹をさすりながら、“くっころ島”を後にするのだった。
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