第33話 第1回くっころ会議 ①シルヴィア御嬢様防衛対応

――くっころ喫茶――


『議題①シルヴィア御嬢様防衛対応』



「まず確認だ。バイオレット、君はどうしてシルヴィアがエーゼルハイム侯爵家の人間だとすぐにわかったの?」

「そんなの簡単よ。過去に会ってたもの」

「侯爵家のご令嬢に? 四騎士つながりかい?」

「そうじゃないわ。元貴族だからね、私も。ハウゼンの侯爵家屋敷で催されたパーティにお呼ばれしたのよ。もう十年以上前のことだったかしら」


 バイオレットが頬杖ほおづえをつきながらなんてことのないように言う。ネル達としては初耳だ。――シルヴィアとエレナをのぞいて。


「……ヴィオーラ様はヘルマンダイン伯爵家」

「そうよ! お姉様は偉いんだから!」

「エレナ、あなただって元貴族でしょう……? バーンシュタイン子爵家じゃない」

「あのクソ貴族の一員にされたのこそが不名誉ですわ!」


 バイオレットがエレナにツッコミを入れるとまた場がざわつき出す。


「え? こいつが貴族? ――ってか、バーンシュタイン……バーンシュタイン……どこかで聞いたことがあるような……」

「ふわぁ……お嬢様ばかり」

「いや、なんでそんなお偉方がこんなとこにいんだよ?」

「ほんと、この国大丈夫なのかしら?」


 アリシア達平民からしたら、貴族とこんな近い距離で接すること自体あまりない。若干引いてしまうのも無理はないだろう。


 今まで静かにしていたオーマイガが口を開く。


「よくわからん。そいつらもエライのか?」


 話の流れについて行けていないのだろう。無理もない。


「オーマイガさんは魔族だし知らなくて当たり前だよ。ざっくり説明すると、僕達みたいな平民をたくさん養ってる長の家系ってこと。シルヴィアの家が特に力を持ってるんだけど、バイオレットやエレナの家もスゴいよって話してるんだ」


 ネルの説明になるほどとうなずくオーマイガ。


「でもまぁ、西の大貴族の御令嬢の顔を知ってるのなんてこの辺りにはそうそういないでしょ、バイオレットは例外として。当面は心配ないかな?」

「そうでもないわよ。エーゼルハイムのお屋敷にはね、この子のでっかい肖像画が飾られてるの。パーティの広間に飾ってたからそうとう有名よ」

「……恥ずかしい。お父様のバカ」


 本当に恥ずかしいのだろう。珍しくシルヴィアが羞恥に顔を赤く染めている。


「そ、そうか。じゃあやっぱりテコ入れはいるね。シルヴィア、君はどんな経路でここに来たんだい? ――ハンネス」

「少々お待ちを」


 ハンネスが大きな地図を持ってきて皆に見えるよう黒板の端にはった。リ・シュヴァリエ王国の地図だった。


「うわ……スゴ」

「こんな詳細な地図、初めて見ました」


 アリシアとエミリーが驚くのも無理はない。この地図はネル達が各地を旅して作り上げた一品ものなのだから。地形や都市など、市販されているものとは比較にならぬ程詳細に書き込まれていた。


 シルヴィアが地図に歩みより指でさす。そして自分の経路をなぞった。


「……ここから、こう……こう」

「なるほど。追ってをまいたのはどこで?」

「……ロイツ」

「ふむふむ。かなり早い段階でまいたんだね。ちなみに、顔は隠さず鎧姿でメルキドの町に?」

「……ローブで姿を隠してた。顔も」

「でもうちに来た時は着てなかったよね?」

「……オーマイガさんと闘う前に脱ぎ捨てた」


 闘う前に脱ぎ捨てる理由はよくわからないが、直前までローブを着ていたのなら身バレはしていないかもしれない。だが、予防線ははっておいた方がいいだろう。


「――クルトン、ユート。君達はあどけない子供のふりをしてメルキドの町に潜入。情報収集と必要に応じて噂を流すんだ。『銀髪の可愛い女騎士がカーマイン辺境伯領に向かって行った』ってね」

「「ラジャーッ!!」」

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