第17話 ホセ
――メルキドの町・ビルの酒屋――
部屋の中は異様な空気に包まれていた。テーブルが3つあり、中央のテーブルに先の女性――バイオレットと身なりがよく眼光鋭い中年男性が向かい合うように座っている。テーブルには酒のビンとつまみがわんさかと置いてあり、そのどれもが高そうなモノばかりだ。
残り2つのテーブルには二人ずつ男が座っていた。ネルの呼んだくっころ島への招待客だ。居心地悪そうに縮こまっている。中央のテーブルと同じく酒とつまみはあるが、比較すると明らかにランクは落ちる。
彼らが居心地悪いのはまず間違いなく中央のテーブルにいる二人だろう。ネルは心中で小さくため息をついた。
その片方――バイオレットの向かいに座る男が笑顔でネルに声をかけてきた。
「よう大将! お邪魔してるぜ」
「やぁホセ。なんでここに……とは聞くだけ無駄だね。どこで知ったの?」
「なんだなんだ。俺がいちゃマズイってのか?」
「今回に限ってはね。大事なうちの子達のデビュー戦だからさ」
そうなのだ。アリシア達に自信をつけてもらうため、招待客は大人しめの人達に厳選していた。それが――
ネルはジト目でホセを見る。
――豪商ホセ。
ネルなど比較にならぬ程の財力を持ち、様々な商品を取り扱う。奴隷売買にまで手を出しており、儲けのためなら手段を選ばないふしがある。
ひょんなことでホセと知り合ったネルだが、くっころをさらいはすれど売る気は無いネルからしたら、商売の方向性が違う。
ネルはアリシア達を太った貴族の
だが、ホセの不興を買うのはマズイ。いざとなったら全力で戦うまでだが、商人の世界において相手はネルくらい簡単にひねりつぶせるくらいの大物なのだ。
そんなネルの警戒を読み取ったのだろう。ホセは鼻で笑うと手をヒラヒラと振る。
「誤解だ誤解。俺はお前の大事なモンを無理矢理商売にする気はねぇよ。お前が夢中になる……くっころ?ってのがどんなもんかこの目で見たくなっただけだ」
「私もね。無理矢理てごめにする気は無いわよ? もちろん、その子達次第ではそういう流れになっちゃうかもしれないけど。その時は許してちょうだい」
バイオレットまで話に入ってきて言う。バイオレットは自分でにおわせている通り同性愛者だ。しかもその対象はくっころ女騎士に向いている。ネルと趣味嗜好が似ているのだ。
バイオレットはくっころ女騎士に自ら戦いを挑み打ち負かし征服する。そして、お気に入りの子は持ち帰りてごめにしていた。
辻斬のように町中ではやらないが、外では神出鬼没。その上、剣の腕がすこぶる立つためまず負けない。魔族よりも余程タチが悪く冒険者に広くおそれられていた。
ネルは過去、バイオレットが女騎士を打ち負かす現場にたまたま立ち会ってしまい、流れで剣を交えた。――そして、その圧倒的な技量に歯が立たず完膚なきまでに負けた。
だがバイオレットはネルが気に入ったようで、性的には対象外であるもののネルの目指す商売には並々ならぬ興味を抱いていたのだ。
ホセとバイオレット。あまりに危険な二人だが、怒らせるとすこぶる危険。危険極まりない。
ネルは隠しもせずため息をつくと、他のテーブルに座っている皆も含めて見回して言う。
「わかった。ここにいるみんなで行こう。ただお願いだから、メイド達に手は出さないでくれよ? 彼女達の記念すべき初陣なんだから、楽しんでもらいたいんだ」
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