第2話 男の夢“くっころ島”はこうして生まれた

「オーマイガさん。ちょうどいいから、僕の無人島を今から見に来ませんか?」

「“くっころ島”だったか。わかった、行こう」


『くっ、殺せ!』と言う女騎士を捕らえたオークの戦士オーマイガは、とある人間の少年と取引を交わした。


 その少年は、怪しい組織――“くっころ商会”の会長でネルといった。最近購入した無人島に『くっ、殺せ!』と言う女騎士を送ると、報酬をくれるのだとか。


 オーマイガは怪しいと思いながらも少年と取引を結んだ。正直、倒した後いつも困っていたのだ。引き渡して報酬がもらえるならその方がいい。


 ただ、その無人島とやらで、女騎士を集めて一大軍事勢力を築かれても困る。何をしているのか、念のため確認しておきたかったので、少年の誘いは渡りに船だった。


『――んん~っ!!』


 持ち上げた女騎士の抵抗が激しい。縛った手足でジタバタ騒いでいる。口に猿ぐつわをかませているので大きな声で助けは呼べないが、急いだ方がいいだろう。


「こっちです」


 ネルの先導に従い、オーマイガは隠し入り江へと向かった。


――隠し入り江――



「さ、お早く!」


 ネルは入り江に舟を隠し持っていた。――小舟だが。手招きに従い、オーマイガも舟に乗り込んだ。かついでいる女騎士を脇に下ろす。


「じゃ、出発しんこ~っ!!♪」

「んん~~~っ!!」


 ご機嫌なネルが舟を漕ぎ、入り江を出る。女騎士のジタバタが最高潮になるが、沖に出ると諦めたのか静かになった。


 舟はしばらく進み――



「見えてきました! あそこです!!」

「思ってたよりも大きいな」

「ええ。高かったんですから! ローンが孫の代までありますよ! ――へへっ!!」


 ネルがイタズラ小僧のように笑う。なぜそこまで必死なのかはわからないが、オーマイガは素直に褒めておいた。


――“くっころ島”入り江――



「とうちゃ~っく!!♪」


 くっころ島にはまだ桟橋が無く、そのまま浜に乗り上げた。オーマイガは大人しくなった女騎士をかついで舟から降りる。


 辺りはまだほとんど人の手が加えられていない。まさに“これぞ無人島”といった感じだ。


 ネルも舟から降りて指笛を吹いた。


――ピィ~~~ッ!


 すると――



「おお! ネル、帰ってきたか! ――げぇっ! オーク!!」

「ハンネスただいま~♪ 見てよコレ!」


 ネルがオーマイガにかつがれた女騎士を指差した。すると、途端にハンネスの表情が変わる。


「お、女騎士だ! みんなぁ~っ!! オークと女騎士がセットで来たぞぉ~っ!!」


 ハンネスが突然大声で島内地に向けて叫びだした。オーマイガは訳が分からない。だが――



「ほんとだ!! “くっころ”だ!!」

「しかもオークとセットだ!!」

「流石ネル! よくやったぞ~!!♪」


 男の子二人とおじさん一人が島の奥から飛び出してきた。よく見たらコテージがあった。人の住める空間は用意してあるようだ。


 オーマイガは女騎士をかついだままコテージへと連れていかれた。



「何なんですか、あなた達は!!」

「「「「お願いします! ここで働いてください!!」」」」


 女騎士を床に下ろして猿ぐつわを取ると第一声がそれで、それに対するコテージの住人の反応は土下座でのお願いだった。


 オーマイガは状況が分からずドギマギする。


「まぁまぁ。君だって『くっ、殺せ!』って言ってたじゃない。それってつまり、好きにしていいってことでしょ?」


 ネルは土下座せずにそのまま女騎士に話しかけていた。


「そ、それはそうだが。その……そう! そこのオークに対して言ったのだ! お前にではない!」


 女騎士は『ふふん!』と得意げだ。だが――


「じゃあ、オーマイガさんの言うことには従うんだね? ――オーマイガさん、どうしよっか?」

「オレは報酬が貰えればいい。後は好きにしろ」

「えぇ!? 私よりお金!?」


 女騎士が『ガーン!』という感じでショックを受けているが、知ったこっちゃない。オーマイガはネルから皮袋を受け止った。


「300ゴールドね」

「そんなに!? ――いいのか?」

「もしもーし。ほんとにいいの~? そんなはした金より、絶対私の方がお得よ~?♪」


 何かうるさいメスがいるが気にしない。オーマイガはご機嫌で皮袋を受け止った。


「またご贔屓に~♪ ――あ、向こうまで送りますよ」

「助かる」

「ねぇ、聞いてる? 泣くわよ? 本気で泣くわよ?」


 何だか少し女騎士が憐れになったので、一応、ネルに聞いておいた。


「このメス、どうするんだ?」

「言っただろ? 働かせるんだ! ここを“くっころ”女騎士の集まる島にして、カフェや闘技場、エステ、飲み屋、とかとか! 男の夢が詰まったパラダイスにするんだよ!! くっころが好きそうな人を島に招待してさ!!」


 ネルが興奮に頬を赤らめ熱弁してくる。オーマイガは「そ、そうか」と返したきり、深掘りをやめた。


 女騎士も別に殺される訳じゃないみたいだし、そんなに後味は悪くない。


「開店したら真っ先に招待するね!! もちろん、特別料金で!!」

「わ、わかった……」


 ネルの勢いに気圧されつつもオーマイガはうなずく。


「でもまだまだ足りない! もっとも~っとたくさん捕まえて来てよ!!」

「報酬が出るなら頑張るかな」


 ネルとオーマイガは固く握手を交わす。



 こうして、男の夢を叶えるための島――“くっころ島”がスタートしたのだった。やがて、国家をも巻き込む事態に発展するとは、この時のオーマイガ達には知る由もなかった。


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