第45話 回顧 バイオレットとクラウディア①

『なぜですかヴィオーラ様! 近衛をお辞めになるなどと!』


 窓から夕陽さす兵舍廊下。一人の女騎士が柳眉を逆立て詰め寄ってくる。青みがかった銀髪、アイスブルーの瞳。


 普段は冷静沈着、クールという形容がピッタリくるクラウディアがこれ程感情を荒立てているのは初めて見る。


『わかってて言っているならイジワルね? 近衛に、王国にもう私は必要無いのよ。――いえ、最初から必要無かったのかもね』


 思わず自嘲の笑みが出てしまう。心底自己嫌悪する。だけど、クラウディアは納得しない。さらに畳み掛けてくる。


『あの女に一度負けたくらいでなんだと言うのです! 婚約を解消されたくらいでなんだと言うのです! 私は――いえ、私達はあなたの忠勤をずっと見て来ました! あなたが己を否定する必要は断じて無い!!』


 まっすぐな視線を向けてくる。それに目を合わせていられず、私は窓の外に目を向けた。夕陽が色鮮やかだが、それに寂しさを感じてしまう。


 クラウディアは続ける。


『ラインハルト様のみでなく、ヴィオーラ様までいなくなられては、近衛は――いえ、この国の騎士はもう……!』


 無責任なことをしている自覚はある。だけど、この子に言っておかなければならないことがある。クラウディアに視線を戻して口を開く。自分でも驚く程おだやかな声が出た。


『あなたがいるわ。私と彼の愛弟子だもの、私達の剣はあなたの中に生きてる』

『まだ私は未熟です! まだまだあなたに教えてもらいたいことが山程あります! 私は――私はあなたに憧れて近衛に入ったのです! そんな寂しいことを言わないでください!!』


 クラウディアの目の端から大粒の雫がボロボロとこぼれ落ちる。私は懐からハンカチを取り出し、クラウディアの目元に当てた。クラウディアはされるがままだった。だが、一瞬たりとも私から視線は外さない。


『ごめんなさいね? もう、疲れちゃったのよ……。あと、あなたが気負ってしまうことを言ってごめんなさい。あなたの人生だもの。あなたも好きに――』


 全く引き下がらないクラウディアに困り果て、今まで弟子の前では見せないよう意識してきた弱音をつい吐いてしまった。


 クラウディアは意を決したようにキッとまなじりを決すると、私を見据えて言った。


『なら私も近衛を辞めます! 私は、私なりに人々のため、家族のため、そして何より自分のために剣の道を極めます!!』

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