第46話 夜中

 目を覚ますと、辺りは暗かった。柔らかいベッドに仰向けで見慣れぬ天井を見つめる。すると、左隣から声をかけられた。


「お姉様、うなされてましたわ。またあの女の名前をつぶやいて……」


 エレナだった。ムスッとしている。唇を尖らせながら不満げに言うのがとても愛らしい。


――そうだ。ここはネルの島、くっころ島の店の控え室だ。


 右を見ると、別のベッドでフェイとフローリカがスヤスヤと気持ちよさそうに寝ている。――だんだんと思い出してきた。


 ベッドが小さいので誰が私と寝るかでモメにモメた。結果、毎日の交代制――私達用の家とキングサイズベッドが用意されるまでだが――で寝ることになった。今日はエレナの番。 


 だが、その順番もモメた。



『ふざけんな! てめぇは昨日までヴィオーラ様と一緒に寝てたんだろうが!』

『ふん! 来るのが遅いのが悪いのよ! わ・た・しが一番早くお姉様の元に駆け付けたんだから当たり前よ!!』

『うぅ~……エレナちゃん、傲慢ごうまん

『フローリカも言うようになったわね……! 何よ、やる気!?』


 一触即発の気配。


『はいはい、喧嘩しない。喧嘩する子とは一緒に寝てあげないわよ?』


『いい子にしますわ!』

『しゃーねぇ……ヴィオーラ様! 明日! 明日だからな!?』

『うぅ……お姉様を困らせたくないので我慢します……』


 私が仲裁に入ると三人は途端に大人しくなり、それが可愛らしくてたまらなかった。



 エレナが私の胸元に顔をうずめてくる。とても幸せそうな顔だ。それが愛おしく頭を優しくなでる。


「あんな女、お姉様には不要ですわ。私達の愛の営みは誰にも否定させません」


 エレナの言うあの女――クラウディアとは、エレナ達三人とも面識がある。


 それもそのはず、私達は半年程前に偶然田舎町でクラウディアに見つかり、しばらく一緒に暮らしたのだから。

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