第13話 くっころ喫茶 練習④シルヴィア

――くっころ喫茶――


 大トリのシルヴィア。天然お嬢様っぷりも相まってか、積極性からして違う。


「……さっきの可愛いの、着けてみたい」


『おお!?』と皆が震撼した。男性陣は歓喜に震え、女性陣は『なんておそろしい子!?』とでも言うように戦慄せんりつした。


「バニースーツ!? よろこんで!! サイズ合うのを今持って――」

「……ネコさんの耳としっぽ。ウサギさんのも可愛いけど……」


 クルトン、凹む。いや、クルトンだって猫耳カチューシャと猫しっぽをメイドに付加する魅力はわかっている。伊達にネルの一番弟子を自認してはいない。でも、バニースーツを着てほしかったのだ、ぶっちゃけ。


 でも乗り気なシルヴィアに水を差したくはない。直ぐ様弟のユートに指示を出した。


「ユート。ネコさんセット、シルヴィアサイズを至急」

「任せて!」


 ユートはウキウキで男性用控え室にかけこんだ。そして、一分足らずで出てきた。シルヴィア用の猫耳カチューシャとしっぽを持って。


「はい! シルヴィアさん! きっと似合うよ!」

「……ありがとう。着けるね」


 ユートからブツを受け取り、せっせと装着を開始するシルヴィア。


 オーマイガは目が離せなかった。ほれたメスが目の前でおめかしをしている。今この瞬間、さらに魅力を高めようと――新たな領域に自ら足を踏み入れようとしている。


 シルヴィアはネコの耳としっぽを装着した。そしてのたまう。


「……どう? 似合う、かな?」


 恥じらいながら、それでいて少し自信ありげなシルヴィアの初々しさに撃沈するオーマイガ。


「――――ごはぁっ!?」

「「「オーマイガさん!?」」」


 案の定、椅子に座ったままぶっ倒れるオーマイガ。後ろ向きに倒れ床に後頭部を強打する。ネル、クルトン、ユートの悲鳴がこだました。


 だが、今気を失う訳にはいかない。オーマイガはなんとか意識をとりとめ、椅子を直し座り直した。視界の端には、幸せそうな表情で気を失っているハンネスがうつる。


(オレが今ここで倒れたら、このメスの接客相手がオレ以外になってしまう……!!)


 責任感とも違う、お気に入りのメスを占有したい欲がオーマイガを奮い立たせた。


 感動を隠せず嬉しそうなネルとクルトン。


「――へへっ! それでこそオーマイガさんだ!」

「そうだね……。ナイス性欲!」


 クルトンが何やらよくわからないことを口走るが、瀕死のオーマイガにそんなことを気にする余裕はない。


「……ご主人様。ご注文をどうぞ」

「う、うん。――オマエが欲し……チガ! ――――この、パフェというのを頼む」

「……かしこまりました」


 思わず出かけた本音を自制心でなんとか抑え込み注文を済ませるオーマイガ。やがて、パフェが運ばれてきた。


 シルヴィアがパフェをトレイにのせてオーマイガの元に向かう途中、何やらネルがシルヴィアに耳打ちしていた。


 思わずオーマイガが席を立とうとするが、ネルは片目でウィンクしてシルヴィアから離れ事なきを得る。


 シルヴィアがオーマイガの目の前のテーブルにパフェを置き、スプーンですくったクリームをオーマイガの口元に運ぶ。


 そして――


「……あ~ん」

「あーーん……」


――至福! オーマイガはシルヴィアに“あーん”され、今こそが至福だと涙を流しかけた。だが、事はそれだけでは終わらない。


「……もっとおいしくする。――おいしくな~れ♪ にゃんにゃん、にゃ~ん♪」


 シルヴィアがまさかの両手をネコにしておいしくなるおまじないをかけた。非常にノリノリだ。



――皆の悲鳴が聞こえる中、ついにオーマイガは撃沈し、またも失神した。

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