第2話 男の夢“くっころ島”はこうして生まれた
「オーマイガさん。ちょうどいいから、僕の無人島を今から見に来ませんか?」
「“くっころ島”だったか。わかった、行こう」
『くっ、殺せ!』と言う女騎士を捕らえたオークの戦士オーマイガは、とある人間の少年と取引を交わした。
その少年は、怪しい組織――“くっころ商会”の会長でネルといった。最近購入した無人島に『くっ、殺せ!』と言う女騎士を送ると、報酬をくれるのだとか。
オーマイガは怪しいと思いながらも少年と取引を結んだ。正直、倒した後いつも困っていたのだ。引き渡して報酬がもらえるならその方がいい。
ただ、その無人島とやらで、女騎士を集めて一大軍事勢力を築かれても困る。何をしているのか、念のため確認しておきたかったので、少年の誘いは渡りに船だった。
『――んん~っ!!』
持ち上げた女騎士の抵抗が激しい。縛った手足でジタバタ騒いでいる。口に猿ぐつわをかませているので大きな声で助けは呼べないが、急いだ方がいいだろう。
「こっちです」
ネルの先導に従い、オーマイガは隠し入り江へと向かった。
◆
――隠し入り江――
「さ、お早く!」
ネルは入り江に舟を隠し持っていた。――小舟だが。手招きに従い、オーマイガも舟に乗り込んだ。かついでいる女騎士を脇に下ろす。
「じゃ、出発しんこ~っ!!♪」
「んん~~~っ!!」
ご機嫌なネルが舟を漕ぎ、入り江を出る。女騎士のジタバタが最高潮になるが、沖に出ると諦めたのか静かになった。
舟はしばらく進み――
「見えてきました! あそこです!!」
「思ってたよりも大きいな」
「ええ。高かったんですから! ローンが孫の代までありますよ! ――へへっ!!」
ネルがイタズラ小僧のように笑う。なぜそこまで必死なのかはわからないが、オーマイガは素直に褒めておいた。
◆
――“くっころ島”入り江――
「とうちゃ~っく!!♪」
くっころ島にはまだ桟橋が無く、そのまま浜に乗り上げた。オーマイガは大人しくなった女騎士をかついで舟から降りる。
辺りはまだほとんど人の手が加えられていない。まさに“これぞ無人島”といった感じだ。
ネルも舟から降りて指笛を吹いた。
――ピィ~~~ッ!
すると――
「おお! ネル、帰ってきたか! ――げぇっ! オーク!!」
「ハンネスただいま~♪ 見てよコレ!」
ネルがオーマイガにかつがれた女騎士を指差した。すると、途端にハンネスの表情が変わる。
「お、女騎士だ! みんなぁ~っ!! オークと女騎士がセットで来たぞぉ~っ!!」
ハンネスが突然大声で島内地に向けて叫びだした。オーマイガは訳が分からない。だが――
「ほんとだ!! “くっころ”だ!!」
「しかもオークとセットだ!!」
「流石ネル! よくやったぞ~!!♪」
男の子二人とおじさん一人が島の奥から飛び出してきた。よく見たらコテージがあった。人の住める空間は用意してあるようだ。
オーマイガは女騎士をかついだままコテージへと連れていかれた。
◆
「何なんですか、あなた達は!!」
「「「「お願いします! ここで働いてください!!」」」」
女騎士を床に下ろして猿ぐつわを取ると第一声がそれで、それに対するコテージの住人の反応は土下座でのお願いだった。
オーマイガは状況が分からずドギマギする。
「まぁまぁ。君だって『くっ、殺せ!』って言ってたじゃない。それってつまり、好きにしていいってことでしょ?」
ネルは土下座せずにそのまま女騎士に話しかけていた。
「そ、それはそうだが。その……そう! そこのオークに対して言ったのだ! お前にではない!」
女騎士は『ふふん!』と得意げだ。だが――
「じゃあ、オーマイガさんの言うことには従うんだね? ――オーマイガさん、どうしよっか?」
「オレは報酬が貰えればいい。後は好きにしろ」
「えぇ!? 私よりお金!?」
女騎士が『ガーン!』という感じでショックを受けているが、知ったこっちゃない。オーマイガはネルから皮袋を受け止った。
「300ゴールドね」
「そんなに!? ――いいのか?」
「もしもーし。ほんとにいいの~? そんなはした金より、絶対私の方がお得よ~?♪」
何かうるさいメスがいるが気にしない。オーマイガはご機嫌で皮袋を受け止った。
「またご贔屓に~♪ ――あ、向こうまで送りますよ」
「助かる」
「ねぇ、聞いてる? 泣くわよ? 本気で泣くわよ?」
何だか少し女騎士が憐れになったので、一応、ネルに聞いておいた。
「このメス、どうするんだ?」
「言っただろ? 働かせるんだ! ここを“くっころ”女騎士の集まる島にして、カフェや闘技場、エステ、飲み屋、とかとか! 男の夢が詰まったパラダイスにするんだよ!! くっころが好きそうな人を島に招待してさ!!」
ネルが興奮に頬を赤らめ熱弁してくる。オーマイガは「そ、そうか」と返したきり、深掘りをやめた。
女騎士も別に殺される訳じゃないみたいだし、そんなに後味は悪くない。
「開店したら真っ先に招待するね!! もちろん、特別料金で!!」
「わ、わかった……」
ネルの勢いに気圧されつつもオーマイガはうなずく。
「でもまだまだ足りない! もっとも~っとたくさん捕まえて来てよ!!」
「報酬が出るなら頑張るかな」
ネルとオーマイガは固く握手を交わす。
こうして、男の夢を叶えるための島――“くっころ島”がスタートしたのだった。やがて、国家をも巻き込む事態に発展するとは、この時のオーマイガ達には知る由もなかった。
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