第48話 回顧 バイオレットとクラウディア③

 しばらくは平和な日々が続いた。


 クラウディアはこの田舎町での用を済ませると、ずっと私達と一緒に行動した。


 この時も私は見栄を張ってしまった。フェイとフローリカに冒険者組合で適当な依頼を受けてこさせ、それに雑に取り組んだ。


『ヴィオーラ様も冒険者になられたのですね!』

『二人のお手伝いみたいなものよ』

『それでも嬉しいのです! あなたと共に仕事に当たれるのが!』


 クラウディアは本当に嬉しそうだった。今更嘘ですなんて言える訳もなく、ただのごまかしで依頼を受けてこなす日々。


 宿に戻ってからも、エレナ達を可愛がることは控えた。これにはエレナ達からも不満が出た。


 クラウディアが席を外してる時に怒涛の勢いで不満をぶつけてくるのだ。


『お姉様! お姉様分が足りません! このままでは干からびてしまいます!!』

『こればかりはエレナに同意! 一体いつまで我慢すりゃいいんですか!?』

『お姉様に可愛がって欲しいです!』


『まぁまぁ。クラウディアもそのうち依頼に呼ばれて行くでしょ。一線級の冒険者なんだもの。組合が放っておくわけがないわ』


 なんとか三人をなだめたが、実際のところ、私もかなり限界が来ていた。



 半月後もクラウディアは私達と共に暮らしていた。私の性的欲求不満はピークに達し、見るとエレナ達も元気が無くなってきている――エレナの言う“お姉様分”とやらは実在しているのかもしれない――。


 シビレを切らした私は、遠回しながらクラウディアに聞いてみた。


『依頼の方は大丈夫なの? 組合から呼ばれない?』

『ああ、心配ご無用です。組合には、長期の休業申請を提出済みですので』

『――――――は?』


 たっぷり間をおいて出てきた言葉はそれだけだった。ポカンとしてしまう。クラウディアは嬉しそうに続ける。


『申請の受理には――まぁ少しばかりモメましたが、長年探していたヴィオーラ様と巡り会えたこの奇跡、無駄にはできませんから!』


 私ですら思わずドキンとさせられる素敵な笑顔を浮かべるクラウディア。


――だけど、この時私の我慢の堤防はあえなく破壊されてしまった。



 その夜。私はエレナ達三人を襲った。性的な意味で。クラウディアが一緒の部屋にいるのにも構わず。エレナ達は喜んで受け入れてくれた。


 情事の音に目を覚ますクラウディア。


『ヴィオーラ様!? な、何をしてらっしゃるのですか!!!!』


 部屋の明かりを付け、珍しく動揺してそう叫ぶクラウディア。私は、覚悟を決めて告げた。


『ごめんなさい、黙ってて。これが今の私。幻滅したでしょ?』

『幻滅とかそういう次元でなく! 女同士でそういう行為をするものではないでしょう!?』


 クラウディアに潔癖症なキライがあるのは最初からわかっていた。そうでなくても、同性愛なんてこの国ではアブノーマルだ。いや、もしかしたら世界中がかもしれない。


 だって、同性では子を成せないのだから婚姻が認められるはずもない。少なくともこの国では話にも挙がらない。


『――そうなったのは、ハロルド殿下に婚約を破棄されたからですか?』

『それもきっかけの一つだとは思うけど――愛してしまったのよ、彼女達を』

『お姉様……』


 エレナが嬉しそうに私の胸元に顔をうずめる。フェイとフローリカも寄ってきた。


『あ~! 面倒だ! いいじゃねぇか、あたしらが好きでやってんだからよ!!』

『ごめんなさいクラウディア様、隠してて……。でも、お姉様のことが好きなんです!』

『気に入らないならどっか行きなさいよ! お呼びじゃないのよ!!』


 フェイ達の鬱憤うっぷんが溜まりすぎていたのもマズかった。口々にクラウディアを攻め立てる。


 そして――


『わた、私は……やっと、ヴィオーラ様が見つかって、嬉しかったんです……!』

『…………ぁ』


 あの時のような――いや、あの時よりももっと辛そうに涙を流すクラウディアに私はかける言葉を持たなかった。


 また傷付けてしまった。いや、傷付けるとわかっていて、自分の欲求不満を処理できず、思うがままに行動した。


――あの時と何が違うと言うのだろうか。


『こんなの……こんなの、あんまりです!!』

『クラウディア!!』


 扉を勢いよく開くと、クラウディアは止める間もなく部屋を飛び出して行った。服を着て皆で探しに外に出た――不満げなエレナとフェイを説得して――けど、結局見つからなかった。


 それ以来、クラウディアとは会っていない。いや、会わないよう細心の注意を払って行動した。


(私はあの子を傷付けるだけ。邪魔にしかならない)


 エレナ達とも距離を置いた。人数が増える程隠れにくいのもあったが、エレナ達と寝ることに負い目を感じるようになってしまったのだ。


 もちろんエレナ達から不満は出たが、頻度を著しく下げて会うことで納得してもらった――エレナは私をひたすら追い続けていたみたいだけれど――。



 最近はその負い目も薄れてきつつあったところでクラウディアの名を聞き、当時のことを思い出してしまった。


 額に手を乗せ独り言ちる。


「ダメね、私は相変わらず」

「何かおっしゃいました? お姉様?」

「なんでもないわ。寝ましょ」


 もう寝付けそうにないが、無理にでもまぶたを閉じる。頭に浮かぶのはクラウディアのことばかりだった。

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