第31話 エレナ登場

 ネルが急ぎくっころ喫茶を出ると、辺りはもうすっかり暗くなっていた。クルトンの悲鳴がした海岸にかけつける。


(クルトン、無事でいてくれ……!)


――海岸――



「クルトン! そこを代われっ!!」

「ふほほほほ~~~い!!!!♪」


 ネルが海岸に着いた時には既に先客がいた。ジャックである。血涙を流しそうな程の嫉妬を隠そうともせず、何事かを叫んでいる。


 それに答えるはクルトンその人。今までネルが聞いたこともないような幸せそうな声音だ。捕まった云々じゃないのだろうか……?


 暗くてよくわからないが、ネルは目をこらして見てみた。すると――



「ヴィオーラお姉様を出しなさい! 今すぐ! 隠すとこいつがどうなっても知らないわよ!?」


 黒いブラジャーにショーツ、そしてストッキングをガーターベルトでとめた赤髪ツインテールの痴女が、クルトンを背後から羽交い締めにし、首に剣を突きつけていた。


 ネルは叫ぶ。


「クルトンふざけるなよ!? そこを代われ!!」


 今日一番の殺意を感じた瞬間であった。



「あら、エレナじゃない」

「お姉様!? お姉様~~~!!!!♪」


 エレナと呼ばれた痴女は、ネルの背後から現れたバイオレットを見つけると、クルトンなど瞬時に放り出して駆け出した。


 砂浜をダッシュしてバイオレットの胸元に飛び込んだ。バイオレットの金属鎧に勢いよくぶつかる。


「――かたっ! お姉様、お会いしたかったです~!!♪」

「ちょうどあなた達を呼ぼうと思ってたの、どうしてここに?」

「お姉様を町で偶然お見かけして後を追いかけたのですが途中で見失ってしまいまして、そしたらこの小童こわっぱが舟で向こう岸に向かうのを見てもしやと思い追いかけてきたんです!」

「追いかけて来たって……そう言えば、あなた鎧は?」


 バイオレットは今さらながら、エレナがなぜ下着姿なのかを問いただす。対するエレナの答えは簡潔だ。


「泳ぐのに邪魔なので脱いで来ました!!」



 その後、アリシア達も到着。下着姿でバイオレットに抱き付くエレナを見て一言。


「うわ……」


 ドン引きだ。それは仕方の無い反応だったとネルは思う。だが、エレナは気に入らなかったようだ。ピクリと反応し、アリシアを睨み付けた。


「お姉様。誰ですかこの貧乳は」

「ひ――」


 アリシアは決して貧乳と呼ばれる程小さくはない。だが、エレナがデカイのだ。サラ程ではないが。


「アリシアよ。中々いいでしょ? 彼女もいずれは――」

「ダメですお姉様。あの女にはお姉様への忠誠心が欠けてますわ。それに、ペチャパイですし」

「ペチャパ――――!?」


 アリシアの頭の血管がブチ切れた音を聞いた気がする。ネルは急ぎ間に入った。


「まぁまぁ。エレナ――さんだっけ? バイオレットのお仲間みたいだし、泳いで来たんなら疲れたでしょ? 宿を用意するから今日はもう休みなよ」

「お姉様との愛の巣を所望しますわ」

「あらあら♪ ふふっ……なら全力で可愛がっちゃおうかしら♪」

「あん♪ お姉様……」


 ピンク色空間に当てられすぎて満腹気味だ。ネルはアリシア達をコテージ(女)に向かわせ、バイオレットとエレナには、臨時でくっころ喫茶の控え室を貸し出した。


 ハンネスは夕食を作ると申し出たのだが、エレナが自分で作ると言うので、ネル達共々コテージ(男)に引き上げた。


 夜中、クルトンとジャックがコテージを抜けてバイオレット達の様子を見に行こうとしたので、ネルは二人が殺されないよう引きとめるのに苦労するのだった。

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