第12話 くっころ喫茶 練習③サラ

――くっころ喫茶――



「ご主人様! サラが~お料理がもっとおいしくなるおまじないをかけちゃいます! おいしくな~れ! モエモエきゅん!!♪」


 カレンが撃沈した課題を完璧にこなすサラ。表情もニッコリ笑顔で愛らしい。オーマイガから見ても一辺の隙もない完璧な対応に思えた。接客を始める前の無愛想さが嘘のようだ。


「いいよ! サラ! 素晴らしいよ!?」

「騒がないで、みっともない。これくらいできるわよ」

「あ、はい。ごめんなさい……」


 そして、アリシアが撃沈した褒め殺しもサラは難なくクリア。逆にネルの方が押されていた。


「ああすればよかったのか……」

「サラさんスゴイ!!」

「ぐぬ……悔しいが、やはりサラの方が上手だな」

「……プロ」


 そんなサラを見ていたアリシア、エミリー、カレン、シルヴィアが口々に褒め称える。ネルは焦った。


(いかん! 役を演じるのが上手いサラをみなが参考にしてしまったら正道に堕ちてしまう! ただのメイド喫茶になってしまう!!)


 ネルの冷や汗が止まらない。


(どうするどうするどうするどうするどうするどうするどうするどうするどうするどうするどうするどうするどうするどうするどうするどうするどうする……!!)


 勉強も運動も商才も、全てに恵まれたネルの最大のピンチだった。


 実は、サラ加入について、他のメンバーから不安視する声もあったのだ。



『アレはくっころじゃないよ』

『クールビューティって感じ?』

『クールビューティでもいい! どんとこい!!』

『むしろすました顔を乱れさせたくなるね』


 クルトン、ユート、ハンネス、ジャックの感想だったが、概ねネルも同意だった。だが、思う。


『クルトン。じゃあなんで、最低のくっころ度Cとは言え彼女を連れてきたんだい?』

『そ、それは……』


 そうなのだ。オーマイガからサラを受け取り連れてきたのはクルトンだ。そのクルトンがくっころ度Cと判定しておきながら今さら非くっころを訴えるのはおかしい。


『…………』


 上手く言葉にできないクルトンにネルが優しく声をかける。


『君の選くっころ眼は本物だ、僕が保証する。だからこそ、くっころ度判定とオーマイガさんへの報酬渡しを任せてるんだからね』


 クルトンは真剣な表情でうなずく。そこに自信は持っているのだ。曲げられない矜持きょうじとも言えるだろう。


『そんな君が、Cと判定した。今、非くっころ判定をしているのに。――クルトン。君は彼女に可能性を感じたんじゃないかい?』

『――可能、性?』


 クルトンはネルの言わんとすることを必死に考える。自分はサラのどこにくっころの可能性を感じたのか。


 そしてハッとする。その眼は驚きに見開かれていた。


『そうだ……確かに僕は、あのクールビューティにくっころの可能性を感じた。それは、彼女が理知的過ぎるのに、魔法使いにならず、鎧を着て剣をはき騎士をやってたからだ。どう見ても使い込まれていないピカピカの金属鎧を着て、オーマイガさんにたった一人剣で戦いを挑んだ。手を見てすぐにわかったよ。彼女の手が剣士のものじゃないって。綺麗すぎるんだ。そして負けた彼女はオーマイガさんに自身の生殺与奪を委ねた。その心意気は、立派なくっころだったはずだ』


 そんなクルトンの分析にネルは笑顔でうなずく。弟子の成長を喜ぶ師のように。


『まだくっころとしての目覚めは途中なのかもしれない。でも、本人がそうありたいと望み進んでるのなら、僕は彼女の背を押したい。――そう、思ったんだ……』


 クルトンの演説にネル以外の皆が涙する。――やっていることは人さらいでしかなく、サラの意見など聞いてもいないのだが、クルトンはそう信じこんでしまっていた。


『だから僕は彼女を立派なくっころにしたい!』


 演説はクルトンの覇気こもる宣言と皆の拍手で幕を閉じた。



 ネルですら手をこまねくサラの優秀さに感化された現場に新たな風を吹きこむため、クルトンが動く。


「みんな、ちょっと待ってて」


 そう言って男従業員用の控え室に入っていくクルトン。そう間もなくして戻ってきた。手になにやら大きめのケースカバンを下げている。


「ちょっと失礼します」

「あ、ああ……」


 皆の注目の中、オーマイガのいるテーブルの端にケースカバンを置き、開けて中身を取り出すクルトン。


 クルトンはいつの間にか汚れ一つない真っ白な手袋を両手につけており、貴重品を扱うように丁寧に中身を広げていく。そして、皆に見えるよう広げて見せた。


 果たしてそれは――


「――――ひっ!?」 


 おし殺した悲鳴がもれ聞こえた。声の発生源はそれを間近で見たサラだった。ネルがクルトンの意図を察してフォローにまわる。


「クルトン……それは?」

「バニースーツです。サラにはこれを着てもらいます」


 それは胸元が大きく開いたピッチピチのバニースーツだった。もちろん、ウサギ耳のカチューシャやおしりのふわふわもある。


 男性陣からは歓声が、女性陣からは悲鳴――いや、非難の声がわき起こった。クルトンは意に介さず続ける。


「本当はくっころバーで初御披露目といきたかったんだけど、サラならもう使いこなせると思う。――それに、を持ってるし、使わないのはもったいないと思うんだ」


 クルトンの視線の先を皆が追う。そこにはまぎれもなく巨大な二つの山がそびえたっていた。メイド服ですらハッキリわかるのだ。バニースーツなんて着たら……。


 誰かの喉がゴクリと鳴った。その瞬間――


「――い、嫌……! 嘘でしょ!? ――なんで皆、おかしい! おかしいよ!! ――嫌ぁあああっ!?」


 自身の胸元を服の上から手でおおい隠そうとするも大きすぎてはみ出してしまい逆にエロくなってしまった。ハンネスの鼻血アーチと同時に羞恥で逃げ出すサラ。男性陣は心底ガッカリした。クルトンに至ってはガチで落ち込み床にうずくまってしまう。


 そんな居たたまれない空気の中、最後のメイド――銀髪寡黙系美少女くっころであるシルヴィアが前に進み出た。


「……最後は私。頑張る」


 

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