第49話 メルキドに ①

「だぁああらっしゃあっ!!」


 ロイツからメルキドへと向かう街道沿い。平原の真っ只中。


 上段に構えた大剣を、リーンは目の前のコボルトめがけ渾身の力で振り下ろす。コボルトが直剣の腹で受けとめようとするも、剣ごとへし折り致命傷を与えた。だが直ぐ様他のコボルトが襲いかかってきて交戦を開始する。


「はっ! やっ! とぉっ!!」


 その近くでは、テッドが別のコボルト相手にスタッフで応戦していた。神官とは言え、自衛方法は学んでいる。身の丈程度もあるスタッフをたくみに繰り出しコボルトをうち据えていく。


 遮蔽しゃへい物のあまりない平原では身を隠す場所がなく、遭遇したら正面切っての真っ向勝負になる。


 数の利を活かしコボルト達は四体で襲いかかってきたが、地力はリーンとテッドが圧倒していた。


「せいやぁっ!!」

「――――ゴァッ!?」


 コボルト達はみるみる数を減らし、最後の一体を今リーンが斬りふせた。


 ピクリとも動かなくなるコボルト達を尻目にテッドがリーンの元に歩み寄る。


「いやぁ、やっぱり南は危ないね。最寄りの集落にでも行って馬車に乗せてもらった方がいいんじゃない?」

「くどい! ――ほら、そんなことより戦利品と証拠の回収よ。あんたも手伝いなさい」


 リーンは倒したコボルト達の死体を漁っていく。


 コボルト達が持っていた錆びた剣などはたいした値打ちにならない。ポイと遠くに投げ捨てる。それよりも、コボルトが身につける金属のアクセサリーの方が金になる。中には貴金属で出来ているものもあり、当たりを引けばかなりの額になる。


 リーンはコボルトの鼻輪をブチッと引きちぎると、無造作に皮袋の中に投げ入れた。


 それを見たテッドは苦笑いだ。女の子のリーンの方が勇ましく物怖じしないのだから。


 テッドはコボルトの死体近くに屈むと瞑目する。額の前、手による六芒星をえがき死者を悼むと、物品の回収作業に移った。


 それを見たリーンがボソッとつぶやく。


「いつものことだけど、偽善ね。こいつらを殺したのは私達よ?」

「まぁ僕ら神官の習わしだとでも思ってよ。“命に感謝を”。僕達は彼らの犠牲の上に生きている、ってね」

「まぁいいけど。――ほら、その腕輪もよ? あと、耳の先を切り取って束ねて。組合に討伐の証拠として提出するから」

「はいはい。リーンはたくましいね」

「何よ? 冒険者なら当たり前でしょ?」

「いやぁ、冒険者でも女の子は普通、もうちょっとこう、『やだぁ~♪ 私できな~い♪』とか言って、汚れ仕事はパーティの男にやらせたりするもんだよ」

「バカ言ってんじゃないの。それこそ、命を奪う責任をないがしろにしてるわよ。私はそういうブリッ子は大嫌い」

「うん、わかってる。ごめんごめん」


 やがて戦利品の回収が済み、リーンは膨らんだ皮袋を背負うと立ち上がった。うーん!とノビをする。


 テッドも立ち上がり、やはり皮袋を背負いリーンの横に並んだ。ふと空を見上げると、分厚い雲が立ち込めていた。


「一雨来そうだよ? 今日はもう野営に移った方がいい」

「バカ言ってんじゃないの。雨がなんだってのよ。まだ日はあるんだからこのまま行くわよ」


 リーンがスタスタと歩き出す。


「――あっ。まったく、もう……」


(まぁ、ある程度は冒険しないと、か)


 保守的過ぎる自分の性格は自分が一番よくわかっている。リーンの言うことにも一理あると納得し、テッドは急ぎリーンの後を追った。

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