第29話 シルヴィア捜索依頼

――エーゼルハイム侯爵屋敷――


 エーゼルハイム侯爵屋敷の大広間に集められた大勢の冒険者達。行方不明となった愛娘を探してくれとの依頼内容に場が騒然とする。


 侯爵の脇に立つ騎士が槍の柄を床にトントンと二回ついた。


「静粛に! 皆様方、どうかご静粛に! ――侯爵閣下」

「うむ」


 場が静かになると同時、侯爵が話を再開する。


「まずは我が愛娘の肖像画を見てくれ!!」


 侯爵は真面目な顔でそれだけ言うと、騎士達が背後にかざられているカーテンに歩み寄る。


「なんなわけ……?」

「さぁ?」


 訝しむリーンとほおをかくテッド。そうこうしているうちに、カーテンが左右に開かれた。


 そこから現れるのは、とある銀髪少女の巨大な肖像画。


「我が愛娘! シルヴィア・フォン・エーゼルハイムの肖像画である!! みよ、この神々しさ! もはや神――」

「侯爵閣下。続きを」

「むぅ……。この子を見つけ出してくれ! 無事に家に返してくれ! 頼む! 報酬は、成功時に限り2000ゴールド出そう!!」


 侯爵から伝えられる報酬額に場が色めき立った。


「2000!? 2000って言ったか!?」

「マジか。さすがに……なぁ?」

「いや、でも侯爵だぞ? 嘘はつかんだろ」


 興奮に包まれているが、疑心暗鬼な者も多い。報酬が破格過ぎるのだ。


 ちなみに――


 この国では、1ゴールドは100シルバー、1シルバーは100カパーとして成り立っている。


 金銭感覚についてだが、この都市のような大都会でサービス、治安の良い宿屋の一泊の代金が、朝昼夜の三食付きで1日あたり1ゴールド。飯どころでの一食が10シルバー。リーンがチェックしていた出店の串肉が一本2シルバーだ。田舎暮らしだったり自炊だともっと費用は安くなる。


 つまり2000ゴールドというのは、大都会の格式の高い宿屋住まいで2000日遊び倒せるだけの巨額報酬だということだ。


「うっそ……!」

「いやはや、お金ってあるとこにはあるんだねぇ」


 リーンとテッドも驚きだ。リーン達の田舎だと、1ゴールドあれば家族単位で3日は暮らせる。もちろん、持ち家で自炊前提ではあるが。それが2000倍。途方もない額だろう。


 それだけの金額をポンと出せるなら、私兵の騎士達に捜索させればいいものだが……。同じことを思ったのだろう。前の方の冒険者が大きな声で尋ねた。


「いくらなんでも割が良すぎる! お抱えしてる騎士に探させないのはどういうこと……ですか!?」


 無理矢理敬語にしたようで最後の方はぎこちない。侯爵が答えた。


「うむ! もちろん騎士達にも探させてはいる! だが如何せん捜索域が広すぎるのと、折悪く西の蛮族共がこのところ活発化しているので砦の防備を厚くしておるのだ。要は、手が足らないのでそなた達冒険者の力を借りたい」


 なるほどとリーンはふにおちた。この国の西はトロールの国と接しており、トロール達は度々この国に侵攻をしかけている。そして長年このエーゼルハイム領が食い止めているのだ。トロールの襲撃タイミングは不規則だが一度始まると長引くため、兵備の常駐を余儀なくされる。


 街道の整備と魔獣の駆除が不十分だったこと、自分達のような冒険者が集められたのにはキチンと理由があったというわけだ。


(移動に融通のきく冒険者が適任ってことね)


 他の冒険者達も一応は納得したようだ。


「そもそもなぜ愛娘が行方不明になったかだが――」


 侯爵の説明は続いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る