第22話 セクハラ
――くっころ喫茶――
ネルが他のテーブルを見に行っている時、奥のテーブルではアリシアがバイオレットとホセの相手をしていた。
「いいわぁ~、あなた、さすがはネルのお気に入りだけのことはあるわね」
「えと……その、別にお気に入りってわけじゃ」
「そう? 私とホセの相手を任されてるんだもの。自分で言うのもなんだけど、大変だから。信頼してなきゃ任せられないわ」
注文した“おいしくな~れ杏仁豆腐”をアリシアにあ~んされながら食しているバイオレットはご満悦だった。ほおは赤く染まり、無駄にかもしだす妖艶さはバイオレットが持つ美貌もあいまりアリシアをせめたてる。
(もう~! なんなのよこの人~!!)
アリシア、心の中ではすでになみだ目だ。特に女を恋愛対象にはしていないアリシアにとって、バイオレットからあびせられるねっとりとした視線は薄気味悪くすらあり、背筋がゾクゾクする。わけがわからないながらも自分の中で危険信号アラームがピコピコ鳴っており、出来れば今すぐにでもこの場を離れたい。
だが今は接客中。それにバイオレットが目の前の獲物を逃がすわけもない。
バイオレットはアリシアの左腕をさすさすしながら猫なで声で言う。
「そう警戒しないで? ――今晩、どう?」
「ど、どうって……」
「やだぁ、わかってるんでしょ? ――めくるめく快楽を約束するわよ?」
(ネル~~~~ッ!!)
アリシア、心の中で絶叫する。さりげなく横目でネルを探すと、他のテーブルをみてまわっている。向こうは談笑すら起きてる程でうらやましさを通り越して憎らしさすら感じる。
「おい、俺もいるのを忘れてないか? ――そっちの嬢ちゃん! 酒でも注いでくれや!」
目の前で繰り広げられるバイオレットとアリシアのイチャイチャ――アリシアからしたら誤解はなはだしいが――にいらだったホセが、少し離れたところで手持ちぶさたにしているメイド――シルヴィアを呼びつけた。
シルヴィアはうなずき静かにテーブルに近付くと、ホセの要望通り酒ビンを傾けホセが手にもつコップにトクトクと酒を注ぐ。だがすぐ近くで繰り広げられているアリシアとバイオレットのやり取りが気になるのか、そちらをチラチラと見ていた。
ホセは酒を一気に飲み干すと、あらためてシルヴィアをマジマジと見回した。
「へ~、お前さん、美人だねぇ。こりゃ高く売れそうだ」
「…………」
どう返していいかわからず黙り込むシルヴィア。バイオレットのものとは違う嫌らしい値踏みの視線に嫌悪感を覚える。だが、表情には出さない。
酒のまわっているホセはシルヴィアに手をのばした。その瞬間、店の奥からガタッと音が鳴り響き一瞬ホセは手を止めるが、何もないとわかるとシルヴィアの手をつかんだ。
「綺麗な手だ。どこぞのお嬢様だったのかい?」
「…………っ!」
酒くさい男に手のひらをさわられる感覚に鳥肌がたつ程嫌悪を感じるシルヴィア。手を引っ込めようとするも、ホセが両手でがっちりつかんで離さない。
助けを求めようにも、アリシアもバイオレットにつかまっている。そうこうしているうちに、ホセの要求がついに一線を越えた。
「お嬢ちゃん、うちにこないかい? お嬢ちゃんならこんなとこにいるよりたくさん稼げるぜ? ちょっとおじさん達を気持ちよくするだけで――」
「――――やめてくださいっ!!」
シルヴィアの手を取り自分の股間に導こうとしたホセの態度についにシルヴィアの我慢が限界を迎える。
そして――
「オーク!?」
「なんでこんなところに!?」
「――そのメスから離れろっ!!」
シルヴィアの悲鳴に我慢ならず、オーマイガが控え室から飛び出してくるのだった。
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